国連女性差別撤廃委員会は他国をどう見ているのか?
「国際」連合というからには、日本だけを相手にしているわけではありません。(写真:アフロ)
2016年2月~3月に開催された第63会期国連女性差別撤廃委員会は、審査対象となった8ヶ国(日本を含む)各国に対し、勧告を含む総括所見を発表して終了しました。日本以外の国々は、どう見られているのでしょうか?
本記事では、ハイチとスウェーデンに対する同委員会の質問リストから、両国の現状がどうなっているのかを知る手がかりを紹介します。
「質問リスト(List of Issues: LOI)」とは?
人権に関わる国連の委員会が締結国に対する定期審査を行う手続きは、概ね以下のとおりです。
1.各国政府が報告書を提出する。
2.各国の市民団体等が、自国政府の報告書を踏まえて報告書(質問案を含む)を提出する。
3.国連の委員会が、政府・市民団体の報告書を踏まえ、各国政府に対する質問リスト(LOI)を作成する。
4.各国の市民団体等が、報告書(勧告案を含む)を提出する。
5,政府が質問リストへの応答(Reply for LOI)を提出する。
6.本審査が行われる。
7.総括所見が発表される。
状況の掴みづらい国に対しては、さらに特別報告者が派遣されて調査を行うこともあります。段階としては3と5の間です。
いずれにしても、質問リスト(LOI)を見れば、市民団体や他国からの見方も踏まえた上で、その国の何が問題にされているかを概ね理解することができます。
「質問リスト(LOI)」はどこで見られるのか?
たいていは、国連の各委員会のサイトの審査スケジュールに、関連文書をまとめたページへのリンクがあります。
2016年2月15日~3月4日に終了した女性差別撤廃委員会(CEDAW)は、こちらです。
下へスクロールして行くと、各国別に文書がまとめられています。以下の画像は日本のものです。

今回、審査対象になった国々は?
審査は条約の締結国に対して定期的に行われます。
今回対象になったのは、チェコ・ハイチ・アイスランド・日本・モンゴル・スウェーデン・タンザニア・バヌアツの8ヶ国でした。
スウェーデンにどういう問題点が?
男女平等が進んでいると見られるスウェーデンに対する質問リストを見て最初に気づくのは、質問リストが短く「あっさり」していることです。日本に対する質問リストが長大かつ多岐にわたっているのと、どうぞ比べてみてください。
しかし、
「性差別・ジェンダーに関する固定観念を普及する広告にどう対応しましたか?」
「女性と男性が親として同じ責任を置い、均等に無償の家事労働を行うようになるために、何をしていますか?」
「女性の30%、男性の11%がパートタイム労働に従事しています。フルタイム労働での平等を達成するために何をしてきて、結果はどうなりましたか?」
といった質問を見ると、
「いまだ『私作る人、ボク食べる人』的なCMが時々は流され、家事負担や育児の責任は女親に対してより重く、結果として女性の方がパートタイム労働比率が高い」
という問題も残っていることがわかります。
もし数十年後の日本で、ヘイトスピーチが厳しく処罰されるようになり街頭から消え、「育児家事に性別での違いがあってはならない」が常識になり、働くこと自体は性別と無関係に「当たり前」になれば、日本も同じような質問をされることでしょう。
興味深いのは、なくすべき有害な慣習として少女・女児に対する女性器切除が挙げられていること、また学校教育において、女性器切除を受けた少女・女児に対する配慮を行う必要性が挙げられていることです。
この慣習はアフリカで多く見られますが、スウェーデンのアフリカ系移民家庭でも未だに行われています。なぜスウェーデンの問題になるのでしょうか? スウェーデンが移民として受け入れた以上、自国および自国民の問題であるからです。
また、女性の教育・雇用・健康・社会参加など進展が望ましいことがら、暴力・管理売春・人身売買など根絶すべきことがらに対して「不利な状況にある女性グループの、まとめられていないデータを示してください」いう質問もあります。スウェーデンにおいて「不利な状況にある女性グループ」の内容は、ロマ民族(ジプシー)・障害者・先住民のサミ民族・移民の「女性および少女」です。不利な状況に置かれやすい女性たち・マイノリティ女性たちの状況は、「その国の人権の状況がどうなっているのか?」を端的に示す指標としても重要視されています。しばしば、その国の政府による調査が行われず、したがって調査結果が公表されることもないからです。
質問が「調査しているかどうかを答えてください、調査しているならデータを出してください」ではなく「まとめられていないデータ」であるということからは、調査はされている可能性がうかがえます。日本は残念ながら、未だ「調査してください」「性別の状況が分かるように、性別を含めて調査してください」があります。
大地震の6年後、ハイチは?
2010年に大地震で25万人が犠牲となったハイチは、どうでしょうか?
