国連「持続可能な開発目標(SDGs)」政府指針案は、貧困・ジェンダー・女性・障害をどう見ているか?

なんといっても貧困の解消が大事。

国連「持続可能な開発目標(SGDs)」は、各国が2030年までに、自国内で・もしくは他国と共同で取り組むべき17の目標から成っています。

日本政府は現状をどう捉え、どのように目標を達成しようとしているのでしょうか?

一市民に出来ることは何もないのでしょうか?

国連「持続可能な開発目標(SGDs)」の内容は?

「持続可能な開発目標(SGDs)」は、以下の17項目から成っています。

  1. あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つ
  2. 飢餓に終止符を打ち、食糧の安定確保と栄養状態の改善を達成するとともに、持続可能な農業を推進する
  3. あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進する
  4. すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する
  5. ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る
  6. すべての人々に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する
  7. すべての人々に手ごろで信頼でき、持続可能かつ近代的なエネルギーへのアクセスを確保する
  8. すべての人々のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワークを推進する
  9. レジリエントなインフラを整備し、包摂的で持続可能な産業化を推進するとともに、イノベーションの拡大を図る
  10. 国内および国家間の不平等を是正する
  11. 都市と人間の居住地を包摂的、安全、レジリエントかつ持続可能にする
  12. 持続可能な消費と生産のパターンを確保する
  13. 気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を取る
  14. 海洋と海洋資源を持続可能な開発に向けて保全し、持続可能な形で利用する
  15. 陸上生態系の保護、回復および持続可能な利用の推進、森林の持続可能な管理、砂漠化への対処、土地劣化の阻止および逆転、ならびに生物多様性損失の阻止を図る
  16. 持続可能な開発に向けて平和で包摂的な社会を推進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供するとともに、あらゆるレベルにおいて効果的で責任ある包摂的な制度を構築する
  17. 持続可能な開発に向けて実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する

「今、日本が『出来てます!』と胸を張れることは、ほとんどないなあ……」

というのが私の実感です。皆様はいかがでしょうか?

日本政府は、一応やる気

しかしながら、首相官邸内に「持続可能な開発目標(SDGs)推進本部」が設置され、持続可能な開発目標(SDGs)推進円卓会議も開催されています。

円卓会議のメンバーは

有馬 利男 グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン代表理事 富士ゼロックス株式会社エグゼクティブ・アドバイザー

稲場 雅紀 「動く→動かす」事務局長

大西 連 自立生活サポートセンター・もやい理事長

春日 文子 国立研究開発法人国立環境研究所特任フェロー

蟹江 憲史 慶應義塾大学大学院教授

黒田 かをり 社会的責任向上のためのNGO/NPOネットワーク CSOネットワーク事務局長

河野 康子 一般社団法人全国消費者団体連絡会事務局長

近藤 哲生 国連開発計画駐日代表

高橋 則広 年金積立金管理運用独立行政法人理事長

竹本 和彦 国連大学サステイナビリティ高等研究所所長

田中 明彦 東京大学東洋文化研究所教授

根本 かおる 国連広報センター所長

二宮 雅也 日本経済団体連合会企業行動・CSR委員長 損害保険ジャパン日本興亜株式会社会長

吉田 昌哉 日本労働組合総連合会総合国際局長

です。

SDGsによれば、解決しなくてはならない問題の第一位は「貧困」なのですが、なぜ「貧困」そのものの状況の真っ只中にある人がいないのでしょうか? その状況をよく知る人である支援団体の理事長である大西連さんしか見当たりません。

また、障害者に関わる課題も数多くあるというのに、障害者は一人もいません。

人選からは、日本政府の「やる気」が伺えません。

国連が難民キャンプなどでの人道的支援の場で、自治組織の立ち上がりを支援する際、最初から「マイノリティに参加させる」「立場の弱い人の代表を参加させる」はセオリーになっています。

