もしもシャルティア・ブラッドフォールンがポンコツでなかったら……【完結】 作:善太夫
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「──〈
アインズの声が思わず上ずる。無理もない。目の前にあるのは紛れもないワールドアイテム『傾城傾国』だったからだ。かつて古代中国の逸話からつけられたそのアイテムは発動させると対象の一人を意のままにできるというもの。それがこの世界に存在した……これが意味する事は──
「いかん。大至急外に出ているNPCを戻せ! 大至急だ!」
アインズの苛立ちを含んだ声から守護者たちは事態の大きさを知る。かくてリ・エスティーゼ王国からセバスとソリュシャン、トブの大森林からアウラとマーレが呼び戻される。
翌日、主だった階層守護者たちが玉座の間に集められた。
「これから諸君にはそれぞれワールドアイテムを貸し与える。これはいわば保険だ。ワールドアイテム所持者ならば他のワールドアイテムの効果は受けないことは皆も知っているな? まあ、一部の例外については考慮しないことにする」
アインズの指示で元からワールドアイテムを所持していたアルベドを除く五人の階層守護者にそれぞれワールドアイテムがパンドラズ・アクターから渡される。
「……あとはセバスか……」
アインズは手にした『傾城傾国』を眺める。まさかこれをセバスに着せるわけには──
「シャルティア。悪いがお前に渡したアイテムをセバスに渡せ。代わりにお前にはこれを渡しておく」
「──はっ。かしこまりまして御座います」
シャルティアは真剣な面持ちで『傾城傾国』を受け取る。そこには普段のありんす言葉は皆無だった。
「さて……これでワールドアイテムに対する対策はできたわけだ。次はレベル百プレーヤーが敵対する可能性について考える必要があるな。何か思うことがあれば述べてみよ」
アインズは守護者たちを見回す。
「アインズ様。プレーヤーが一人ならば問題ないかもしれませんが、複数となると……ですので階層守護者たちを二人一組にするか、もしくは高位のシモベを複数同行させるのが良いでしょう」
「……うむ。流石だ。アルベド。……私もそう思う」
アルベドの意見に賛同するアインズに異を唱える者がいた。
「私は反対でありんすえ。私はむしろプレーヤーを釣るのが上策だと思いんしんす。傍目には無防備な状態にしていんして、敵が来たらシャドウデーモンが影から飛び出しいんす。如何でありんしょう?」
「ほう。シャルティアの案は私も良いと思いますよ。それにシャドウデーモンならば影の中に五体ほど潜ませるのも面白そうですね」
シャルティアの案にデミウルゴスが賛意を示す。それが決め手となり、各守護者の影にシャドウデーモンを潜ませることになった。
「……ふむ。さて……最後の課題だ。デミウルゴスが捕まえた野盗、そして──ああ、以前に拘束した陽光聖典の生き残りによればやはりスレイン法国の漆黒聖典だそうだ──と、同じくスレイン法国のカイレ──あの『傾城傾国』の所持者だな──彼らをどう使うべきだろうか?」
アインズは更に言葉を加える。
「ちなみに私はスレイン法国、この国を滅ぼそうと思っている」
◆
リ・エスティーゼ王国に対してのデミウルゴスの案、そしてスレイン法国に対してのアルベドの案が同時に動き出す。それは間違いなくスレイン法国の滅亡の瞬間へのカウントダウンとなるものだった。
〈アインズ様。地上のログハウスにカルネ村のエンリという人物が訪ねてきております。なんでも以前に助けていただいたとかで、お礼を一言申し上げたい、とのことですが如何いたしましょうか?〉
「……カルネ村? エンリ……だと?」
アインズは記憶を探る。そしてようやくにして姉妹のことを思い出す。と、静かにシャルティアが口を開く。
「……カルネ村のエンリ……でありんすか。確かカルネ村ではアインズ様はマスクをつけていたんでありんした。つまりはアインズ様と“漆黒”のモモンとを結びつけることができるのでありんすな」
アインズは言葉を失う。
「──うむ。そ、そうだったな…………殺すか?」
──それはアインズと会ったもの全ての死を意味していた。
「それにはおよびますまいでありんす。まだ利用価値は残っていんす」
シャルティアはニヤリ、と嗤った。
◆
エンリは先程から震えが止まらなかった。ログハウスのメイドの案内で豪華な調度品が置かれた貴族社会を切り取ったような部屋に通されたからだ。「飲み物をどうぞ」と言われたがエンリは身動き一つできなかった。
正直、後悔していた。「お礼をしなきゃ」そんな軽い気持ちで訪ねてはいけなかったのだ。
──まだ
「待たせたかな?」
扉を開けて仮面のマジックキャスターが入ってきた。
エンリは小さな声でお礼を言い、大切に抱えたサトイモの入った包みをおずおずと差し出す。カルネ村の誇る特産品も、この場では場違いなだけだった。
「うむ。ありがとう。……ところで一つ頼みがある。無論報酬はやろう。どうかね?」
アインズはエンリに『それ』がいくつも入った袋を見せた。袋の大きさから判断すると百個は入っていそうだった。エンリは村人たちがエンリと同じ幸運を手にする光景を思い描く。
「……そんな……あの……よろしいのですか?」
声が掠れた。無理もない。それがどれだけの価値を持つのか、恐らくエンリが一番わかっていた。
──