中国で衝撃を受けたこと - 食べ物とアニメキャラが愛される日本?
ミッキーマウスのつもりらしいです。
北京で開催されているAPECにおいて、明日(2014年10月9日)にも日中首脳会談が開催されると見られています。
2014年10月初旬、精神医療に関する国際会議の日本語-英語間通訳として、私は北京市に一週間滞在してきました。
初めての中国で最も衝撃を受けたのは、日本の食べ物やアニメキャラが愛され、一方で自動車産業・電子産業のプレゼンスがあまりにも小さかったことです。少なくともエンドユーザが手に取る完成品としては。
自動車産業とも馴染みの深い半導体産業の出身者として、組み込みシステムを専門としていた時期もあるライターとして、もちろん、1990年以後の衰退は身を持って知っています。しかし中国では、非常な危機感を抱きました。もはや、一定の取り返しが可能な段階ですらないのかもしれません。
日本車が走っていない大通り
北京滞在中は、北京市中心街近くのホテルに宿泊していました。近くには大通りがあり、すさまじい数の自動車が走っています。
ホテルに落ち着いて外出してすぐに気づいたのは、斜体の「H」マークをつけた自動車の多さです。
「あれ? ホンダのマークってこんなだったっけ?」
と首をかしげた私は、斜体の後部に「Hyundai」という文字を見つけ、「あ!」と気づきました。韓国の現代自動車です。
日本車の比率は、米国やヨーロッパ以上に少ない感じを受けるほどでした。
現地ニーズに合わせて、価格競争力もある自動車を量産することくらい、日本の自動車メーカーにとって何の困難もないだろうと思うのですが。
TVのCMを見ていると、大衆向けには現代自動車、高級志向のあるユーザ向けにはフォルクスワーゲン、という感じです。フォルクスワーゲンは日本車以上に、しばしば見かける感じを受けました。日本車の居場所はほとんどない感じです。
中国語字幕をつけられた英語圏向けのCMが流されているTV画面を見ていて、
「日本の製造業は『衰退しつつある』を通り越して、かなり壊滅的な状況になっているのではないか」
という危機感を抱きました。そのCMが映っていたTVには「LG」のロゴがついていました。
サムスンとApple、低価格Androidスマホの世界に入り込めない日本製品
ホテルのエレベータにはデジタルサイネージが設置してありました。「電子機器の密輸入・密輸出は犯罪です、Apple製品は正規店で購入しましょう」という掲示もありました。ちょうどAppleが新製品を発表した直後でしたから。
もちろん、Apple製品は高価過ぎて手が出ないという人々もいるわけです。人数でいえば、そちらの方が多数派でしょう。数で言えば圧倒的にAndroidスマホを多く見かけました。TVのCMも、駅などの広告も、Androidスマホの方が圧倒的に多い感じでした。日本で販売されている一般的なAndroidスマホよりも大きなものが主流のようで、使われ方もだいぶ違う印象を受けました。
TVのCMで見かけたApple以外のスマホは、全部がサムスンでした。ただ中国のメーカ「小米」の低価格帯スマホに対して価格競争力があるわけではなく、サムスンといえども相当の苦戦を強いられているようですが。
顧客ニーズに合わせるスピードの速さに定評あったサムスン
2006年ごろに私が行なった、未だ陽の目を見ていないインタビューがあります。お相手は、電子機器を設計・製造する上で欠かすことのできない機器で「日本を代表する」といってよいメーカーの凄腕技術者(当時は管理職でしたが)です。
その方は、
「日本はどうでもいいところにまで完成度を求めすぎて、ビジネスで遅れをとりがち。日本の大手電機メーカの製品は確かに品質ではサムスンに『勝ってる』かもしれないが、タイムリーに顧客ニーズに叶っているのはサムスンの方」
ということを指摘されました。
よく言われる「20:80の法則」ではありませんが、何かを開発するとき、
「全体のうち80%は労力のうち20%で実現でき、残る20%の完成度を高めるための労力が80%」
と、しばしば言われていました。
80%でもユーザの要求の大半は満たせるのに、日本だと、そこで「製品リリース」というわけにはいかない。
完成度を高めるための「すり合わせ」を重視するあまり、完成度をある程度犠牲にして「組み合わせ」を行えば容易に実現できる顧客ニーズにすぐ対応できない。
完成度を犠牲にした「組み合わせ」でユーザに喜ばれているサムスンが、完成度や品質を上げてきたらどうなるのか?
日本の誇る「品質」に、あと何年間、どれだけのアドバンテージがあるのか?
当時、その方が指摘された日本の製造業の問題点です。私もほとんど同感です。
高級車とアニメキャラ
ところが意外なところに、私は日本のプレゼンスを見ることになりました。日本のアニメキャラです。
「バチもの」も含めて、日本のアニメキャラは大変な人気です。
爆笑したのは、高級車に「クレヨンしんちゃん」のステッカーが貼られていたことでした。「クール・ジャパン」?