日本政府が極端に異なることをするのは、かなり問題なのではないかと思います。

日本政府は、なぜか現状に自信まんまん

政府の発表した実施指針(骨子)を見ると、日本政府は、なぜか自信満々です。

わが国は既に、今後の世界における持続可能な経済・社会作りの先駆者、いわば課題解決先進国として、SDGsの実施に向けた模範を国際社会に示すような実績を積み重ねてきている。

だそうですよ(棒)

さらに今後、

わが国は、SDGs実施における世界のロールモデルとなることを目指し、国内実施、国際協力の両面において、世界を、誰一人取り残されることのない持続可能なものに変革するための取組を進めていくことを目指す。

のだそうです。

「世界を、誰一人取り残されることのない」の「世界」「誰一人」には、日本国内の低所得層、特に生活保護で暮らしている人々は含まれていないんじゃないかなあ? という気がしてなりません。

それじゃ、誰も取り残さなかったことにはなりませんって。

日本政府方針にツッコむ

具体的に何をするかは、実施指針の付表に示されています。あんまり具体的じゃありませんけど。

貧困・ジェンダー・女性・障害について、気になる方針を転載し、ツッコんでみます(政府指針の末尾の数字は「持続可能な開発目標(SDGs)内での課題番号)。

貧困

● 子供の貧困対策の推進(内閣府)【1.2】

(ツッコミ:子どもの貧困は、貧困状態を解消するだけのカネが子どもに回らないと解消しないし、親の貧困も同時に解決する必要があります。2013年、生活保護世帯に対する生活費・住居費削減に加え、生活保護費のうち子育てに関わる費用も削減しようとしていますが、それで子どもの貧困にどう対策できるんでしょうね?)

● 初等中等教育の充実(文部科学省)【4.1】

● 幼児教育の充実(文部科学省)【4.2】

● 高等教育の充実(文部科学省)【4.3】

● キャリア教育・職業教育の充実(文部科学省)【4.4】

(ツッコミ:以上、充実させるのは結構なんですが、費用がかかりすぎです。義務教育だって「なんちゃって無償」化していますし、高等教育には奨学金問題があります)

● 長時間労働の是正(厚生労働省)【8.5】

(ツッコミ:そのためには労働の対価、具体的には最低賃金を上げることは必須なんですが、分かってます?)

● 若年者雇用対策の推進(厚生労働省)【8.5】

(ツッコミ:もちろん大切なことです。でも年金受給年齢を上げていき、高齢の人が職業にしがみつかざるを得ない状況だと、若い方の就労機会を減らすことになってしまいます。分かってます?)

ジェンダー・女性

● 女性に優しい農林水産業の推進(農林水産省)【2.3、5.5】

(ツッコミ:その職業そのものを女性にとってやりやすいものにするのは結構なんですが、文化・風土に染み付いた女性差別に対して手を打たないと意味ありませんって)

● 女性自衛官の登用促進(防衛省)【5.5】

(ツッコミ:「女性も軍人になれる」がジェンダー問題を解決しているかどうかは微妙なところです)

● (略)男女共同参画を推進する教育・学習の機会の提供(文部科学省)【4.5】

(ツッコミ:「推進する」「機会の提供」なんですね? 男女共同参画の「達成」「実現」ではないんですね?)

● 女性の活躍推進のための開発戦略(外務省、JICA)【4、5、16.7】

(ツッコミ:これは国外の話なんですけど、まず日本でよろしく)

障害

● 公共交通機関のバリアフリー化の推進(国土交通省)【11.2】

(ツッコミ:現状がひどすぎるんです。先進国にありえない)

● 障害者雇用の推進(厚生労働省)【8.5】

● 障害者の職業訓練(厚生労働省)【4.5】

(ツッコミ:まるで「障害者が働かないからいけないんです」と言いたくてたまらないかのような書きぶり(うへっ!) 生きられて育つことができて、教育が受けられて暮らせて、はじめて職業生活が可能になるんです。障害者福祉(障害年金を含む)を削減させておいて、何なのよ?)

