生活保護のよくある質問に答えてみました(11) 生活保護基準の「高い・低い」議論から漏れがちなこと
2013年8月の生活扶助引き下げを皮切りに、生活保護基準が「高すぎた」を理由とする引き下げが検討され、施行されつづけています。
昨日2015年1月14日には、住宅扶助・冬季加算の引き下げを含む2015年度予算案が、閣議決定されました。
住宅扶助・冬季加算引き下げの経緯については、2015年1月16日0時公開予定の
生活保護のリアル: 生活保護は切り捨てる? 2015年度予算案 住宅扶助190億円、冬季加算30億円削減の衝撃 ――政策ウォッチ編・第91回
で、1月9日に開催された生活保護基準部会と取りまとめられた報告書の内容とともに詳細にレポートしています。
引き下げとその内容そのものにご関心をお持ちの方は、こちらをご参照ください。
本エントリーでは、生活保護基準の「高い」「低い」を議論する時に忘れられがちなことがらを、いくつか述べます。
私の「生活保護シミュレーション」(単身生活の場合)
まず、現在の生活保護基準が金額でいくらなのか、確認しておきたいと思います。
生活保護利用者に支給される現金の金額は、山吹書店が公開し、毎年更新しているExcelシートで計算できます。
内容は、生活扶助・住宅扶助(上限額)・いくつかの加算です。
身体障害のある私(東京都杉並区在住)の場合は、このようになりました。
生活扶助・住宅扶助の合計(冬季加算を含む) 172140円
うち住宅扶助(身体障害者に対する特別基準適用) 69800円
十分に暮らせるし、限定された範囲ながら仕事への投資もできそうです。
猫も、大病にかかったりしない限りは養えるでしょう。
住み始めて25年目になる杉並区・西荻窪地域でならば、「駅近」「築浅」を諦めれば、69800円で住める住まいを探すことは可能だと思います。不動産屋さんも含めて、豊富な社会資源がありますから。
ただ、今後高齢になっていくことを考えると、公営住宅の方がいいんじゃないかなあとは思います。近隣に、区営・都営住宅はたくさんあります。しかし「単身の障害者が入れる」となると、選択肢がほとんどありません。やむなく民間賃貸を選ぶことになりそうです。
もし私に身体障害がなかったら、障害加算・住宅扶助の特別基準適用はなくなりますので、こうなります。
生活扶助・住宅扶助の合計(冬季加算を含む) 129290円
うち住宅扶助 53700円
生きてはいけるけど、かなり苦しい感じになると思います。
たぶん、働けるのであれば、なんらかの形で就労はすると思います。
少なくとも収入15000円までは「働いたら損」ということにはなりません。無理なく増やせる可処分所得はそのあたり、ということになります。すると一ヶ月あたり、約145000円。まあ、身体が健常なら、そんなにカツカツという感じでもなく暮らせるかなあ。
ただ、保護脱却は無理でしょうね。
生活保護を必要とする状況になったところからの「保護脱却」って、ものすごーく難しい、というのが周囲の生活保護利用者たちを見ていての実感です。生活保護基準が低すぎるから、脱却するための投資も難しくなるんです。
「一ヶ月だけ、生活保護基準で暮らしてみるテスト」なら、ラクではないが超困難でもない
現在の生活扶助の金額。
料理が趣味の私、これだけあれば正直、「暮らす」だけならば、そんなに困難ではないと思います。
私が3食自炊すると、調理器具を含めても、食費は一ヶ月あたり15000円に達しません。
といいますか、収入が不安定なのは自由業の宿命です。「向こう3ヶ月間、入金予定なし」といった事態はザラにあります。
生活扶助以下の生活費で生活した経験は、何回もあります。
仕事の仕込みに必要な費用を確保しながら、猫を養って、自分も生き延びて……というのは、結構大変でした。でも、なんとかなりました。
「生活保護の人たちは、足りないのはやりくりがダメ、働けないのは努力や心がけが悪いのでは?」
と、一瞬思ったことだったら、何回もあります。
ところが、「生活保護基準で暮らしてみるテスト」と「本当の生活保護利用者」では、その月に使える可処分所得が同じでも、大きな違いがたくさんあります。
私が一ヶ月だけ、生活費を生活保護基準の範囲に抑えこむならば
もしも一ヶ月だけ、生活費(猫に関する費用を含む)・仕事に関する仕込みなどの費用・を生活保護基準の範囲に抑えこむとしたら、私の場合は、このようになります。
ただし、以下の2つの前提を置くことにします。
- 前提1:衣食住のストック、仕事の維持に関するストック(パソコン・値の張る資料など)は既にあり、新規購入はほぼ必要ない。
