静岡県警の性犯罪予防対策が、被害者の「自己責任論」になってしまっている件
静岡県警サイト内の「犯人が語る! 性犯罪の防犯対策!」が、賛否いずれも物議をかもしています。

問題となりうる点は何なのでしょうか?
誰が何をどう改善すれば、問題は解消に向かうのでしょうか?
静岡県警による性犯罪対策啓発の概略
問題となったコンテンツの内容は、性犯罪加害者の一人称の語りという形で、
「こんな女性を狙いました!」
を理由とともに述べたものです。
加害者によれば、
「一人で出歩いている女性
『ながら歩き』をしている女性
一人暮らしの女性
窓を開けて寝ている女性
『私は大丈夫』と思っている女性
を狙ったよ!」
ということで、その選択が詳細な理由とともに述べられています。
最後に
「『私は大丈夫』はあり得ない!
オレたちはな、いつでもどこでもターゲットを探してる。
今話した条件に該当しないからって、「私は大丈夫」なんてこと、絶対にないからな!
どれだけ用心したって、し過ぎることはないんだ!
警戒心は、いつも忘れないでいてくれよ!」
とあり、イラストがあります。そのイラストの中では、加害者が
「オレが言うのも変だけど、性的な犯罪って被害者の心の傷が本当に大きいんだ。いつも警戒心を忘れないでいてくれ!」
というセリフを語っています。
なぜ、この「心の傷が大きい」と「警戒心を忘れないでほしい」が、加害者に対する「どういう悪で、どういう厳しい処罰を受けるのか」とセットで語られないのでしょうか?
被害者女性側に対する自己責任論が、加害者(男性)に対する数倍の自己責任論とともに語られていれば、せめてものバランスが取れるというのに。
そもそも、女性が被害者となる性犯罪の対策として充分なのか?
私は、外で痴漢に襲われたり屋内で性犯罪被害を受けたりしたことが、数回あります。
外の痴漢被害は、小学生のときの最初の一回を除き、相手をボコボコにして撃退することに成功しています。
そういう自分から見て、これらの「隙」への備えは、性犯罪被害対策として全く不足しているように見えます。
まず、「一人で出歩く」「一人暮らし」の危険性は、確かにあります。
では、二人以上なら安全といえるのでしょうか? そんなことはありません。「デートDV」も含め、DVや虐待が世の中に存在することを考えれば、理由としては充分でしょう。
知らない男性に襲われないために「知っている人と行動する」、特に「知っている男性と行動する」は、対策として不発です。その知っている男性・身内の男性に襲われるリスクの温床ともなりますから。
「ながら歩き」「窓を開けて寝る」は、確かに危険です。危険というより、夜間なら「問題外」レベルだと思います。
「外国で、初めて訪れる治安がよくない地域にいるときに、同じことができるか?」
を基準に考えれば、男女を問わず、ありえない行動であることは明らかでしょう。
男性なら性犯罪被害には遭いにくいかもしれませんが、ひったくりも恐喝もありえます。
「女性だから」危ない行為であるというわけではないんです。
「私は大丈夫」と思わない方が良いことについても、男女差はありません。
つまり、「一人で出歩かない」「一人で暮らさない(一人で暮らしているように見せない)」「ながら歩きしない」「窓を開けて寝ない」「自分を過信しない」は、いずれも「女性が被害者となる性犯罪」に対する対策として有効というわけではありません。
いずれにしても、「ながら歩き」「窓を開けて寝る」は、犯罪一般への対策として避けるべきですが。
では、何が必要なのか?
「性犯罪という相手の行為が悪」という確信
被害者が女性であれ男性であれ、どのような隙があれ、性犯罪という相手の行為は「絶対悪」といってよいほどの悪です。
最初から被害に遭わないのがベストですが、被害に遭ったとしても、被害者が悪いわけではありません。
自分の身を守るために出来ることは、何でもすべきです。
まず、その確信を持ちましょう。
被害者が悪いのではありません、怯えずに通報を
このページには役立つことが一つだけ書いてあります。防犯ベルのような通報手段を持っている相手には手を出しにくい、と。
バリエーションとして
「ケータイで誰かと話しているふりをしながら、歩きながら、110番通報がタッチ一回で出来るように備えておく」
という手があります。
話しているふりをすることにより、性犯罪を行おうとしている相手に対し、
「今、誰かと話しているみたいだから、バレるかも」
という牽制を行うことができます。
また、110番通報がタッチ一回で出来るように備えておくことは、もしも被害に遭った時に声を出すことが困難であるとしても、通報の手段として使える可能性があります。
「危機にあるけれども、警察に電話していることを知られたり、話している内容を知られたりするとまずい」
という場面は、性犯罪に限らず、よくあります。
あまり知られていませんが、110番通報はできても会話はできない場面でも、いまどきのGPS搭載の携帯やスマホなら位置が探知されます。争うような物音や声がして、事件性が認識されれば、警察が何らかの対応を行います。
実際に犯罪に発展した場合の即座の対策として有効打となりうるのは、東京23区内のように警察官の密度が高い地域に限られるかもしれません。しかし「110番に電話する」は、何も通報しないよりマシ……であってほしいものです。
「取れる対抗手段がある」という根拠ある確信
護身術を習い、身につけ、「この範囲の危機に対して、確実にできる対応の選択肢がある」という自信を持っておきましょう。
ただし、独学で過信すると危険です。
東京では、「インパクト東京」が女性向けの護身術講座を開催しています。私も以前受講したことがありますけれども、たいへん有益かつ「習ったら確実に使える」という内容ばかりでした。スタンガンや催涙スプレーを持ち歩くことが有効なのかどうか、何が有益なのかについても、具体的かつ納得できるレクチャーがありました。
「泥棒に対する防犯対策を怠った」は泥棒を免責しないのに?