● 特別なニーズに対応した教育の推進(略)(文部科学省)【4.5】

(ツッコミ:あくまでも障害児と健常児を分ける分離教育はやめない、ということでしょうか? でなければ「一方で統合教育を推進」とはっきり書いておいていただきたいです)

● 「心のバリアフリー」の推進(法務省)【10.3】

(ツッコミ:いやもうキモくてゲロッパしそう。なんで「障害者差別をするな、差別とは……である」とはっきり言わないんですかねえ? カネつかって障害者の不利を解消しないんでしょうかねえ?)

一市民としてパブコメは送れます、ただし本日が締め切り

2016年11月19日に発表されたこれらの指針案に対しては、パブリックコメントが募集されております。ただし本日が締め切りです。

他にもしなくてはならない仕事や用事がたくさんある職業人としては、「そもそも募集開始から締め切りまでの期間が短いので対応が難しすぎるんですけど?」と泣きたいのですが、パブコメは、フォーム(パブコメ募集ページ http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=350000136&Mode=0 下部)、Eメール(SDGs-honbu1@mofa.go.jp)またはFAX(03-5501-8452)で、本日2016年11月1日、日付が変わる前までは受け付けられています。

「ブラック労働を野放しにしておいて、何ゆってんだよー!」の一言でも、送らないよりはマシだと思う方、ぜひどうぞ。

パブコメを送ってみた

そんなわけで、パブコメを作成して送ってみました。

私は、車椅子を利用する女性障害者であり、貧困問題を中心に取材・執筆・報道を続けるライターです。

2016年2月、国連女性差別撤廃委員会の日本審査に際しては、レポートを送付し、審査を傍聴しました。

その立場から、意見を申し上げます。

・貧困に関して

日本の貧困の状況は、極めて深刻なものとなっています。特に低所得世帯の多い地域では、子どもの欠食が深刻な問題となっています。十分なケアをされずに育つ子どもたちは、育ちにあたり、身体の発達が遅れるのみならず多重のハンデを背負い、学校生活においても不利な立場に置かれやすく、学びも将来へのチャレンジもままならない状況に置かれています。その背景には、親の貧しさがあります。その親たち自身は、貧しさや困難の中で、自らの子どもの貧困を自ら解決することが不可能な状況にあります。

到底、問題や課題が存在しないと言える状況ではありません。絶対的貧困のみが問題になる状況ではありませんが、相対的貧困は日本の多くの場面に数多く存在します。

貧困の解決とは、貧困状態にある人々が貧困でなくなるだけの「カネ」が回ることです。「カネ」を回す手段は、もしかすると貧困状態にある人々の労働であることが望ましいのかもしれません。しかし現在ただいま、貧困状態にある人々が背負っているハンデをただちに解消することができる手段は、給付、特に現金給付以外にはありません。

ところが日本においては、2013年以後、生活保護基準の削減が続いています。成人に対しては。就労努力を求めることが可能かもしれません。しかし選んで貧困世帯に生まれるわけではない子どもたちにどのような影響が及ぶのか、実態把握や考慮が行われているのでしょうか? 当方には、実態が把握され考慮されているとは、まったく感じられません。

現在、最も緊急に取られるべき貧困対策は、生活保護基準を、少なくとも2012年以前と同水準に戻すことであろうと考えます。

また低賃金・不安定雇用のもとでは、長時間労働してもなお貧困という状況が不可避です。最低賃金を大幅に上昇させることを、特に中小企業の経営を圧迫しない施策とともに実施することが必要です。

若年層の職業機会の薄さ・不安定さは、その若者の生涯にわたる貧困の原因ともなりかねません。一方で年金財政の要請から、年金受給年齢は上げられていく一方です。職業生活を継続せざるを得ない高齢者が多数いる状況下では、若年層に対する職業機会は、常に少なくなる方向への圧迫下にあります。この構造的問題を解消するのは一朝一夕に可能なことではありませんが、しかし解消の方向性を探り、時間をかけても実現することが必要ではないかと考えます。

