亥の子と呼ばれる行事がある。
「イノコ」と読む。
11月の亥の日に行われる。西日本のいくつかのエリアではいまでも行われている。
知ってる人はよく知っているが、馴染みのない人も多いだろう。
「亥の子」は何だかハロウィンに似ている。そこがちょっと興味深い。
亥の子について、「岡山の津山」出身の知り合いから聞いた。
津山の農村出身の彼は、子供のころ、毎年、亥の子に参加していた。地元ではいまでもやっている。
亥の子は、子供にとってとても楽しみな行事だったという。
ちなみに「祭り」とは言わない。「亥の子」と呼んでいる。「村の子供のイベント」という位置付けで、祭りというほどのものではないのだろう。
今年の11月の亥の日は、一の亥が3日で、あと15日と27日である。かつては、一の亥が武士の子の亥の子、二の亥が農家の子の亥の子、三まであるときはそのほかの子の亥の子、とされていたことがあったらしい(宮本常一『民間暦』)。
時期的にもハロウィンに近い。
以下、その津山のあるエリアでの亥の子を紹介していく(地域によってかなり違う行事であるらしい)。
参加するのは小学生だけである。1年生から6年生までが参加する。中学生になるともう参加しない。神の子ではなくなるからだろう。同一エリア(祭りを一緒にやるエリア)の子たちが集まっておこなう。
まず「亥の子石」と「御幣(ごへい)」が用意される。
亥の子石は、そこそこの大きさの石(陸上競技の砲丸より少し大きいくらい)に綱を四方に取り付けた石である(ときによっては綱の数が増える)。
御幣は竹に紙をつけたもの。子供たちは単に「弊(へい)」と呼んでいた。御幣と書いたほうがわかりやすいので、そう記しておく。
子供たちで亥の子石の綱を持って、それを四方へ引っ張って持ち上げ、打ち下ろす。土を叩くわけである。土を搗(つ)く、と文献で表記されているものもある。
「御幣」と「亥の子石」は一輪のクルマ、いわゆる「ネコ」に積んで運んでいた。ネコを転がすのは少し技術がいるので、上級生の仕事である。
最初に神社にお詣りして、土を叩く。
そのあと、エリア内のすべての家をまわる。「亥の子やらせてください」と断って、その家の庭などの土を叩く。本来は田畑に石を打ちつけていたらしいが、いまはだいたい庭でやるという。農家が多いので、土の庭はふつうにある。ときどき敷地内を舗装してしまった家があって、そこでは家人の指示によって、花壇などの土の部分を石で搗く。