ロザリオと一撃男   作:海神アグル
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魅力のある主人公って、なんなんですかね。



二十四撃目

会議室にボロボロの状態で駆け込んできた瑠妃が言ったことに、竜司達は困惑していた。

 

萌香が人質として囚われた。

 

これはかなり最悪な状況である。

 

下手に北都に手を出せば萌香が殺られかねない。

 

胡夢が瑠妃に訊く。

 

「瑠妃さん!萌香は何処に!?」

 

「それが分からないの……突然の事で不意を突かれたから……」

 

居場所が分からなければ探しようが無い。

 

竜司なら学外一周なんて訳無いが、その間に北都が何かを仕出かさないという保証は無い。

 

故に、結局北都の事が優先になる。

 

竜司は北都に訊く。

 

「北都……結局あんたは何がしたいんだ?」

 

「ふん……君に俺の『計画』はわからないよ竜司くん。止めることもできない」

 

嫌な笑顔で言う北都の言葉は、端から見れば負け惜しみに聞こえるが、竜司にはどうにも引っ掛かる言い方だった。

 

竜司は嘆息すると、胡夢達に提案する。

 

「学園に協力を要請する。北都はこのまま理事長に引きわたす。北都……残念だよ。あんたがこの学園を“平和にしたい”と言った時の顔、とても嘘を言ってるとは思えなかったからな……それと瑠妃。ちょっと頼みたい事がある。実は―――――頼む」

 

「分かったわ。竜司さん」

 

瑠妃は強く頷き、何故かカラスを一羽、外に飛ばした。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

場所は学園の寮の裏にある丘に移る。

 

そこの大木に萌香は寝かされてて、その近くに霧亜は本を読みながら立っていた。

 

この光景はかれこれ5分程経つ。

 

やがて萌香は目を覚まし、辺りをキョロキョロ見回す。

 

「あ……あれ……?私……ここは?」

 

まだ覚めてない頭をできるだけ回転させ、萌香は記憶の引き出しを開けて、探り出す。

 

(覚えがある………ここは前にアンチテーゼの霧亜と戦った寮の裏の丘………)

 

そう考えが纏まっていた所に、予想していた存在の声がかかる。

 

「やぁ……気がついたかい?」

 

吉井霧亜である。

 

「っ!! あっ、あなたはっ……!?」

 

「『計画』のためとは言え、手荒なことをして悪かったね。赤夜萌香さん」

 

「霧亜ッ!」

 

警戒する萌香に霧亜は変わらず不気味な微笑みを向ける。

 

不気味過ぎて何を考えてるか分からないくらいに。

 

「くっ!」

 

慌てて萌香は逃げようとする。

 

しかし瞬間移動した霧亜に左腕を掴まれ、失敗に終わる。

 

「あれ?つれないなぁ……どこ行くんだい?」

 

「ッ……!?」

 

「僕から逃げるのは無理だよ。君は胸の十字架を竜司くんに外してもらわないと何の力も出せないんだろ?」

 

ナメた言動だが、相手と自分の力量差を正確に分かっているからこその言動だった。

 

現に萌香に関する致命的な弱点を知っていた。

 

「君とは一度ゆっくり話してみたかったんだ。バンパイア・萌香さん」

 

「っ!?」

 

正体をアッサリ見抜かれたことに、萌香は動揺した。

 

その隙を突かれて、霧亜に近くの大木に叩きつけられる。

 

「あうっ!?」

 

「だから逃げようとしないでよ。大人しくしといてくれれば何もしないからさ」

 

顔を痛みに歪めながらも、萌香は霧亜に訊ねる。

 

「ど……どうして……どうしてこんなことを!? あなた達アンチテーゼは一体何をしようとしているの!?」

 

「………どうして?」

 

普通なら問われて素直に答える悪はいない。

 

だが、霧亜は違った。

 

彼にとって重要なのは“面白いかどうか”。

 

故に。

 

「面白そうだから、言っちゃおうかな……」

 

