廃用症候群
2007/06/01
人間の身体的・精神的機能は使わなければどんどん衰えていくことが知られています。そしてその衰えは我々の想像をはるかに超えたスピードで起こります。
例えば健康な人であっても、ベッド上で安静臥床を続けていると、下肢の筋力は1週目で20%、2週目で40%、3週目で60%も低下すると言われています。1週間で20%も低下するとは驚きですね。しかし、風邪で1週間寝込むことってありますよね?
もちろん機能低下は筋力だけの問題では済まされません。体を起こそうとするとめまいがして座ることができなくなってしまいますし、安静臥床によるさまざまな悪影響が起こってきます。
このように使わないことによって様々な身体的・精神的機能低下が生じますが、それら一連の症状を「廃用症候群」と言います。
廃用症候群の症状
使わないことによる機能の衰えは、筋肉・骨・関節・皮膚・心臓・呼吸器・消化器・尿路等身体の多くの部分に生じます。筋肉では筋萎縮や筋力低下を、関節では関節拘縮を、皮膚では褥瘡等を来すとともに、意欲低下や痴呆等精神機能の低下も現れます。
このように廃用症候群の症状は実に様々で、身体的にも精神的にも起こってきます。そしてこれらの症状が単独で存在することはまれで、ほとんどの場合いくつかの症状が同時に存在し、しかもそれらが相互に影響しあっていると考えられます。
廃用症候群の悪循環?
何らかの原因によって廃用症候群が起こります。その廃用による下肢の筋力低下により歩行が困難になると、生活はさらに不活発になります。不活発になれば廃 用症候群は増悪し、筋力低下は進行、歩行能力は更に低下します。そのころには最初は目立っていなかった他の身体的機能の低下も顕著になり、意欲低下等の精 神的機能の低下も現れてきます。そのため生活はますます不活発となり、廃用症候群の悪循環に陥り、最終的に寝たきり状態になってしまいます。
廃用症候群の予防と治療
1日の安静によって生じた機能低下を回復させるためには数日から1週間かかり、1週間の安静により生じた機能低下を回復するには1ヶ月以上かかるといわれます。特に高齢者では廃用症候群を起こしやすく、また一旦起こしてしまうと若年層に比べて回復には時間がかかり、元の状態へ回復することはきわめて困難になります。従って廃用症候群は予防することが何より重要であり、万一発生した場合にはできるだけ早くそれに気付いて廃用症候群の悪循環を断ち切ることが重要です。
予防のためには日常生活での活動性を向上させることが大切です。日中体を横にすることなく、自分でできることは自分で行い、介護を要する場合でも過剰な介護を避け、家事や趣味等の活動や社会活動等もできることは積極的に行い、生活全般の活発化、社会的活動範囲の拡大を図ることが必要です。
このように廃用症候群は誰にでも起こるもので、特に何らかの疾患で入院されておられる患者さまではその危険性が高いと思われます。そして病気は治ったけれど廃用症候群のために動けない、帰れないということが起こることがあります。そういった方々の廃用症候群の予防、治療にリハビリテーションがお役に立ちます。
運動器障害 | 筋萎縮、筋力低下、関節拘縮、異所性骨化、骨粗しょう症、腰背部痛、肩関節周囲炎 |
循環・呼吸障害 | 起立性低血圧、深部静脈血栓症、肺塞栓症、沈下性肺炎、浮腫、褥瘡 |
自律神経障害 | 便秘、尿失禁、便失禁、低体温症 |
精神障害 | 抑うつ、無為無欲状態、食欲不振、拒食、睡眠障害、不眠、認知症 |
その他 | 尿路感染、尿路結石、脱水 等 |
リハビリテーション科 森 憲司