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大高宏雄 映画なぜなぜ産業学 (第4回) 『カメ止め』に続き『若おかみは小学生!』が前代未聞の映画興行にー映画に魅せられたファンがSNSで観客を増やし、映画館を動かした

『若おかみは小学生!』
『若おかみは小学生!』

 連載4回目にして、さらに映画興行の話を続ける。タイトルが「映画なぜなぜ産業学」なので、なるべくバリエーションを多くしようと考えているが、興行分野のダイナミックな動きは、やはり無視できない。すでに興収28億円を超えた『カメラを止めるな!』が引き金になったかのように、今年後半から様々なヒットの形が生まれているのである。その代表的な作品が、老舗旅館を舞台に、小学生の「おっこちゃん」が奮闘するアニメーション『若おかみは小学生!』(以下、『若おかみ』)であった。

 『若おかみ』には、とにかく驚いた。何が驚いたかといって、映画の魅力にはまった多くの映画観客=ファンの声の大きさである。当然、それは今どきの定番ツールであるSNSなどで発信された。ただ、それが単に大きいというのであれば、それほど珍しい事態ではない。その大きさに呼応したかのように観客動員が増え、それに伴い映画館側が上映の編成状況を変えたことが、驚きを何倍にもしたのである。

 スタートはひどい状態だった。全国247スクリーンで、9月22日、23日(土日)の2日間の興収が3489万円。これでは、最終で1億円ちょっとである。上映回数がどんどん減らされ、数字は伸びようもないからだ。配給関係者も、あまりの数字の低さに愕然としたという。事前に、作品の評価は高いようにも聞いていたので、私もこのスタートには奇異な印象をもった。

 何が起こったかといえば、客層の読み違いだった。原作は、ベストセラーにもなった有名な児童書だが、完結編の発行時からすでに歳月が経っている。原作の強みを考慮し、親子連れを視野に入れたが、この層がそれほど膨らまなかった。テレビ放映もあったが(劇場版のほうが企画としては先だった)、児童書人気は現在では広がりが限定的だったようだ。普通なら、これでジ・エンドだ。だが、これで終わらなかった。

 10代から30代あたりの若者層が、映画の面白さ、素晴らしさをSNSなどで発信し始めた。この数が膨大であり、映画のツイート数ランキングで、何と2週連続トップに立った(9月最終週と10月初週)。これは、その期間のツイッター上で、映画の情報量が一番多かったことを示す。スタート時、興行が低迷した作品が、ツイッター上ではもっとも情報が飛び交うという稀有な現象が起きた。

 異変は、2週目半ば頃から起こったという。都内のある映画館で聞いたのは、スタート時、あまりに入りが悪いので、2週目に入った頃から5回の上映回数を2回に減らしたことだった。それが、2週目半ばから数字がぐんぐん伸び始めたので、座席数の多いスクリーンに〝格上げ〟をした。上映回数は夜の回を増やし1日3回に戻した。この〝拡大化〟は、メイン館の1つ、新宿バルト9でも似た状況にあった。SNSなどの発信が、猛烈な効力を発揮していったとみえる。SNS発信、若い層の関心の高まり、興行の盛り上がりといった好循環のなかで、映画館側も一度は減らした上映回数を多くせざるをえなくなった。

『若おかみは小学生!』(C)令丈ヒロ子・亜沙美・講談社/若おかみは小学生!製作委員会

 このような推移があって、3週目の特に日曜日と休日の月曜日の数字が、とんでもなく伸びた。日曜日の10月7日は、前週の131%の興収。8日は、7日の数字を上回った。私が9日、数字の上昇傾向を「前代未聞の興行展開」としてツイッター上に乗せると、リツート数が何と4000を超え、それはまさに、『若おかみ』の興行をさらに盛り上げようとのファンの熱烈な応答にも見えたのである。さらに、このツイートが引き金にもなって、ネット配信のFRIDAYデジタルが「異例の興行」として記事化すると、ネット上で大きな反響が巻き起こった。それが、12日のことだ。