これを萌香に伝えるのが面白いと思った霧亜は不気味な微笑みでそう言った。

 

霧亜は倒れている十字架に座り、本を開きながら話し始める。

 

「君はこの陽海学園を守ってる『大結界』の存在を知ってるかい?」

 

「……大結界?」

 

萌香は警戒しつつ、霧亜の言葉に耳を傾ける。

 

「そう。人間が入ってこないようにするための結界さ。『三大冥王』と呼ばれる大妖怪がこの学園を築く時に張った巨大な結界で、こいつの強力な力で学園は人間界から完全に隔離されているんだ。つまり、うちの生徒がのんびり妖怪生活を満喫できるのも、人間界の奴らが妖怪の存在に気付かずに大手を振ってるのも、まぁ大抵はこの結界のおかげってわけだね」

 

そこまで言った霧亜は、声のトーンを一段下げて驚くべき言葉を放った。

 

「でもコレ………いらないと思わないか?もしこんな結界がなければ妖も人も混沌として、もっともっと面白い世の中になるだろうに」

 

ここまで聞いた萌香の頭に最悪な考えが過り、萌香は有り得ないという驚愕の顔で声を絞り出す。

 

「あっ、あなた達まさかっ……その結界をッ!?」

 

萌香の考察を肯定するように、霧亜は萌香に少し振り向き、ニヤリとした。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

場所はまた変わり、とある屋敷。

 

そこに陽海学園理事長はいた。

 

その屋敷の入り口である大きな両開きのドアをギギギッと音を立てて開け、入って来る者達が。

 

北都を連行してきた竜司達一行である。

 

理事長は竜司に労いの言葉をかける。

 

「ご苦労だったな。お手柄だ、竜司くん」

 

竜司は二階にいる理事長に顔を向けて言う。

 

「約束守れよ理事長。何でも欲しい物をくれるって言う条件」

 

「無論さ」

 

理事長はそう言うと、次に北都の方に顔を向けて言う。

 

「やはりな……やはり君だったか北都くん」

 

まるで最初から分かっていたような口ぶりだ。

 

恐らく大体の見当はついていたのだろう。

 

理事長は北都に近づくと、首にかけていたロザリオを前に出し、呪文を唱え出した。

 

すると竜司達の足元に巨大な魔法陣が出現した。

 

「何だこれ?」

 

「…これは!?」

 

「結界ですぅ!北都さんを閉じこめる為の強力な……」

 

竜司はポケーと魔法陣を見つめ、みぞれは本来の驚き方をして、紫が驚きながらも丁寧に説明する。

 

その間も理事長は呪文を唱え続ける。

 

それを見て北都は忌々しそうに舌打ちする。

 

「ちっ……随分準備がいいじゃないか。最近じゃ決して……決して俺の前に姿を現さなくなってたあんたが……」

 

ここまで言って、北都は1つの答えに辿り着く。

 

「なる程……最初からあんたには疑われていたということか……理事長」

 

やがて結界が球状になり、北都を覆う。

 

北都は自分の方が手玉に取られていたという事実にイラつき、結界にパンチをするが弾かれる。

 

「クソったれが!! 全て仕組んでやがったな?竜司を委員会に送りこんだのも、俺とぶつける為なんだろ?『刺客』として利用するために!! えぇッ!! そうなんだろォ!? 全てあんたの計画通りってわけか理事長ォォォ!!」

 

その問いに理事長は答える事はなく、残念そうに淡々と言う。

 

「……君は実に優秀な生徒だった……君には期待していたのに残念だよ。北都くん」

 

それを最後に理事長は北都に背を向ける。

 

そして周りにいる黒服を着た部下達に命ずる。

 

「竜司くん達を私の部屋に……彼は地下牢に入れておけ」

 

全てが終わった。

 

北都の計画は潰えた。

 

なのに……。

 

「くくく……くくくくくくくくくっ!!」

 

北都は不気味に笑い始める。

 

絶望で精神が壊れたのではない。

 

まるでまだ終わってはいないと言わんばかりな、そんな狂笑だった。

 

これに胡夢達は得体の知れない恐怖を覚え、竜司は純粋に疑問を覚えて首をかしげる。

 

「?……何笑ってんだ?」

 

その瞬間。

 

「ふんっ!!」

 

バリィィィィン!!!!

