地方創生と空き家問題の関係について、石破茂氏はどう語ったか
徳島県には人間より人形の方が多い集落もあります。大都市への集中、現状でよい?(写真:ロイター/アフロ)
大都市圏への人口・資源・機能の集中と、その他の地域での深刻な過疎および社会資源不足。
単純に「大都市圏は恵まれていて、地方は悲惨」という問題でもありません。
社会資源の総量が足りないのでしょうか? あるいは、分配が偏っているのでしょうか?
おそらくは総量不足と分配の偏りの両方の問題です。現在見られる分配の偏りは、総量不足を解決しようとする苦肉の策の一端でもあります。
この全国的な問題を、石破茂氏(現地方創生・国家戦略特別区域担当大臣・自民党)は、どう解決しようと考えているのでしょうか?
2015年11月18日、全国の「大家さん」たちを主対象として「ちんたい協会((公社)全国賃貸住宅経営者協会連合会)」が主催したセミナー「プレミアムセミナー2015 地方創生と住宅ストックの有効活用(参考)」で行われた石破氏の講演より紹介します。
この講演と配布資料では、現状の問題点と望まれる解決が、具体的なデータと実現可能性の高い方策とともに示されていました。
知って考えるにあたり、右も左もないでしょう。
どのような思想信条の方々にも知っていただきたいと考え、記事化することにいたしました。
なお、本セミナーでは、国交省・厚労省・内閣府からの担当者も、行政としての取り組みについて講演しました。セミナー全体については、拙記事
生活保護のリアル~私たちの明日は?:「誰もが「住宅弱者」になりうる日本の構造的問題を考える」
をご参照ください。
(私自身は、石破茂氏の政治的主張の99.8%くらい、特に国家の安全保障に関連する問題・「共謀罪」・夫婦同姓論には、まったく賛成しておりません。念のため)
日本人はいなくなる? 将来人口予測
石破氏が配布資料に用いたグラフに掲載されていた国立社会保障・人口問題研究所の将来人口予測(出生率・死亡率を今後一定で推移するものとして、国際人口移動はゼロとする)によれば、西暦2100年には日本の総人口は約5000万人、2200年には約1400万人、2300年には約420万人、2500年には約44万人、3000年には約1000人になってしまうそうです。
このグラフにある2本の曲線のうち、人口がどんどん減少していって「日本人滅亡?」の方です。

私からのコメント:
出生率・死亡率の推定は、それ自体が学問分野として成り立つほど難しいもの。現在の仮定が将来も成り立つとは限りません。
現状の延長でも、あるいは、ちょっとやそっと出生率が高くなろうとも、2050年ごろには、いわゆる「支える人と支えられる人のバランス」、「現役世代一人で何人の子ども・高齢者を支えなくてはならないか」という問題は、非常に深刻なものになります。
しかし、私が100歳となる予定(笑)の2063年ごろを過ぎると、日本の人口ピラミッドは構成的には「やりやすい」もの、「より少ない高齢者を、より多い現役世代で支える」ものへと少しずつ変わっていきます。今から「子どもを増やしましょう」といっても、その頃、少子化真っ盛りの時期に生まれた子どもたちが40代~60代となるわけですから、急には解決しません。でも子どもを減らさなければ、少しずつでも生みやすく育てやすくすれば、時間はかかっても解決するでしょう。どっちみち時間がかかることは、しかたありません。
というわけで、「少子化自体はそれほど深刻な問題ではないのでは?」と私は思っています。一番しんどい今後50~70年程度の超高齢化期をどう乗り切るか、今すでに大人となっている人々が知恵を絞るべきなのであり、子どもの増える・増えない問題は副次的な問題なのではないかと。「自分たちは乗りきれるんじゃないかな」「『姥捨て』などやらないで、なんとか乗り切ろうじゃないか」という大人と高齢者達の作る社会では、自然に子どもも育ちやすくなるでしょう。それも「子どもを産みましょう」ではなく、今いるすべての子どもを大事にすることから始めてほしいところです。
もしもそれが実現されたら、上のグラフのうち楽観的な見通しの方に近くなるでしょうね。
地方に仕事を、安心して働けるように
日本の「資源」の総量を増やすには?