- 前提2:「住」に関する臨時の出費はないとする。
実は「前提1」の方は、生活保護利用に至る方が、最初から持ってなかったり失っていたりするものです。
これに近い前提を置ける生活保護利用者は、
「失職して失業給付も受けられなくなったが、それまでの住まいに家財等ともども住んでいられるし、まだ失職してからの時間が長くはない」
といった、生活保護の世界では非常に恵まれた部類に属する方々です。
「前提2」の方は、まあ、運次第といったところでしょう。
これらの前提のもと、毎月新規購入しなくてはならないものに関するやりくりを考えてみます。
- 猫の食事・医療・薬品類
我が家には現在、17歳女子+6歳男子の二匹の猫がおります。
17歳の方は、高齢に伴う慢性疾患をもろもろ抱えています。
過去実績からいって、猫に必要な費用は医療を含め、一ヶ月あたり平均2万円前後です。
ただこれは「平均」です。突出する月もあります。
猫には、一ヶ月あたり25000円を確保しておきたいところです。緊急時に「お金がなくて治療を買ってやれない」は悲しすぎます。
緊急事態に一ヶ月25000円で対応できるとは限らないのですが、生活保護水準でのやりくりでは、これが限界かと思われます。
- 仕事に必要な経費
仕事を手放すつもりがないなら、ここも削れません。
所属ジャーナリスト組織(3つ)の会費が、1ヶ月あたり15000円程度となります。
「1ヶ月あたり12000円」というお高いところが一つあるのですけど、取材がやりやすくなったり具体的支援が受けられたりとメリット多数なので、これはケチれません。
「宿泊を伴う出張は旅費が出ない限りはしない」「書籍はなるべく図書館で済ませる」という方針としても、取材経費は一ヶ月1万円以下にはならないでしょう。
通信は自宅ではスマホのLTEを使用、あとは所属ジャーナリスト団体の高速回線をフル活用とかするとして、通信費約10000円。
すると、仕事の維持にかかわる費用だけで、一ヶ月あたり35000円ということになります。
猫と仕事で60000円。
健常者であることを前提とすれば、生活扶助(冬季加算を含めて75590円)の残りは、あと約15000円です。
- 自分の食材・衣料・洗剤などの消費財
自炊を苦にしない私がケチケチ作戦に徹したら、食材費は1ヶ月あたり7000円でなんとかなります。野菜2000円、卵500円、魚1000円、コメ+小麦粉3000円、調味料500円、という計算です。
衣料は新規購入しない、手袋や帽子の類は必要になったら「100均」で買うとして500円、洗剤500円とします。
ここの合計は8000円。
・水道光熱費
なんとか7000円以下に抑えこむしかないでしょう。
昼間は、お弁当を持ってジャーナリスト団体の図書室(あるんです)に篭もるとかしてエアコンを使用せず、猫には湯たんぽを用意してやりますかねえ。
実際には、本当に生活保護利用者になったら、仕事に関する費用はある程度は「生業扶助」でカバーされる可能性があります。
「生業扶助」は忘れられてしまいやすい扶助で、釧路市以外では積極的に利用されていないんですが、就労継続のための扶助なんですよね。
もし生業扶助が利用できれば、ここまでカツカツではなくなるかもしれませんが、いずれにしても、自分の守るべき者を守りつつ「余裕のある暮らし」「十分な将来への投資」なんて無理です。
もっとも私の場合、もしも本当に生活保護利用者になったら
「猫を処分しろという世間の声に耐えられず一家心中」
が一番ありそうです。
だって障害者になっただけで、
「障害者になって、障害者福祉を必要とする身になった以上は、猫を処分しろ」
という書き込みが、実際にブログにありました。
私は「障害者+生活保護」になったとき、猫を守りきれる自信がありません。経済的になんとかなっても、精神的に耐えられないと思います。
障害加算・障害者に対する住宅扶助の特別基準(これらも、今後どうなるかわかりませんが)を前提とするならば、経済的には十分にやっていけると思うんですよ。でも、精神的に持たないでしょう。私はそんなに強くありません。
私の「生活保護シミュレーション」(自分+子二人の場合)
では、我が家の二匹の猫が人間の高2女子・小1男子であるとして、我が家が生活保護を利用するときの保護費を計算してみましょう。
「小1男子」こと6歳の猫は後肢に障害がありますので、障害者手帳(3級)を保有しているとします。
生活扶助・住宅扶助の合計(冬季加算・母子加算・児童養育加算等を含む) 305560円
うち住宅扶助 69800円
