生活保護のよくある質問に答えてみました(9) 最良の就労支援は、安心して生活保護を利用できることかも

「生活保護を利用し始めると人間は怠惰になり働くことを考えなくなるから、利用させても短期であるべき」という主張を数多く見かけます。

生活保護を利用し始めると、実際には、人はどのように変化するのでしょうか? 

それは就労を妨げる性格のものでしょうか?

「働かない」「働けない」の区別は非常に困難

「生活保護に甘えて働けるのに働かない人がたくさんいる状況は良くないので、就労させるべし」

という論は非常によく見かけます。

「甘えている」かどうか、「働ける」とすることが妥当かどうかを客観的に判断することは非常に困難、むしろ不可能といってよいような難事だと思います。それを突き詰めていくと、

「飢えて凍えるような状態にあって、なお働かずに死ぬようだったら、働かなかったのは意思の問題ではなく実際に働けなかったのだろう。それ以外は『働けない』ではなく『働かない』とする」

ということになってしまいます。

実際に、路上生活者は飢えて凍えるような状態にあるわけですが、日雇いなどの就労をしている方も少なくありません。それを考えると、「働ける」「働けない」「働かない」の識別がそんなに簡単なことではないことは明白ではないでしょうか。

医師に判断させればいい? 福祉事務所の指定する医療機関で診断を受けたら「働ける」とされたけれども、その診断が診断基準を満たしていないとか(診断に少なくとも○ヶ月の経過観察が必要なはずなのに「ぱっと見」でとか)、障害が異常に軽く見積もられているようであるとか、なんだか怪しい診断書をここ一年くらいで数枚見ましたよ。生活保護利用者(申請者)性悪説・性善説のいずれとも無関係に診断や治療が受けたかったら、医療機関を選ばなくてはならないという現実があります。例外的な福祉事務所、例外的な担当者でない限り、医療機関も介護事業所も「ご指定」のところに行っちゃダメ、というのが実態に近いです(後記:福祉事務所と担当者を問題にしているというわけではありません。福祉事務所と担当者が善意であっても、利用者本人が医療機関で受けている差別に気づかないことは多いのです。ここには、医療と福祉の不幸な関係が長年続いたことによる相互不信・差別・偏見の形成という根深い問題があります。決して行政性悪説・医療機関性悪論・医療従事者性悪論を唱えたいわけではありません)。

これに加えて、労働市場の実際という問題もあります。被雇用を前提とする限り、雇う人がいなければ「働ける」とはいえません。そして一般的には、生活保護利用歴は雇うモチベーションを低めます。そこに合理的な理由が見られることはほとんどありません。なんというか、「ケチのついた人」に「エンガチョ」という感じです。

というわけで、生活保護利用歴が長くなるほど、生活保護からの脱却は困難になるのは事実です。そこで、特に2013年度以後、厚労省等は「早期就労を」という方針を推進しています。

長期の生活保護利用は必ずしも「働かない」を推進していないのでは?

これは「多様なパターンがあって、一概に言えない」としか言いようがない気がします。

下記の図は、「働ける」とされた生活保護利用者が就労支援を受け始めてから就労に至るまでの期間です(社保審・生活保護基準部会(2014年3月4日)資料による)。

画像

まず、「3ヶ月以内」に大きなピークがあります。これは「離職して3ヶ月以内」ではなく、「就労支援を受け始めてから3ヶ月以内(それまでの生活保護利用歴は不明)」です。

「かなりの人々は積極的に就職活動をすれば就職できるではないか、それ以外は働く気がない人」

と読み取ることも可能ではあるでしょう。

さらに厚労省は「それ以後は時間が経つほど就労が困難になっていく」と読みとっているようです(基準部会での資料説明)。ただ、3ヶ月~2年までは「違いがある」といえるほどの差かどうか微妙な感じもします。

もう一つ、「2年以上」にもピークがあります。この方々は、生活保護利用歴が2年以上プラスされているわけですが、そのハンディを覆すことが何とかできた、ということでしょう。

それが可能になった条件は、いったい何でしょうか?

「生活保護で暮らす」初期段階の困難

生活保護利用に至る過程はさまざまですが、経済的困難だけではなく、さまざまな困難を抱えた状態であることが通常です。

よくある「勤務先の業績不良によって退職した」が円満な会社都合退職であることは少なく、多くの企業では「嫌がらせによって精神を病ませ、病気を理由として退職させる」が都合よくない人物を辞めさせるためのプロトコルと化しています。

その結果としてその人が生活保護を利用するとすれば、「収入がない」のみならず「病気」「家族との不和」など数多くの問題が重積しています。もしかしたら失職をきっかけに家庭内にDVが発生し、肉体的にも誰かがボロボロにされているかもしれません。

生活保護を利用しても短期に就労して脱却できる人は、比較的、問題の少なかった人です。単に「定収入を失ったのでお金がない」というだけ。正規雇用でない場合には十分な貯蓄もできなかったことが多いです。定収入を失い、失業給付の期限が尽きれば、生活保護しかなくなります。他に問題がなければ、

「生活保護で落ち着いて就労活動に臨む」

が可能ですし、ご縁があれば再就職も可能です。

でもそうではない場合、まず必要なのは休養、療養であったりします。といいますか、生活保護が決定したとたんに「ガクリ」という感じで寝込んだり引きこもったりします。それまでの大変な状況を思うと、いたし方ないことだと思います。

でもその状況は長続きしません。心身ともにある程度の元気を取り戻したら、自発的に「図書館通いや無料のスポーツ教室を利用して生活リズムを作る」といった試みが始まります。そうして日常生活を立て直しながら、借金やDVなど多様な問題を解決していきます。時間もエネルギーも必要ですが、まったく解決できない問題は多くはありません。

そのプロセスともども、社会生活を立て直します。地域その他に仲間ができるころには、「こういう仕事あるけど、どう?」という声があちこちからかかるようになっています。

その先に、やっと安定就労が可能になるわけです。

私は厚労省資料の「2年以上かかった」というケースを、そういう問題を一つ一つ焦らずに解きほぐしていった結果と見ました。特に子どもを抱えた一人親の場合は、「まず保育園」が就労の前提となるわけですから、「すぐに」とは行かないでしょうし。

「3ヶ月以内」の方は、就労支援が開始された段階で、就労そのもの以外に大きな問題はなくなっていたケースではないでしょうか。

「そこだけ」「その時だけ」見ない、が重要なのでは?

波も揺れ幅もあってこそ当たり前の人間、生活保護利用者も例外ではありません。

「最悪」「ドツボ」の状況だけを見て「だから生活保護利用者は」ということだけはやめてほしい、とつくづく思います。

「就労してほしい」と心から思うなら、なおさら。