妊婦さんたちへ: 公共交通機関で危険を感じたら、とにかく声を出してください

「子どもはいらない」が日本の総意なのでしょうか?(写真:アフロ)

「妊婦さんがマタニティマークをつけていると不快なことや身の危険も」という藤村美里さんのご記事を読んで、正直なところ、最初は驚きました。

マタニティマークが付けられない…なぜ妊婦が萎縮する社会になったのか

でも、すぐに「ああ、私と一緒か」と思い至りました。

私は2005年暮れから車椅子を利用しています。

外に出て公共交通機関を利用すれば、かなりの確率で嫌がらせや暴力未満(「未満」で済むのは牽制に成功しているからです)に遭遇します。ここ2-3年で、遭遇確率は高まってきた感じもします。

以下、経験からの「傾向と対策」です。

一つでも二つでも、妊婦さんたちのお役に立つ何かがあれば幸いです。

段階0:「自分は悪くない」という心構え

妊娠中の方が妊娠していることを理由とした嫌がらせや暴力は、どのような正当化の理屈があっても、許されることではなく、相手に100%の非があります。

「相手が悪い」は「自分とお腹の子は安全」を意味しませんが、安全のためにどのような戦術を選択するとしても、相手が悪いことは間違いありません。

また「座席に座れない」「座席に座っていたら白眼視される」といったことも、「座席には座る必要性の高い人が座るべき」がルールとして共有されていないせいです。「座れなくてしんどい」、あるいは「座っていたら白眼視されてしんどい」以上に、妊婦さんが何らかの精神的な負荷を負う必要はありません。

段階1:声を出す

暴力・嫌がらせ・必要な資源(座席など)を使えないことに対しては、問題があることと問題のありかを、周囲の人に知ってもらいましょう。

暴力や嫌がらせに対しては「あー」でも「うー」でも「おー」でも結構です。低い唸り声のような声を、相手に聞こえる程度に出しましょう。それで相手が怯んでビビって逃げ出すことも、ままあります。

座席などの資源については「妊娠中なので座りたいのですが、どなたかお願いできないでしょうか?」と言ってよいと思います。言われてなおかつ無視する人は、相当の長距離長時間通勤でない限り、それほど多くはいないのではないかと思います。

少なくとも、健常者時代の私だったら、迷うことなく席をお譲りします(とはいえ、電車の中は筋トレの機会と考え、席が空いていても座ってなかったことが多かったのですが……)。

段階2:相手にはっきり、周囲にも聞こえるように言う

暴力や嫌がらせに対しては、周囲の人に聞こえるように「◯◯するのはやめてください」あるいは「やめてください」とはっきり言いましょう。低目のドスの効いた声であれば、なおいっそう効果的です。

座席などの資源について「妊婦だからといって甘えやがって」のようなことを言われたら「今、……と言われましたね、わかりました」と、周囲の人に聞こえる程度の声でリアル拡散しましょう。

「何か被害を受けているらしい女性がいる」と気づいたとき、成り行きに注意し、ことと次第によっては介入しようとする人が、周囲にいるかもしれません。確率は低いですが、いまどきの日本でもゼロではありません。

ただ、いまどきの日本で最も起こりうる成り行きは

「周囲の人は全員、見て見ないふりをして、窓の外やスマホの画面を注視している」

です。

一回言ってみて周囲が無反応なら、次の段階を試してみてください。

一人で声を上げて頑張っていると「キ◯◯イ妊婦が」とか言われかねないご時世ですので。

段階3:非常通報ボタンまたは110番

もし、すぐ手が届くところにホームや車両内の非常通報ボタンがあれば、押しましょう。

妊娠中は、非常通報ボタンの近くに常にいるほうが良いかもしれません。残念ながら、攻撃対象として狙われやすいわけですから。

なければ、110番通報です。

非常通報ボタンの後で110番通報、でもかまいません。

動いている電車の中だったりすると、110番通報しても警官が間に合わない可能性の方が高いです。非常通報ボタンの方が確実です。

段階4:記録する

身を守るので精一杯のときに記録など、やっていられないのが正常な反応だと思います。

でも、もしも可能であれば、録音・録画をしましょう。

段階5:相手が逆ギレしたら?

