もしもシャルティア・ブラッドフォールンがポンコツでなかったら……【完結】   作:善太夫
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◆cap01 深紅と漆黒

 城塞都市エ・ランテル。地方都市ではあるがバハルス帝国とスレイン法国との境界の程近くにあり、リ・エスティーゼ王国の守りの要でもあるこの街はなかなかの賑わいを見せていた。外部から訪れる旅人も少なくはなく、黒髪の南方からの旅人や、まれに見かけるハーフエルフの者などはさほど珍しいものではない。

 

 しかしその二人組は明らかに注目を集めていた。深紅のフルアーマーを着たまだ幼さを残した美少女の戦士と異様なマスクを被った怪しげなマジックキャスター。彼らは周囲の視線を集めながら冒険者組合に入っていった。

 

「冒険者登録はこちらと聞いてお伺いしたでありんすが、どなたに話をしたら良いのでありんしょう?」

 

 深紅のフルアーマーの美少女の妖艶なまでの声に、そしてこの世の者とも思えない美しさに、組合にいた誰もが息を呑んだ。まるで時間が止まったかのようだった。予想しなかった反応だったのか、やや困惑気味の少女の言葉が続く。

 

「──もし? どなたか案内してほしいでありんすが…………もし? ──」

 

 深紅の乙女に急かされてようやく受付嬢が自分の仕事を思い出した。

 

「…………あ……あ、はい。では、こちらの用紙に記入をお願いします」

 

 受付嬢の前の席に少女が腰掛けるとマジックキャスターがその後ろに立つ。深紅の乙女は机に置かれた用紙を一瞥すると、後ろを振り返った。黒のマジックキャスターは静かに首を横に振る。

 

「…………困りんしたね。わらわたちは遠くから旅をしてきたものでありんして、こちらの言葉に未だ不慣れでありんす。代筆などは頼められんでありんしょうか?」

 

 いつしか彼女たちの周りには冒険者達の人だかりができていた。このままでは代筆の権利を巡って争いが起きかねない。受付嬢は小さくため息をついた。

 

「……では、私が代筆いたします。まずはお名前をお伺いいたします」

 

「……モモンだ」

 

「……わら……私はシャル……そう、シャルでありんす」

 

 受付嬢は用紙に『モモン』『シャル』と書き込む。それから三十分ほどで新米冒険者シャルとモモン──後に“深紅と漆黒”と呼ばれる冒険者が誕生したのだった。

 

 

 

 

 

 

「……ふう。まずまずといったところか……」

 

 宿屋の個室で漆黒のマジックキャスターはその正体を現す。彼こそはモモンガ改めアインズ・ウール・ゴウンその人であった。彼は先日、カルネ村という小さな開拓村の一つを助けた際に、自らの名前をギルドの名前──アインズ・ウール・ゴウンとすることにしたのだった。

 

 カルネ村では現在のナザリック地下大墳墓が存在する世界がかつてのユグドラシルとは全く異なることを知らされ、より多くの情報を集める手段としてアンダーカバーの必要性を痛感することになった。

 

 そして、そのための冒険者──それがモモンとシャル──である。

 

 アインズが冒険者となることは守護者たちの反対に遭った。無理もない。彼らにとって最後に残ったモモンガ──アインズが唯一の至高の存在である。しかし、アインズは譲らなかった。彼の心に忘れかけていた冒険に対する想いがふつふつと湧き上がっていたのだった。最終的には守護者たちも折れるしかなかった。

 

 アインズが冒険者というアンダーカバーを作るにあたり、次に問題となったのが『誰を同行させるか』だった。最初にアインズは自らを戦士化させて戦闘メイド(プレアデス)のナーベラルを連れていこうと考えたのだが、守護者の一人が強く反対した。

 

「アインズ様はかけがえのない存在にありんす。しかるに未だどのような敵がおわすとも知りせんしに、不得手な戦士役をおわすなど危険すぎるでありんす。ここはせめて本来のマジックキャスターとして戦士役(アタッカー)をお選びになさるべきでありんす」

 

 確かにシャルティアの意見はもっともだった。まだ状況がわからない以上、慎重に行動すべきであろう。となれば冒険者として同行すべきなのは……そう。シャルティアなら適任だ。戦士役(アタッカー)としても回復役(ヒーラー)としても問題はない。そして、何よりもアインズとの相性が良い魔法構成(ビルド)をしている。他に良さそうな組み合わせはアルベドだが、彼女には守護者統括としてアインズの代わりにナザリックを守ってほしかった。

 

 とはいえ、いざアインズとシャルティアの組み合わせが決まった段になって、アルベドが強硬に反対し始めた。最終的にはシャルティアが『抜け駆けはしない』と約束し、更にデミウルゴスが何やらアルベドの耳に囁くことでようやく納得を得たのであった。

 

「そういえば……冒険者の講習での話でありんすが、回復魔法をパーティ以外に使わないとはどういうことでありんしょう?」

 

 シャルティアはなにか含みのある様子で訊ねる。

 

「うん?……それはだな、神殿勢力の権威維持と資金の源泉となるのだろうな」

 

 アインズは神殿が治癒の魔法を施すいわば医療機関を独占している状況を思い出す。それにより強い影響力を維持しているのだった。

 

「……逆に神殿勢力の弱み、なのかもありんせんね。ところで──」

 

 シャルティアは小首をかしげた。

 

「次はどう致しんす? やはり依頼を受けるんでありんしょうけれど……時間がかかりんすね」

 

 シャルティアはため息をついた。確かにその通りだ。何か難事件でも起きて華々しく解決するくらいしなければ、銅プレートの冒険者のままである。

 

「……そういえば……シャルティア。さっきは……」

 

 アインズは先程の宿屋の酒場での出来事を思い出す。

 

「……ああ、あれでありんすか。あまりにもしつこい男でありんしたから魅了の魔眼を使いんした」

 

 アインズは納得した。宿屋に入った途端、男が難癖をつけてきたのだが、シャルティアが前に立っただけでスゴスゴと席に戻ったのだった。アインズは改めてシャルティアを同行者に選んで正解だったと思う。

 

 ──それとも──

 

 あのユグドラシル最終日にシャルティアの設定の一部を書き換えたことが幸いだったのかもしれない──あのままポンコツのままだったら──アインズはアンデッドには起こり得ない、軽い目眩を覚えるのだった。

 

「……それにしても……アインズ様が銅プレートの冒険者などという扱いには納得いきんせんでありんす」

 

 シャルティアが口を尖らせる。確かにアインズたちの実力を正確に評価するなら最高位のアダマンタイト級でも足りないくらいだ。なにしろこれまで集めた情報では魔法では超位階を扱える者はおろか、第六位階を扱える者が伝説上の英雄クラスというのである。だが、アインズと同じようにこの世界に百レベルプレイヤーがいないとは限らない。

 

 まあ良い。とりあえずアンダーカバーを作れた。これから少しずつ情報を集めていくとしよう。焦ることはない。

 

 アインズは冒険者としてのこれからの日々に胸を熱くするのだった。








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