那覇市役所(沖縄県那覇市)前の路上に怒声が響く。
「みなさん、シナ(※中国に対する蔑称)がどんな国なのか知っていますか!」
拡声器を使って街頭宣伝をしているのは、地元の保守系団体だ。毎週水曜日の昼、この場所で主に「反中国」を訴えている。
「沖縄は日本でしょ!」と記された幟を背にしておこなわれる街宣は、地元ではおなじみの風景となっている。
リーダー格の男性に話しかけたが、完全に取材拒否。
「あなたとは話したくない。話しかけるな」
そりゃあ、失礼しました。
ならば、ほかのメンバーに声をかけようとするも、リーダーがすかさず注意を促す。
「安田とは一切のコミュニケーションを取らないように。名刺をもらってもダメ」
……厳しい。右派を批判的に取材していると、こういうこともある。
しかたなく、おとなしく街宣に耳を傾けた。
「シナに対してはアメとムチなんて通用しない。ゲンコツだけでいい!」
「中国人観光客に油断しちゃいけない。シナ共産党の命令で一斉に立ち上がって県庁を襲撃する」
いわゆる中国脅威論だ。
今世紀に入ってから「嫌韓・反中」の言説が勢いを増してきたが、地理的に中国とも近い沖縄では、「嫌韓」以上に「反中」が猛威をふるっている。
・沖縄は中国に侵略されつつある。
・いや、すでに支配下にある。
・沖縄を訪れる観光客は中国の工作員
・反米軍基地運動を指揮しているのは中国
こうした文言がネットで流布されているばかりか、前述したような街宣が繰り返される。もちろん”発生源”が沖縄とは限らない。ネット上では沖縄への偏見を露わにした”本土発”と思われる書き込みも多い。
8月におこなわれた県知事選でも、玉城デニー氏(現知事)に対して、すさまじいネガティブ攻撃が加えられたが、その多くが"中国がらみ"だった。
選挙期間中には「デニーの背後には習近平がいる」といった言葉がネット上にあふれ、当選後も「これで沖縄は中国に侵略される」といった文言が流布されている。
デニー氏が知事就任後、直ちに中国が攻めてくるといったウワサも散見されたが、就任後1ヵ月を経たいまも、沖縄ではそうした予兆すら見ることはできない。
こうして、ネット上の陰謀論は垂れ流されたままとなり、多くの人々の目にさらされ続けることになる。
県内主要都市では、中国の脅威を煽ったDVDが各戸のポストに投函された。
チベット弾圧などの映像を交えながら、地元では知られた女性保守活動家が「中国の侵略のターゲットは沖縄です」と訴える内容だ。
先ごろ亡くなった翁長雄志氏が県知事となった2013年頃から、沖縄では中国脅威論が吹き荒れるようになった。
「翁長さんが辺野古の新基地建設に反対の意思を示したことで、政権与党の支持者、あるいは右派保守派の人々が危機感を覚えたのではないか」
そう話すのは地元記者だ。
「そのあたりから、『翁長さんが中国にコントロールされている』といった話が、まことしやかに流れるようになりました。日本政府と対立しているから親中に違いないという単純な話ですが、単純であるからこそ、一定のインパクトをもって広まったように思います」
いや、「親中」どころか反日、非国民といったレッテルが翁長氏に向けられた。ネット上では中国の傀儡といった批判も少なくなかった。「沖縄は、すでに中国に侵略されているも同然」といった言説はここから生まれた。
もちろん、沖縄県外の人々にとっては「ネタ」として消費されるだけだ。
だが、沖縄では一部の人に深刻な不安を与えたのだった。