アベノミクスにより、地域経済でも雇用は改善したけど、生産性は東京が突出して高い。地方と東京は2倍の差がある。人とカネを呼び込める、生産性が高くて活力ある産業を地方に。若者や働き盛りの世代が魅力を感じる職場を、地方に。
私からのコメント:
雇用は改善したけど非正規雇用中心。このことが生産性を長期的に阻害している可能性はないでしょうか? たとえば2007年ごろまでの「日経ものづくり」など製造業の業界誌を見ていると、「派遣労働は人件費圧縮には有効なんだけど、ノウハウやスキルの蓄積という面で大きな問題がある」という問題提起や「人材育成に力を入れ、派遣から正社員になる道をもっと増やしながら、経営課題に困難をもたらさないためには?」という話も結構あったんです。そりゃそうでしょう。近視眼的な労働力として扱われていれば、雇う方も雇われる方も近視眼的にならざるを得ませんもん。しかし、そういう話は、リーマンショックで全部吹っ飛びました。
また、東京と地方の「生産性」を何で測っているのかという疑問を持ちました。これについては出典が明記されていませんでした。
日本の生産性を高めなくては
生産性は世界先進国よりも低い部門が多い。特にサービス業。生産性を伸ばして稼がなくては。それが出来るのは地方。
生産性、世界より低い部門が多い。
電力・ガス・水道、卸売小売、飲食・宿泊が特に低い。
生産性を伸ばして稼ぐ必要がある。それが出来るのは地方。有効求人倍率が1以上で、人手不足。
私からのコメント:
データの出典は、2013年通商白書とのこと。ここで「労働生産性」を規定する要因は何なのか、背景の異なりを考慮した補正はされているのかなど、きちんと検討する必要があると思います。
また、サービス産業の労働生産性を「米国に対して何%か」と比較したグラフが資料にありました。建設で84%であることに対しては、日本では過密地域での作業や狭小住宅の多さを考慮する必要があるかもしれません。金融・保険の71%も、「米国より低い」はむしろ良いことなのかもしれません。電力・ガス・水道で38.1%となっていることに対しては、逆に米国の高さの方に問題があるのかもしれません。卸売小売(42%)・飲食・宿泊(27%)・運輸・倉庫(62%)は、いずれも過重労働・ブラック労働が問題になりやすいところです。ブラック労働による生産性の低下という可能性も見るべきかと。
この状況は住から変えよう
住まいは、まだまだ延びる余地がある。
日本は、住宅が耐久消費財になっている唯一の国。30-40年かけてローン払い終わったら家の価値ゼロ。
欧米では、家は100年、200年もつのが当たり前。
この現状をどう変えていくか。
私からのコメント:
ごもっともです。変える必要があります。でも変えるまでの「今」をどうするのか。長期ローンを組んで家を買うこともできない人々の「住」をどう支えるのか。たとえば民間賃貸を借り上げて公営賃貸住宅にして安価に提供するとか、低所得層には生活保護の住宅扶助相当額の家賃補助を無条件に出すとか。自民党として考えていただきたい。
中高年サラリーマンよ、故郷で幸せになろう
私は58歳。50代、60代で、故郷に帰って幸せになることを推進したい。
サラリーマンの人生は運次第。部長になれなかった人、課長になれなかった人がたくさんいる。
いろんな企業を経験した方々が、50代で生まれ故郷に帰ったら?
帰って仕事があるかも問題。さらに住まいの問題。
せっかく東京で、あるいは松戸市・柏市などで手に入れてローンも終わった家に、誰か住んでくれるのか。
自分は故郷に帰りたいとしても、奥さんがその気になってくれるか。
関東以外の出身の男性は50%が故郷で暮らしたい。でも、同行したい奥さんは30%。
私からのコメント:
前掲「生活保護のリアル~私たちの明日は?」記事にも書いたけれども、50代で課長にも部長にもなれず、しかし会社に勤務し続けて給料をいただくことはできていて、ローンを完済できたというのなら、イマドキそれは恵まれすぎた部類のサラリーマン。到底、モデルにはできないと思う。
「奥さん」という用語にも抵抗がある。妻に仕事があって東京を離れにくいケースもある。夫の出身地ではあっても自分には馴染みのない土地に、積極的に「行きたい」という妻の方が珍しいのは当然でしょう。
中古住宅市場を、活性化させ機能させよう
日本では、中古住宅市場が完全には機能していない。
留守宅になる家に、誰か住んでくれるのか。リフォームは誰がしてくれるのか、リフォーム資金はどう融資が受けられるか。
賃貸業界に、金融、ハウスメーカーの協力があれば、法制度整備が可能になる。
借家の空き家率、18.4%。これをどう減らすか。
世帯数、2015年、たぶん現在ピークなのが19県。これから減っていく。
人口が減るというのはどういうことか。
地価は当然低落する。
どうやって、耐震性・安全性を高めるか。
消費者が住宅を選ぶ時代がくる。
どうやって賃貸住宅の品質を上げ、中古住宅市場を機能させるか。
私からのコメント:
まったく同感です。まっとうな都市計画・まちづくりのもと、これから100年200年かけて、耐久消費財ではないインフラとしての住宅がある日本を。ここで「まっとうな」とは、ゼネコンの利権で決まらない・低所得層や生活保護利用者や路上生活者も包摂する仕組み、それも「ガス抜き用の差別対象」になる身分やカーストとして組み込むのではない「包摂」が自然に成り立つ仕組みを、といったことです。