 

北都は難なく球状の結界を破壊した。

 

先程は壊せなかったこの結界を。

 

「「「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」」」」

 

それによる衝撃で、竜司は棒立ちで、胡夢達や黒服達は普通に壁まで吹っ飛ばされる。

 

そんな中、中心にいた北都はゆっくり立ち上がる。

 

「違うねぇ……計画通りにいったのはあんたの方じゃない」

 

「ゴフっ!?」

 

途端、理事長は口から盛大に吐血し、胸からは大きな剣のようなものが伸びていて、そこからも血を流していた。

 

北都が左腕を変化させ、理事長を串刺しにしていたからだ。

 

「ああ……待っていた。この時をずっと待っていたよ。『三大冥王』の一人・御子神理事長」

 

理事長は倒れ、首に下げていたロザリオは床に落ちる。

 

理事長は心底信じられないとでも言いそうな顔で声を絞り出す。

 

「バカな……私の結界を破るとは……北都……貴様結界を操る魔術を…………っ」

 

「ああコレコレ……コレが欲しかったんだ」

 

北都はそんな理事長に構うことなく、自分の指が変化した長爪でロザリオを自分の所へ弾く。

 

「『大結界』を解くためには、あんたがいつも身に着けてたこの『魔具』がどうしても必要だったんでね」

 

それを聞いた理事長はそれが引き起こす災害を容易に想像出来た。

 

故に例え立つことが出来ずとも、大声で制止する。

 

「何だと貴様ッ!! 大結界を!? やめろッ!!!! あれを解いてしまうととんでもないことにッ……!!」

 

竜司は這いずる理事長に目を向けた後、北都に訊く。

 

「北都……どういうことだ?」

 

「…………まだわからないいのか?」

 

北都は竜司に哀れみの目を向けると、ご丁寧に説明する。

 

「君に捕まったのはわざとだ。警戒心の強い理事長を狙うにはこれしかなくてな………俺は委員会でじっと機会を待っていた。すると予定通り理事長が君を委員会に送り込んできたわけだ。俺の本性を探るために。だから俺はその君と仲良くなり、その君にわざと捕まった!ダメージの大きさは予想外だったが、君は実に思い通り動いてくれたねぇ。おかげで全てが計画通りだったよ。ヴェヤーハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!」

 

北都は高笑いをする。

 

それを聞いた胡夢達は悔しそうに歯軋りする。

 

自分達は最初から最後まで弄ばれていた。

 

その事実に……。

 

そして竜司は、ツカツカと北都に歩み寄る。

 

攻撃が届く距離に到達すると……

 

「何だ?君にはもう用が無いnぶぐわぁっ!!!?」

 

右拳を突き出して北都を殴り、壁をぶち壊して隣の部屋に吹き飛ばした。

 

竜司はツカツカとその部屋に踏み入り、淡々と言う。

 

「あんたの話長いんだよ。半分くらい聞き流したわ」

 

北都を吹き飛ばした部屋はかなり広く、天井もかなり高い。

 

障害物になるのは精々太い何本かの柱と階段くらい。

 

大きく暴れても問題は無いだろう。

 

そして北都だが、普通に土煙が巻き起こるその向こうから歩いてきた。

 

「ちっ……最後はヤケで噛みついてくるか……全く」

 

「決着着けようか?北都……」

 

竜司は拳を構える。

 

頂点に君臨する者同士。

 

圧倒的強さを持つ者同士。

 

故に、ここから先は生半可な者は即死の戦場。

 

だから胡夢達には見守ることしか出来ない。

 

(竜司………勝って!!)