 私も連載している毎日新聞夕刊のコラム(12日付)で『若おかみ』のことを記事化したが、興行面、メディア面におけるその盛り上がりが翌週どうなったかというと、『カメラを止めるな!』でいち早く興行の名乗りを上げたTOHOシネマズがまた特異な動きを見せたのだった。

 TOHOシネマズは、そもそも『若おかみ』を都内中心に最初から上映していたが、あまりの不入りに1週間ほどで上映を打ち切った経緯がある。それが15日、何と日比谷、新宿、上野で19日からの再上映を決め、新たに渋谷、日本橋でも同日から上映することになったのである。3週目の数字の伸び、SNS、ネット上での盛り上がりを見ての判断だった。さあ、第2の『カメラを止めるな!』になるのかと、期待は一段と膨らんだ。だが、3週目と4週目の土日の成績を見てみると、なかなか期待どおりにはいかない現実も見えてきた。

 4週目の13、14日の土日は、前週の91%の興収だった。単純にいうと、この時点で伸び率が収まったようにも感じた。普通の作品なら、非常に少ない落ち率ではあるが、3週目の飛躍ぶりと比較すると、少し弱まった感は否めない。5週目の20、21日の土日も、前週の82%の興収に留まった。19日からはTOHOシネマズのシネコンが増えたにもかかわらず、この落ち率は意外だった。当然、もっと伸びていい劇場編成になっていたからである。ここに、映画興行というものの奥深さと難しさを読み取ることができるのではないかというのが、私の今の感慨である。

 『若おかみ』の最終興収は、現段階では4~5億円が一つの目途だという。当初、1億円規模と見られた作品が、4倍から5倍になるなんて、なかなかあることではない。それを指して「前代未聞の興行」と言うことはできたと思う。よくぞ、ここまで膨らんだものだと、改めて驚かざるをえない。それもこれも、観客、ファンが、映画に対する思いの丈を存分に、しかも強烈に発信したことから動いた現実である。

 公開後、高額な宣伝費が投入されたわけではない。映画に魅せられたファンが観客を増やし、映画館を動かしたのだ。それはまさに、一心不乱な無償の行為だった。だから、伝わったのだ。私が、『カメラを止めるな!』とはまた別の意味で、『若おかみ』が今年のエポックメイキングな興行であったと判断する理由が、それなのである。

『若おかみは小学生!』(C)令丈ヒロ子・亜沙美・講談社/若おかみは小学生!製作委員会

 『若おかみ』は、実にセンシティブな作品だと思う。いわゆる、アニメーションの人気テイストが満載されているわけではない。〝仲間〟の力を借りながら、自分の行く道を切り開いていく「おっこちゃん」の健気な姿が、多くの人の心を打ったのだろう。人生のとば口に立っている若い彼女が示した行動力から、教えられることが多いのだ。ただ、一過性の派手さとは無縁であって、しみじみと心に響いてくる作風でもあり、広範囲の人たちの関心を万遍なく獲得していく強固な商業性とは、一線を画しているのかもしれない。今回の興行を契機に、息の長い浸透力、持続力を見せて、これからもしだいに支持者の数を増やしていく作品だという気がする。その思いを強くさせたのが、今回の「前代未聞の興行」のありようではないのか。私は、そう思っている。

プロフィール

大高 宏雄(おおたか・ひろお)

1954年、静岡県浜松市生まれ。映画ジャーナリスト。映画の業界通信、文化通信社特別編集委員。1992年から独立系作品を中心とした日本映画を対象にした日プロ大賞(日本映画プロフェッショナル大賞)を主宰。キネマ旬報、毎日新聞で連載記事を執筆中。著書に『映画業界最前線物語』(愛育社)、『仁義なき映画列伝』(鹿砦社)など。

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