住み慣れた西荻窪地域で母+子2人で住めるアパートを探すとなると、「駅近」「築浅」を諦めたとしても、家賃は8~10万円は必要かと思われます。すると生活費として使えるのは20万円程度でしょうか。
医療費が別途かかるわけではないことを考えると、やりくりは、そんなに大変ではなくなりそうです。
しかし、生活保護を利用していながら子どもを育てている親御さんから、「十分だ」「余裕がある」といった話を聞いたことはありません。
なぜ、生活保護利用者の生活は、あんなにも苦しいのか
私は、「ラクに生活できている」という生活保護利用者を見たことが、ほとんどありません(一人だけいました。極めてやりくりと料理の上手な障害者です)。
それも、2013年8月の生活扶助の最初の引き下げ以前の話です。2013年8月・2014年4月と生活扶助の引き下げが続くたびに、それ以前は時々見られた
「極端な不足を感じたことはない」
さえ、なくなってきました。
現在のところの生活保護費は、額面だけで見れば、「なぜ、これで、そんなに足りない?」と言いたくなるような金額であるにもかかわらず。
なぜ、こうなるのでしょうか? 「ストック」がないからです。
生活保護利用を開始する段階では、お金の「ストック」は非常に少なくなっていること(生活扶助の月額の半分以下、単身者なら概ね35000円以下)が前提となっています。「ストック」はあってせいぜい
「それまでと同じアパートに住んでいられて、作り上げてきた近隣の人間関係が維持されていて、これまでに揃えた家具・家電・調理器具類をそのまま使える」
といったもの。何らかの理由で
「ただ、収入だけがなくなった(激減した)」
という、生活保護利用以前に事情をこじらせていない幸運な人たちは、そのような「ストック」を維持できています。
生活保護申請以前に「親戚や友人から借金しまくっていた」というように事情をこじらせていると、そうはいきません。
そもそも、生活保護利用のきっかけは非常に多様です。やっと申請を決意したときには、失業・事故・病気・ケガ・親類から持ち込まれたトラブルなどなどが雪だるま式に膨れ上がって絡み合っている状態であることが少なくありません。
「DV被害と失業と借金と病気とケガのうえ、悪い親類に騙された」
「いったんホームレス状態になってしまった」
とか、あるいは
「精神科長期入院から地域に出てきたばかりで、支援者らしい支援者もいない」
とか。そういうケースでは、最初に何も持っていません。そういう場合のための「家具什器費」というメニューが生活保護にはありますけれども、布団と小さな冷蔵庫(中古)と洗濯機(中古)と電子レンジ(中古)で終わってしまうような金額です。
必要な物資は、生活扶助からやりくりして
「せめて夏には扇風機を購入する」
「駅から遠い物件にしか住めてないので、自転車を購入して、再就職しやすくする」
ということになります。この連続で「ゆとりがある」という状態に達するのは無理でしょう。
それでも、住宅扶助の範囲で住める住まいであればよいのですが、そのような住まいが見つけられず、生活扶助から持ちだしていることが多々あります。
特に障害者では、羨ましがられる障害加算が軽く吹っ飛ぶくらいの持ち出しをして家賃をやっと払っていることが珍しくありません。
病気の場合も、やりくり能力を含めた生活能力が形成されていない場合も
「健常なのに生活保護」というケースは、そもそも多くありません、
精神などの疾患や先天障害に、適切な養育や教育の不足が加わり、やりくり能力を含めて生活能力が形成されていないことも珍しくありません。
生活保護の条件は、基本的には「資産が非常に少なく収入も少ない」だけですが、背景はさまざまです。
そのさまざまな人々のニーズを「生活保護基準」という金額ではかること自体に、問題があるのかもしれません。
生活保護世帯のやりくりは「想像を絶する」ということだけでも伝えたい
人的・社会的なものも含めて多様な「ストック」がある状況から、生活保護の「フロー」だけの生活を想像することは、結局のところは基本的に無理なのだろうと思います。
正直なところ、私自身も「想像を絶する」としか言いようがありません。
その人が月々いくら受給できるのかは、生活扶助と住宅扶助と加算類に関しては容易に調べられます。
しかし、生活保護でのやりくりの切迫感は、その金額から想像できるようなものではありません。
私の感じ方そのままを伝えるのは、不可能に近いほど難しいことだと思います。
でも、そういうふうに感じているということだけでも伝えておきたくて、この一文をまとめました。