「泥棒がいるから、家のドアや窓に鍵をかけましょう」は、「泥棒は悪」と両立します。
しかしながら、特に女性が被害者となる性犯罪に対しては、
「加害者がいるけれども、加害者を加害者と言ったりしにくく、加害者の性犯罪という行為を悪と言うこともしにくい」
という状況がある上に、被害を受けたら
「性犯罪が起こるのは被害者の自己責任だ」
という批判まで覚悟しなくてはなりません。
本来、
「泥棒がいるから、家のドアや窓に鍵をかけましょう。もちろん、泥棒という行為自体が悪であり犯罪です」
と同様に
「性犯罪加害者になる可能性のある人間がいるから、必要な自己防衛は行いましょう。もちろん、性犯罪という行為自体が悪であり犯罪です」
であるはずなのですが、今の日本ではそうは認識されていません。
しかも、より状況を対処困難にするのは、泥棒の存在確率に比べ、性犯罪加害者になる可能性のある人間の存在確率が非常に高いことです。性犯罪加害者になる可能性のある人間は、「ありとあらゆる場にいる、あらゆるタイプの人」ということになります。女性にとっては、少なくとも男性全員が「性犯罪加害者になる可能性のある人間」ということになります。なぜなら、女性の誘惑や隙が性犯罪を誘発することになっていますから。
一緒にいる男性を選択したり、その男性との関係性を選択するときに賢明に振る舞うかどうかは、性犯罪抑止のために決定打とはならないことになります。「隙」または「誘惑」であるかどうかを判断するのは男性です。もしも結果として女性が性犯罪被害を受けずにいつづけることができれば、賢明な振る舞いが続いたことになるのかもしれません。でも、そういう結果になるかどうかは、最後まで分かりません。
日本においては、女性と男性の接触する場において、男性が(性犯罪)加害者にならないように配慮する義務が女性側にあります。だからこそ、女性が被害者になったときに「隙があったからだ」「誘惑したんだろう」と責められるのです。
この状況がそもそもおかしいのですけれども、一朝一夕に変わることはないでしょう。
実際には、すべての男性が性犯罪加害予備軍というわけではありません。性犯罪を悪と認識し、その悪を行わないという選択を行う男性もいます。しかし、そのことは日本の常識とはなっていません。
必要な自衛はしつつ、加害者と行為が悪と確信し、怯えずに通報を、可能なら反撃を
日本の社会風土を変えることは個人の力では出来ませんが、
「性犯罪は悪、性犯罪加害者も悪」
と確信すること、
「犯罪である悪」
の存在を警察や周囲の人々に周知すること、
「自分が犯罪や悪の犠牲にならないようにする」
が正義であることを確信して自衛と反撃を行うことは、個人レベルで行えます。
繰り返します。
性犯罪は悪です。
被害者にどのような落ち度や隙があろうが、加害者が免責される理由にはなりません。
悪に屈させられる可能性に怯えて萎縮したり、被害を受けたときに泣き寝入りしたりする必要はありません。
そのためにも、自分で取ることのできる対策は行い、「護身術を身に付ける」などの方法によって対策の選択肢を増やし、行動の可能性を広げるべきです。
性犯罪の犠牲になる可能性も、万一、性犯罪の犠牲になった結果として致命的な被害を受けたりする可能性も、女性が自分の力と選択によって、極力減らすことができます。
今日明日すぐにできる対策ばかりではありませんが、少しずつ対策の選択肢を増やすことはできます。
世の中から性犯罪を撲滅することは不可能であるとしても、自分に出来ることがあることを確信し、自信と希望とともに自分の可能性を広げつつ生きていく女性が増えますように。
そのことを、心から願います。