質問リストの冒頭で問題にされているのは、「法的枠組みに女性の権利を含めるつもりがあるかどうか」です。逆に言えば、それさえ「言われなければやらない」という可能性があるということです。
また、震災後のマネジメントや復興に「国内避難女性を含む女性の平等な参加を確保するために講じた措置」を示すことが求められています。これは日本に対しても問題になりました。ハイチには未だ、国内避難キャンプで暮らさざるを得ない人々が数多くおり、主にそのような場所で女性差別による深刻な問題が起こっているようすが伺えます。
どのように深刻な問題であるのでしょうか? 「国内避難女性を含む地震の被災者の人道的状況」という文言に示されています。安全・住宅・医療サービスといったことがらが、女性本人がアクセスできるかも含めて問題にされています。震災後の混乱が未だに続いており、行政サービスを必要とする女性に情報が届かず、したがって本人は申請もできないという可能性が伺えます。
また、女性に対する暴力・人身売買や管理売春に関する質問も、数多く含められています。その内容からは、国連女性差別撤廃委員会がハイチを
「女性が性的能力を含む暴力被害に遭っても、警察等に訴えることが困難であり、加害者が処罰されないようだ」
「国として女性に対する暴力を放置しないつもりではあるようだが、具体的ではないし、通報者や被害者の身の安全が保障されるのかどうか良くわからない」
「近親相姦や女性への家庭内暴力は社会に許容されてしまっているようだ」
「売春以外の選択肢のない女性が多数おり、人身売買や買春ツアーによる利益を得ている人々も多いようだ」
と見ていることが分かります。
また、「不利な状況にある女性の問題」としては、国内での避難キャンプの女性が高い比率で暴力被害に遭うことが挙げられています。また「不利な状況にある女性」がどのような人々であるかについては、貧困女性・地方の女性・ひとり親女性・障害女性(特に震災で障害者となった女性)が挙げられており、震災と貧困が多くの女性を不利な状況に押しやったままである様子がわかります。
さて、日本は?
以上、スウェーデンとハイチの2ヶ国を国連女性差別撤廃委員会にどう見られているのかを、駆け足ながら紹介しました。
多くの点で、日本と共通する問題が見受けられると私は考えています。
たとえばスウェーデンでは、パート労働者は女性の30%、男性の11%です。日本は2011年に有職女性の46%、有職男性の14%でしたから(参照)、比較すればスウェーデンの女性の方が良好な状況にあるのかもしれません。しかし性別による差が縮まってきたところで「さらに縮める」という容易でない課題が立ち現われていること、また。依然として、性別役割分担を前提とした広告が作られ提供され続けるなどの問題が発生していることがわかります。
一方ハイチでは、国全体が激甚被災地であるという状況が継続しています。日本でも、災害時の被災地や避難所で女性に対する暴力が増加している可能性は、阪神神戸大震災以来、数多く指摘されています。しかしハイチに比べれば、国全体が被災したわけではなかった分だけ、まだ被災地の復興を支援する余地がありました。反面、被災地の方々にとっては、被災していない地域がいつも日本の別の場所にあることは、それだけで残酷なことであったかもしれません。「ハイチはひどくて日本はマシ」で終わらせるのではなく、日本のどこかに似たような問題が隠れているのではないかと想像を及ぼすことを忘れずにいたいものです。
「その国が、現在のその国なりに女性差別に向き合う」ということの意味
女性差別に関する各国の問題は、さまざまです。
肉体的な「生き延びる」「殺されない」が課題である状態を最低とすれば、女性の多くが職業も含めた社会生活を営んでいるものの男性との間に「個人が自分の意志で自由に選択した結果」とはいえない差が残っている「まあまあ」、さらに「完全な平等を少し行き過ぎてしまって男性が不利になったから是正を」段階(現在はありませんが)まで、0か1かではなく、連続的なレベルの違いや内容の違いがあります。
また、歴史的背景・政治的背景・天災の影響などによるバリエーションもさまざまです。
それぞれの国が、それぞれの時期に
「この国の、この課題を、(国連を通じて他国の状態とも比較し、)こう認識し、こう解決した」
を蓄積することは、次世代や後に続く国々への知恵やノウハウという形で「財産」を残すことにつながります。
2016年現在、成人に達している人々の多くは、生きて2100年を迎えることはないでしょう。
しかし現在を生きる人々の試行錯誤と努力の記録は、必ず、後世の財産になります。
子どものない私は、できるだけ「反面教師」ではない、
「高齢化が進む中で、さまざまな困難があったけど、ご先祖さんたちは知恵と勇気で何とか乗り切ってくれたよね? それを希望にして」
という財産を残したいと考えていますが、一人では出来ません。
このためにも、「国連の各委員会に市民として関わることを続け、私自身が長年苦しんできた女性差別の問題が改善しつつある様子を眺めながら生涯を終われれば」と考えています。