生活保護の住宅扶助引き下げを、社保審・生活保護基準部会は決めていません

2015年1月9日に開催された社保審・第二十二回生活保護基準部会と、同日に取りまとめられた報告書に関し、住宅扶助・冬季加算の引き下げが決まったという報道が目立ちます。

でも基準部会は、住宅扶助の引き下げを妥当とする結論を出してはいません。冬季加算よりもさらに、引き下げに関して慎重です。むしろ引き上げの必要性を示していたりもします。

冬季加算に関しては、昨日公開した記事

生活保護の冬季加算引き下げは、社保審・生活保護基準部会で決まったのか?

もご参照ください。

今、書籍執筆の大詰めで取り込み中なので、ごく簡単に記述します。

報道陣の皆様、生活保護基準部会は「引き上げ」「引き下げ」を決める場ではありません

そもそも、社保審・生活保護基準部会(以下、基準部会)は「引き上げる」「引き下げる」を具体的に決定する部会でさえありません。

だから「基準部会で引き下げが決まった」は、もうそれだけで誤報といってよいかと思われます。

生活保護制度は、ほんとに難しいです。制度・給付される生活保護費・運用とも、簡単に言えることは何一つない……というのが、本格的に取組みはじめて4年目の私の実感です。

「生活保護が専門というわけではない報道関係者に、そこまでの理解を求めるのは難しいだろう」

と、私自身思います。それでも、

「十分に理解するのが困難なら、それなりの報道ぶり、それなりに求められる慎重さはあるでしょうに」

と思うんですよね、同業者として。

生活保護報道にかかわるマスメディアの皆様、ちょっと考えていただけませんか?

生活保護報道は、「TVタレントの極秘恋愛発覚」とも、「火事がありました」とも、まったく性格が違うんです。

現在の生活保護利用者である約220万人と、本来なら生活保護を利用する資格があるはずの約500万人(少なく見ても)の生命・健康・生活・今後(忘れられやすいことですが、生活保護利用者の約10%は15歳以下の子どもたちです)に大きく関わることです。

さらに直接・間接に、納税者の生活にも影響します。

もしも厚労省官僚が「引き下げ方針」とオフレコで口にしたとしても、報道に際しては、少なくとも生活保護を利用する資格のある人々全員の人数の「生存権」、日本にいるほぼ全員の「健康で文化的な生活」のかかった話だという重みを考えて、慎重にしていただければ、と思うしだいです。

基準部会は、住宅扶助について、どう結論づけているのか

2015年1月9日に公開された基準部会報告書には、「住宅扶助は引き下げられるべし」と取ることの可能な記述は一切ありません。

むしろ、生活保護世帯の「住」が劣悪であること、特に単身者に対して公営住宅が不足しているため民間賃貸住宅を利用せざるを得ないこと、生活保護世帯の利用している民間賃貸住宅が国交省の「住生活基本法」、国交省の「最低居住面積水準」を満たしていない比率が高いことが明確にされています。

この観点から、むしろ「引き上げるべし」と取ることの可能な記述の方が多くなっています。データにもとづいて確実に言えることを言おうとすれば、「そりゃ、そうなるでしょ」という感じです。

「どうか、報告書の図やグラフだけでも眺めてみていただきたい」とお願いします。今、私自身に、詳細に紹介して解説する余裕はないので。報告書末尾にまとめられています。

財務省の方針は? 対して厚労省は?

財務省は一貫して、「生活保護は引き下げるべし」という方針です。

住宅扶助についても、一般低所得世帯の平均家賃と、生活保護の住宅扶助上限額を比較して

「生活保護の上限額の方が高いから引き下げるべし」

という方針を示しています(生活保護世帯の実勢家賃ではなく、上限額、です)。

このことは、拙記事

生活保護のリアル・政策ウォッチ編 第84回 労省に「最後の良心」を期待することはできるか? 住宅扶助等引き下げに進む財務省の“統計マジック”

で、かなり踏み込んで解説しています。ご参照ください。

財務省の誘導については、同記事3ページのグラフだけでも内容はご理解いただけるかと思います。

厚労省は、2012年までは生活保護の住の劣悪さと改善の必要性を、控えめながら訴えていました。このことは、同記事2ページで触れています。問題が数値で示された表もあります。

財務省方針に対する、生活保護基準部会のさりげない「No」

財務省も厚労省も、

「生活保護の住宅扶助では、上限額が設定されており、劣悪な住宅でも上限額ギリギリの家賃を設定する家主が多い。生活保護利用者も『自分の懐が痛むわけではない』と、家賃を低くする努力をしない」

と言いたいのかなあ……? と思う場面は、基準部会に厚労省事務局が提出した資料・財政審資料などを見ていて、多々ありました。

生活保護利用者が抱える多様なリスクに家主さんが備えるために「生活保護だったら家賃を少し上乗せさせてほしい」という場面は、実際にあります。これは「生活保護だから」というよりは、「生活保護利用者の約半数は高齢者であるため死亡リスクが高い」「生活保護利用者の多くは、劣悪かつ苛酷な生育歴や、それによる教育・就労のハンデを抱えている」といったことによっています。

ご関心ある方は、拙記事

生活保護のリアル 政策ウォッチ編・第69回家賃滞納や夜逃げ、高齢者の孤独死…不動産業者から見た生活保護の「住」リアル

をご参照ください。

問題は、

「生活扶助が高すぎるから生活保護の住はゼイタクだったり割高になったりするのか?」

です。

ゼイタクではないことは、最低居住面積水準を満たしていない住宅の多さで明らかになりました。

では割高なのでしょうか?

