マレーシアを旅していた時の話。
コロニアルな町並みとビーチで有名なペナンという島にいた。中華系、インド系、マレー系と、異なる文化をもった人々が暮らしている場所だった。
私はバツーフェリンギという地域の、海沿いの安宿に泊まっていた。宿の目の前はビーチになっていた。
一人だったし、お金もあまりなかったから、マリンスポーツをするでもなく、何か買い物をするでもなく、日がな海を見ながらごろごろして過ごしていた。
毎日昼前に起きて、屋台で甘いソースのかかったサテーという焼き鳥を食べた。夜は中華料理か、もしくは少し辛いマレー料理を食べた。その後、少しお酒を飲んで、地元の若者とビリヤードをしたりした。
私の泊まって宿は中華系で、小振りだけどきちんと整理された仏壇があったのを良く覚えている。若い夫婦と、おばあちゃん。
それから「ぺぺ」という名前の小さな女の子がいた。
私がいつも宿にいるから、ぺぺもすぐになついて、毎日宿の庭やテラスで遊んで暮らした。
ある日、早口に中国語で何かを言うので、おばあちゃんに翻訳してもらったら「ずっとここにいるよね?」と何ども同じ事を私に聞いていたようだ。
ファミリーには、市場にも連れていってもらったし、朝食や昼食を用意してもらったりした。
居心地が良くて、ずるずると数週間滞在したけれど、ある晩にこのままではいけないと思って、また知らない町に行く事にした。
誰もが寝ている早朝に、チェックアウトすることにした。小雨が降っていたと思う。
鍵を受付に返して、宿を出る瞬間、誰もいないと思っていた廊下の先の薄暗がりに、寝ぼけ眼のぺぺがぼんやりと立っていた。
「さようなら」と呟くと、ぺぺが走り出したので、逃げるように宿を出た。
私はきっと、もうペナン島を訪れないだろうし、ぺぺも、私の事をすぐに忘れてしまうだろう。
そう思うと少し悲しかった。
最近、私の娘もペペの年頃に近づいて来た。いつかノースキーのゲストさんとの別れを経験するのだろうか。
そうだといいな。