田舎を、暮らせる場所に
自分も50代になって、同窓会が増えてきた。「お前帰ってこないか」という話もある。
(「ここで問題になるのは暮らせるかどうか。いつまでも自分で運転できるとは限らない」という話があったのだと思いますが、メモ漏れ)
田舎のバス事業は、赤字のところが多い。
でも岩手・福島、田舎ではすぐ大黒字に。バスのルートとスケジュールを利用者に最も便利にした結果。
私からのコメント:
バス路線がどれだけ充実しても、自動車という「足」が完全に他人任せになるのは不安要因。乗り合いタクシーなど、さらに柔軟な方法も併用し、本人の経済力や状況に左右されない移動の権利として「住」の権利とともに確立してほしいところ。
観光で地方に仕事を作ろう
観光、外国からもっと日本に来ていいはず。今の日本は、先進国最低レベル。
四季、自然、文化・芸術、食べ物、日本ほど揃っている国はない。
どうすれば観光客を増やせて稼げるか。
仕事は作れるはず。
私からのコメント:
ここで「大規模製造業を地方に」という話にならなかったことには、大いに現実的だと思いました。「大規模製造業(原子力発電所でもいいんですが、その手の一点豪華主義的な何か)を地方に誘致すれば地方振興ができる」がどういう結果になったか、もう言うまでもありませんしね。
ただ観光、特に海外からのお客さんを主対象にした観光は、やはり「相手の事情次第でどうにでもなる」という不安いっぱいの産業でもあります。内需で一定の底支えがなされるような産業で堅実に「地方に仕事を作る」を実行した上に観光も、が良いのではと思います。
堅実な産業とは、農業とか農業とか農業とか……。TPPについて一言言いたいのはやまやまですが、ここではやめておきます。私の考えにご関心ある方は、11月に公開した拙記事
「TPPはチャンスではない! 日本の農業は確実に衰退する 北海道大学大学院農学研究院・柳村俊介教授に聞く」
をどうぞ。
航空業界にもご協力願って、東京一極集中の解消を
賃貸業界の皆さんの協力で、住宅については前進するはず。
田舎に一緒に来てくれない奥さんに対しては、東京に住み続けていただきましょう。
でもJALやANAに「空気を運ぶよりマシでしょう」と、年に何回か半額フライトを提供してもらって。「大人の休日」を進展させた形で。
今を生きる私たちは、どう衰退させないで日本を次世代に渡すか。自分たち世代の責務。
伸びしろがないならしかたない。でも伸びしろはまだまだある。
そのためにも東京一極集中解消を。
賃貸住宅業界に求めること
賃貸の方々にどう協力していただけばよいか。
どうすればお客さん本位の「ああそうだったんだ」になるかを考えてほしい。
1800市町村の首長にまかせておかないで、民間の力で。
医療と介護をどう組み合わせるかが、最大のポイント。
定期借地権が活用できるかどうか、地域地域で考えるべき。
新興住宅地が伸びていく時の行政コストは大変。これを中心街に寄せていくにはどうすればいいか。
各自治体で、活性化、衰退防止に知恵を。
生の声、切実な要望を寄せてほしい。
(石破氏の講演、ここまで)
最後に、石破氏へ私から
生活保護問題を中心に執筆活動をしている私は、石破氏が「皆さん」として想定している層に、低所得層・生活保護利用者・生活困窮者はどのように含まれているのだろうかということが、終始一貫して気になりました。
このセミナーを題材とした「生活保護のリアル~私たちの明日は?」記事にも書きましたが、
「50代、東京で就職して課長にも部長にもなれなかったけど、まだ会社員が続けられており、結婚できて、妻は専業主婦でいられて、家のローンも既に終わった」に加え、「大学生の息子がいるけど、学費ももう2年か3年」というサラリーマンは、私と同世代となりますが、かなり恵まれた部類に入るでしょう。
そういった人生コースのレールから落ちて
「エリートサラリーマンだったが、介護離職の末に生活保護しかなくなった」
「堅実に勤め続ける女性会社員だったが、難病を患って生活保護しかなくなった」
といった方々は、石破氏のいう「地方で幸せになる」レールにも乗れません。
そのような方々に対する、あからさまな排除の意志は、少なくとも今回の石破氏の講演には見られませんでした。しかし「包摂する」という意志表示もありませんでした。といいますか、登場しませんでした。
聞くところによれば、石破氏はクリスチャンだということです。
キリスト教関係者の中には「石破茂のいうキリスト教は、キリスト教ではない」という意見もあります。
私自身も、全然敬虔じゃない、チャランポランなクリスチャンとして、石破氏にお尋ねしたいことがあります。
「あなたはクリスチャンとして、キリスト教が最も大切にする『神の前の平等』についてどう考えていますか? あなたが『神の前の平等』というとき、『平等』の対象となる人に、低所得層や生活保護利用者や生活困窮者は含まれていますか? 含まれているとして、あなたにとって『(神の前の)平等』の意味内容は何ですか?」
と。
石破氏の地方振興構想は、大いに頷けるところも多く、実現したらそれはそれで素敵だろうなと思いました。
しかし、なにごとにも失敗や「こんなはずでは」、あるいは不測の事態はつきものです。
勇を奮って地方に移住する人たちが路頭に迷ったり、藤田孝典さんのいう「下流老人」化したりしないよう、どうぞ社会保障を後退させず充実させることも、お忘れなくお願いします。