今回の基準部会で行った実態調査でも、住宅扶助上限額近辺に、生活保護利用者の居住する住宅の家賃が張り付く傾向は見受けられました。

一般世帯(生活保護受給世帯を含む。)と生活保護受給世帯における家賃分布に差異がないかどうか、床面積の階級別に比較を行った(図表 15,16)。その結果、生活保護受給世帯は一般世帯に比して、住宅扶助特別基準(上限額)に近いところに、家賃額が集中する傾向がはっきりとみられた。(13ページ)

しかし、「生活保護だから」ということでゼイタクな住まいが選択されているわけではないことが、その直後に示されています。

同じ床面積階級の住宅では、生活保護世帯の方が、一般世帯に対して常に低い家賃帯に多く分布している。そのことから、相対的に低い家賃を確保する努力は行われていることが推測できる。(13ページ)

「上限額付近に張り付く」の原因として考えられることは、「生活保護利用者が安くする努力をしない」「大家さんが家賃を釣り上げる」以外にも数多くあります。

報告書15ページには、実際のところ生活保護の「住」はどうなのか、実態調査の結果からまとめられています。

「生活保護だからといって、更新時に家賃を安くする努力がされてこなかった」という都市伝説がありますが、どうもデマのようです。安くなっている場合もあります。

生活保護受給開始後の過去5年間(平成 21 年8月以降)に家賃額の変動が有った世帯の割合は 11.6%となっており、変動が有った場合の家賃額変動の分布(現在の家賃額-変動前の家賃額)をみると、「▲5千円~0円」が 37%と最も多く、次に「0円~5千円」が 32%となっている。

「生活保護だからといって、明らかに高い家賃が設定されている」も、実際には非常に少なく、それぞれの理由も、聞いてみれば「そりゃそうだ」「普通にあるある」というものばかりです。「ん? これが、いわゆるひとつの、貧困ビジネス?」も、確かに含まれてはいますけど。

近隣同種の住宅の家賃額より明らかに高額な家賃が設定されている疑義の有無(福祉事務所のケースワーカーが回答)についてみると、「疑義あり」が 568 世帯(0.6%)、「疑義無し」が 86,731 世帯(90.4%)、「判断ができない」が 8,597 世帯(9.0%)となっている。

また、「疑義あり」の場合(568 世帯)の高額な家賃設定の理由については、「保証料が家賃額に上乗せされている」が 13 世帯、「敷金・礼金等が家賃額に上乗せされている」が 16 世帯、「共益費・管理費が家賃額に上乗せされている」が 70 世帯、「家事援助、健康管理や生活支援などのサービスの対価が家賃に上乗せされている」が 15 世帯となっており、家賃設定に一定の合理性が認められるケースもあった。また、「その他」が 219世帯、「特別な理由無し」が 46 世帯、「把握していない(特別な理由は無いと認められる場合を含む。) 203 世帯」となっている。「その他」には、無料低額宿泊所であるため、又は簡易宿所であるためといった回答が含まれている。

そもそも「生活保護だから」といって今の住まいを選んだわけでもない世帯が半数。長年その地域に住んでいる高齢者、子どものいる世帯などだと、そんなに簡単に転居できませんからね。

生活保護受給世帯の 48%は保護開始前から継続して現在の住居に入居しており、保護開始を機に住居が決定されたわけでは必ずしもないことが明らかになった。

生活保護を利用し始めたあとに転居した世帯が約半数。その理由を見てみましょう。

これでも「生活保護だからゼイタクした」といえますか?

また、保護開始後に現在の住居に転居した世帯について、その理由をみると、多い順(その他を除く。)に、「実施機関の指導に基づき、現在支払われている家賃又は間代よりも低額な住宅に転居」が 19%、「家主が相当の理由をもって立退きを要求し、又は借家契約の更新の拒絶若しくは解約の申入れ」が 16%、「病気療養上著しく環境条件が悪いと認められた場合又は身体障害者がいる場合であって設備構造が居住に適さないと認められたため転居」が 8%となっていた。

財務省の誘導は、ことごとく、根拠とともに覆された格好です。

ぜひ、基準部会報告書を御一読ください

住宅扶助についての基準部会の今回の検討は、生活保護にかぎらず、「日本の住」に関わる数多くの問題点を明確にしています。

ぜひ、報告書を御一読ください。

税金で行われた調査です。

生活保護利用者を含めて、日本にいるすべての人々の「住」の向上に役立てようではありませんか。