もしもシャルティア・ブラッドフォールンがポンコツでなかったら……【完結】   作:善太夫
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◆cap03 セバスとデミウルゴス

「どうやら順調なようですね」

 

 セバスとソリュシャンが馬車に乗り込むと既に車内で待ち受けていたデミウルゴスが声をかけた。

 

 セバスは黙って頷いた。セバスは何故だかこのデミウルゴスが苦手だった。そんな微妙な気配を察してなのか、ソリュシャンが口を開いた。

 

「あの……以前からお聞きしたかったのですが、セバス様とデミウルゴス様は仲がお悪いのでしょうか?」

 

 頬を赤く染めたセバスとは反対にデミウルゴスは涼しげな様子で答えた。

 

「さあ? 私は特に悪い感情はありませんが……ただ、我々を創造された至高の御方が些か争うことがありましてね」

 

「……デミウルゴス様。その言葉は不敬では?」

 

 セバスは更に顔を紅潮させてデミウルゴスを睨んだ。しかしデミウルゴスは相変わらず涼しい顔で続けた。

 

「セバス。我々の間には上下関係はありません。だから私のことは単にデミウルゴスと呼び捨てにしていただきたいものです」

 

 セバスは鼻白む。デミウルゴスの言葉は正しい。だからこそセバスはデミウルゴスを苦手に感じるのかもしれない。

 

「まあ、話を戻すとあくまでも創造主同士のことで我々には関係無いかと思いますよ。ただ──強いて挙げるならカルマ値のベクトルの違いでしょうか」

 

 ソリュシャンは頷く。それは彼女も薄々感じていたことだった。ソリュシャンのカルマ値はマイナス400。デミウルゴスは同じくマイナス500。対してセバスはプラス300。違いすぎるのだ。そんなソリュシャンの心の動きを察してか、デミウルゴスは続ける。

 

「だがね、その違いこそが大切なのだよ。それは至高の御方がかくあれと造られたのだから。それに──」

 

 デミウルゴスは更に続ける。

 

「今回、アインズ様がセバスに与えられた任務──それはセバスこそが相応しいと思われたからなのだから」

 

 セバスの胸に熱いものが込み上げてきた。

 

「……デミウルゴス。ありがとう。私も貴方が今回の任務に最適だと思います」

 

 それは長年積もった塵を払うかのような瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 今回彼らにアインズから与えられた任務は三つある。まずはソリュシャンとセバスが地方の金持ちの商人の娘と執事を演じ、野盗に狙われるように仕向ける。そして襲ってきた輩──突然消えても誰も気付かない犯罪者──をナザリックに連れ帰るのが一つ目。次に野盗のアジトを襲い武技などユグドラシルにはない能力を持つ人間を捕まえるのが二つ目。最後は王都で商売をしながらリ・エスティーゼ王国の軍事力や魔法など、あらゆる情報を集める、という三つである。

 

 そして今、まさに野盗の手下が馬車を御し仲間が待ち受ける中へ向かっていたのである。

 

「そろそろみたいです」

 

 ソリュシャンが閉じた片目を押さえながら二人に知らせる。やがて馬車が止まった。

 

 

 

 

 

 

 ザックは走り続けていた。悪態をつきながら。

 

(なんてこった! なんでこうなるんだ? なんで?)

 

 ザックはひたすら逃げていた。死の恐怖がすぐ後ろに迫っていた。

 

「──『止まれ』! 『振り向きたまえ』」

 

 ザックはピタリと立ち止まると回れ右をする。目の前に悪魔(デミウルゴス)がいた。

 

「ふむ。この男は使い道がなさそうだ。『自らの首を締めて死にたまえ』」

 

 ザックは妹の名前を呟きながら息絶えた。

 

「ではセバス。ここで別れよう」

 

「わかりましたデミウルゴス。ところで、シモベはどうされるので?」

 

 デミウルゴスは大袈裟にお辞儀をしながら答えた。

 

「もう既に呼び寄せてある。転移門(ゲート)でね」

 

「…………デミウルゴス。貴方と話せて良かった」

 

 デミウルゴスは馬車に再び乗り込み去っていくセバスたちをじっと見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

「さて……そろそろ我々も行きましょうか。では『アジトに案内したまえ』」

 

 倒れていた野盗が五人、むくりと立ちあがり歩き出す。彼らの後を四体の魔将(イビルロード)が続く。いずれもレベル八○台のデミウルゴス配下のシモベたちだ。それぞれ色欲の魔将(イビルロード・ラスト)強欲の魔将(イビルロード・グリード)怠惰の魔将(イビルロード・スロウス)嫉妬の魔将(イビルロード・エンヴィー)で敢えて見た目に威圧感が少ないものを選んであった。同時に隻眼の屍(アイボール・コープス)二体に周囲を警戒させる。デミウルゴスは念のために自らを完全不可視化させて彼らのあとをついていく。あたかもピクニックにでも出かけるかのような足取りで。

 

 砦に着くと〈人間種魅了(チャーム・パーソン)〉で支配された最初の五人が中に入り仲間を連れ出す。それを次々とデミウルゴスが〈支配の呪言〉で支配する。仮に〈支配の呪言〉が効かない相手がいれば魔将により拘束する手筈だった。

 

 砦を拠点にしていた野盗、『死を撒く剣団』総勢六十六名は魔将が出る幕もなく全員デミウルゴスの支配下になった。

 

 

 

 

 

 

〈デミウルゴス様。何者かがやってきます──〉

 

 隻眼の屍(アイボール・コープス)からの伝言(メッセージ)を受けてデミウルゴスは完全不可視化したまま、空に飛び上がる。砦を目指す冒険者が六人、いや、七人。丁度良い──デミウルゴスは嗤う。そして、冒険者たちは新たなデミウルゴスの手駒になった。

 

 砦からはわずかばかりの財宝と近隣から拐ってきたと思われる女たちが十人ほど。すべてナザリックの近くに最近アウラが作った仮の拠点に転移門(ゲート)で送り出す。

 

 と、またしても隻眼の屍(アイボール・コープス)が来訪者を知らせてきた。デミウルゴスはすぐさま先程手駒にした冒険者たちを差し向ける。これで相手の注意をひきつけ、デミウルゴスは完全不可視化したまま背後をつく。

 

「……面白い。なかなか歯ごたえがありそうですね。それに──」

 

 デミウルゴスは相手の指揮官が持つ粗末な槍と老婆の衣服に強い魔力を感じ取り目を細める。〈支配の呪言〉で行動の自由を奪うも、その二人には効果なし。レベル四○以上かマジックアイテムによる効果か?

 

 続いて魔将が一斉に攻撃をかける。と、老婆の衣服の模様が光り怠惰の魔将(イビルロード・スロウス)の動きが止まる。

 

「──面白い。実に面白い。その者は生かしたまま捕らえるのですよ」

 

 残念ながら指揮官の男は逃げられたものの老婆とマジックアイテムという望外の成果にデミウルゴスはほくそ笑む。念のため老婆を麻痺させてマジックアイテムの衣服を剥ぐと伝言(メッセージ)を飛ばす。

 

〈アインズ様にご報告を。是非ともご覧頂きたいものがありましてね。はい。重大な話です〉








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