衆人環視の前で、「弱い」「やりやすい」と見て攻撃を開始した相手が意外にも無抵抗でないと知った場合、たいていの人は何らかの形で逃げます。

返り討ちを怖れなくていいから、相手がたぶん泣き寝入りするから、周囲に人がいるのに攻撃するんです。

返り討ちの可能性があれば、すぐ攻撃は止むでしょう。

もしも逆ギレされて、さらなる肉体的な暴力などの可能性がある場合は、まず相手の顔に書類・バッグなどをぶつけましょう。戦意喪失させるのに有効です。さらに、周囲の人に連絡や介入を求めましょう。

「逆ギレしてさらなる暴力」の確率自体は高くありませんが、そういう時にも対処の方法がなくはないと知っていれば、少しは安心できるのではないかと思います。

「逆ギレしたので、刃物が出てくるなどエスカレート」というようなことも、実際にはあまりありません。逆ギレしてのことではなく「最初からそこまでやるつもりだった」と考えておいてよいかと思います。

空手の有段者でもない限り、過剰防衛にはならず、正当防衛が成り立ちます。

具体的な身の危険があっての反撃で「顔にバッグ投げつけただけ」なら、過剰防衛にはなりようがありません。

最後に:周囲の方々、見てみないふりはやめて、出来ることはしてください

周囲にいる方々は、単に出勤や帰宅を急いでいるだけであったり、あるいは「面倒に巻き込まれるのはイヤ」というだけかもしれません。

でも、何か事件に発展して、警察が乗り込んできて事情聴取というようなことになったら、目的地に着くのが何時間遅れるか分かりません。

情けは人のためならず。周囲にいる方々のためでもあります。

近くに緊急停止ボタンがあれば押す、スマホから110番通報するなど、

「何メートルか離れていて、間に何人か人がいる(例)」

という状況を活かして出来る行動が、必ず何かあるはずです。

私は、電車の中で暴力沙汰や嫌がらせを見たら、必ず、110番通報くらいはするようにしています。

緊急停止ボタンは、たいていは「そこまで行けない」という問題があります。

110番の警察官と話していると、相手が、こっちに向かって「何、電話してんだよ、おるあ?」と凄むくらいのことはあります。

でも、こちらが「あおー?」と唸り返して警察との会話を続けていると、相手はたいていは次の駅で逃げるように降りていきます。

車椅子に乗っている私に出来ることが出来ない大人は、あまりいないと思います。

スマホがいじれるなら、そのくらいやってほしいです。

見てみないふりをしている周囲の乗客の方々を見ながら、毎度、情けなくなります。

「保活」「保育園難民」が話題になっていますが、子どもがまだ胎児のうちから、育児は始まっています。

お母さんにもお腹の中の赤ちゃんにも、そのお父さんにも、

「世の中に望まれて生まれてきて、世の中は捨てたものではない」

と思ってほしいし、それを見ている方々にも

「私(たち)も、産んでみようか」

と思ってほしいです。

私は子どもを持った経験がありませんけれども、赤ちゃんや小さな子どもがいて育っていくことは、それだけで希望です。

私は、たくさんの希望のある世の中に、自分も生きていたいと思います。

そこで、この記事を書きました。

妊婦さんたちも、お母さんたちも、怯まないでください。

怯ませられるとしたら、怯ませる方がおかしいのです。

妊婦さんたちやお母さんたちを怯ませる行動に対して、「許さない」とは言わないまでも「見て見ぬふりはしない」という人が増えれば、それだけでも状況は変わります。

地道に変えていくしかありません。

そして、一人ずつ二人ずつ自分から変わっていくことで、地道に、着実に、状況は変わります。

変えていきましょう。

10年後も20年後も、日本に遊ぶ子どもの声があり、多くはない子どもが世の中に大切にされて幸せに育つ姿があるように。