・教育に関して

義務教育が無償ということになっておりながら「なんちゃって無償」と呼びたくなるほど親の自己負担を要するものであること、学校給食が唯一の食事の機会である貧困状態の子どもたちが多数いるにもかかわらず給食が無償でないことなどは、子どもの貧困が真に解決される課題と考えられているのなら、とうに存在しなくなっているはずの課題です。

親の自己責任であるかどうかを議論している間にも、子どもたちは育っていきます。早急に具体的対策を展開し、SDGsの「あらゆる形態の貧困の解消」に取り組まれるようお願いします。

また、日本においては、米国ほどではありませんが、EU諸国・英国に比べると多大な高等教育コストが、いわゆる「奨学金問題」として、若年層の学びと社会への接続の妨げとなっています。何らかの形での高等教育の実質無償化が目指されるべきと考えます。

・女性に関して

女性に対して高い賃金の得られる職業機会が少ないこと、女性が低賃金不安定就労に向かわせられやすいことを解消せずに、男女の賃金格差は解消しないでしょう。配偶者控除の「◯円の壁」は問題の本質ではありません。

底上げのためにも、男女を問わず最低賃金を高くすることから始めるために、男性・女性それぞれのうち相対的に低所得となっている人々の状況を精査し、問題を具体的に一つ一つ解消することが求められると考えます。

・障害に関して

まず、日本の公共交通機関のバリアフリー化インフラは、可用性の高さまで考慮すれば、世界の先進国・大都市の中で冠たるものです。このことに日本の障害者として、感謝し、誇りを抱いております。

その上でなお、インフラの不十分さによる、あるいはインフラによるものではない「非バリアフリー化」への力学を解消することが必要であろうと考えます。

たとえば日本の鉄道路線では、海外で多数の利用者がいるハンドル形電動車椅子は利用可能ではないことが多く、日本を訪れる海外の障害者に対しては、ほとんど実現不可能なハードルを設けて例外的に利用を認めている状況です。また駅の車椅子用リフトの耐荷重が不十分なため、多機能型電動車いすを必要とする障害者は、実質的に鉄道の利用が困難となる場面もあります。

このような問題を一つ一つ解決されるように、具体的な問題把握と解決への施策を望みます。

また指針には「障害者雇用の推進(厚生労働省)【8.5】」「障害者の職業訓練(厚生労働省)【4.5】」があります。

障害者が就労すれば、すべての問題は解決するとおっしゃりたいのでしょうか?

私は就労している障害者ですが、決して、そんなことはありません。生きること・日常生活を送ることができるからこそ、その上に職業生活を成り立たせることができるのです。

しかし現在の日本では、「障害者の就労を」という一方で、就労を阻害するものであるかのように、障害者福祉・障害年金などの削減・利用抑制への動きが活発になっています。

また千葉県習志野市では、障害者であることを理由に、障害者雇用枠で職員として採用された障害者が、障害を理由に解雇されるという不可解な出来事も起こっています。

日本は障害者に働いてほしくないのでしょうか? 税金を使わないでほしいから働いて欲しいけれども、自分の近くや自分の職場で働かれるのはイヤなのでしょうか? おそらく、そういう方が多いから、この習志野市の出来事が起こったのでしょう。

これらはすべて「心のバリアフリー」で解決する問題ではなく、具体的に「……すべき」「……してはならない」「必要な予算は◯だから、その財源を確保する」によってしか解決しない問題です。

私は「この流れが進んでいくと、いつ自分が生活保護を必要とするかわからない」という危惧を抱き続けています。

どうか、まず私自身がこの危惧から解放され、自分の職業生活を含む人生のさらなる発展のもと、人生後半戦を充実させられるよう、障害者全体の全体状況の把握と改善への具体的施策をお願いします。

キワキワの提出でしたが、とりあえず、言わなかった後悔は消せました。

「できなかった後悔」にならないように、引き続き、取材と執筆を続けていきます。