 

胡夢は手を組んで祈る。

 

北都は理事長から奪ったロザリオ『審判のロザリオ』を使って呪文を唱える。

 

すると不気味なくらいに静かに、北都の体を青いオーラが包む。

 

「これで俺はお前と同等とも言える力を得た。審判のロザリオを使えばこれくらい造作も無い」

 

北都の脅しとも言える言葉に、竜司は緊張感の“き”の字も無い変わらずの無気力顔で「そうか…」とただ一言。

 

それが勘に触ったのか、北都は右手を前に向けて魔法陣を出し、そこから紫の破壊光線を出す。

 

その威力は凄まじく、射線上の床が抉れる。

 

そのど真ん中にいた竜司はパンチを繰り出す。

 

それだけで、破壊光線は竜司の直前で霧散するように消滅した。

 

それを見た北都は思わず目を丸くする。

 

彼を知る者なら思わず笑ってしまう程の。

 

 

 

そしてそれを合図に、熾烈な戦闘が始まる。

 

 

 

両者一瞬後に姿が消え、常人の目には捉えることの出来ない速さでの動き。

 

竜司が一旦後ろに移動すると同時に、北都は審判のロザリオを使って底上げした身体能力によって、凄まじい勢いで一直線に竜司へと突撃し、肉薄すると同時に振り下ろすように拳を繰り出す。

 

竜司はそれを片腕を上げてガードし、衝撃で足場のタイルが砕け散る。

 

北都は距離を開けずにそのまま次の攻撃へと移行。

 

一度腕を引き、再び殴るのを合図にして、次に左腕、そして右腕と拳を連続で繰り出す。

 

その動作すら見えない速度で拳が離れ、それぞれ竜司の身体の至るところを狙って放たれるが、それらを竜司は全て腕や足、又はダッキングで回避しつつ捌いていく。

 

連打の最後に北都は一瞬体勢を変えて、身体を捻って腕を引く。

 

そして思いっ切り力を入れた拳を竜司にぶち込んだ。

 

しかし竜司はそれを腕をクロスしてガードする事により、後方へと吹き飛ばされることによって衝撃を受け流す。

 

地面に着地しつつ、余った勢いを利用して後方へと足を動かして距離を取ろうとする。

 

しかし体勢を整えることを北都は許さない。

 

直ぐ様接近し、妖力を帯びた拳を竜司の頭部目掛けて振るうが、腕で防がれたことにより直撃には至らない。

 

竜司は地面を跳躍し、天井近くまで飛ぶ。

 

同じく北都も距離を空けずに飛んでから蹴りを繰り出す。

 

が、竜司はカウンターで北都の脚を蹴り、威力を衝突させることによって防いだ。

 

だが体勢が崩れて逆さになってしまい、北都は脚を振り子の役目として、腕を突き出して拳を振るう。

 

しかし逆さでも冷静に腕でガードして攻撃を通さない。

 

互いに間合いを詰めたところで、両者は一度身体を捻り、腕を引く。

 

そして肉薄した瞬間に、同時に拳をぶつけた。

 

衝撃で辺り一面に突風が吹き荒れ、地面にクレーターができる。

 

そのクレーターに着地したのは、無傷の竜司。

 

同時に着地した北都もまた───無傷だった。

 

 

 

「まさか……審判のロザリオを使っている俺相手にここまでやるとは……」

 

 

 

互いに背を向けた状態で言葉を発し、北都は竜司の方へと振り向く。

 

すると竜司も北都の方へ向き、衝突して煙が上がった拳を前に出しながら言う。

 

 

 

「ああ───やっぱ強いよ、お前は」

 

 

 

 




この小説の北都は元のスペックを魔改造してます。

そして高評価10を入れてくれた

wizardrainさん

高評価9を入れてくれた

イトウさん、あんころもち0さん、くじゃらさん

誠にありがとうございます。

…………でも、どんなに高評価を入れてくれても、低評価を入れた人の手によって全て台無しにされるから、ちょっと申し訳無いですね。







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