「おっとっと」「ランチパック」のパクリ商品と「出前一丁」(正規品)が売られているスーパー
スーパーの食料品コーナーに行くと、「おっとっと」や「きのこの山」とそっくりのお菓子がありました。コピー製品のようでしたが、日本発のお菓子が愛されていることに、私はちょっとホッとしました。パン売り場には、ランチパックそっくりの商品もありました。もちろんヤマザキ製ではありません。

世界の多くの地域のスーパーで見かけるのと同様に、現地風味の「出前一丁」各種もありました。
それにしても、自動車と電子製品が受け入れられず、アニメキャラとお菓子(コピー製品とはいえ)とラーメンは受け入れられているということ。
自動車産業や電子産業に従事する人々が努力を惜しんでいるなどということはなく、大変な努力を尽くしていることを知っている者としては、
「なぜ、こうなってしまうんだ?」
と考えざるを得ませんでした。
「日本の電子機器のパクリ製品が中国で出回っていた」
という話をしばしば聞いたのは、そういえば10年以上は前だったような気がします。
「パクるだけの魅力さえなくなった」というようなことでなければよいのですが。

あまりにも本質的かつ地道な中国精神医療の取り組み
肝心の国際会議についても触れておきたいと思います。
精神病者・精神障害者の脱施設化に関するクローズドな会議で、脱施設化に取り組んで一定の成果は上げてきているものの「順調」とはいかない中国と、1970年代の「バザーリア改革」で脱施設化を一気に進めたイタリアとの、精神科医・精神医療行政関係者による会議でした。日本からも障害学の研究者が呼ばれ、私も通訳としてついていったというわけです。
当初、私はあまり期待していませんでした。
「お医者さんと医療行政の会議でしょ? こうすればトップダウンで成功させられます、イタリアを見習いましょう、という話でしょ?」
と。
「バザーリア改革から30年以上を経過したイタリアで、地域生活をしているはずの患者たちの状況がどうもよろしくなく、管理されたグループホームから障害者作業所に通勤するくらいしかできていないようだ」
という話も漏れ聞いていましたし。
ところが、どうしてどうして。良い意味で驚かされることの連続でした。
精神医療の脱施設化を視野に入れた中国の取り組みは、もう10年以上続けられています。そのプロセスの中では
- 施設に代わるべき存在を各地域にどう構築するか
- 精神医療ソーシャルワーカーなどの人材育成をどうするか
- 精神疾患の患者たちが地域生活を営むにあたって、地域の理解や協力体制をどう構築するか
- 脱施設化を一つの契機として、地域全体の精神保健を向上させるにはどうすればよいか
- 医療密度の低い地方で、精神疾患の患者たちの医療へのアクセスを確保する
- 経済的困窮者も含めて、医療を受けられ、必要な医薬品を利用できる制度を整備する
といったことに、中国の医療と医療行政は非常にまっとうに地道に取り組み、政府や社会に対しても理解を求めることに一定の成功を見ています。この間、
「退院して地域生活を始めた患者が殺人事件を起こしてしまったことをきっかけに、一気にバックラッシュが……」
というような問題にも対応しつつ。
イタリアはイタリアで、精神病院を解体して長期入院患者を退院させたのはよいものの、だからといって患者の居場所が出来たり状況が良くなったりするわけではなく、社会全体への働きかけの一環として少しずつ患者の状況を改善していくという取り組みを粘り強く続けているということです。日本でしばしば喧伝されている「病院解体で患者たちは苦労はしたけど認められる存在になった」というような話もなくはないのですが、決して現状は「これでみんなハッピーに」ではないということを医療サイドも自覚しています。本当に「○国では……」という「つまみ食い」の伝聞に多く接していると、何もわかりません。
いずれにしても、本質的かつ困難な問題を、本質的かつ地道に解決する取り組みが続けられていることは間違いないようでした。もちろん、現状がこれで十分なわけではないのですが、中国と日本を比べた時、どちらの方が良い状況にあるのか。
実態の比較が容易でないという問題はあるのですが、日本が
「中国は人権については問題だらけの後進国で中華思想だから」
とか言っていられる時間は長くなさそうです。
参考:国連障害者権利条約
採択 2006年
中国の批准 2008年
日本の批准 2014年
結論:すぐ近くの大市場に食い込めていない事実を、重く受け止めたい
東京から「沖縄や石垣よりちょっと遠いかな」くらいの時間感覚で行ける、大きな人口があり、大市場である近隣の国に、日本を代表するはずの産業、代表していたはずの産業が食い込めていない事実。
「著作権などのルールが重視されていない」「国策が」といった問題は、もちろん承知しています。
でも、食い込めない理由は、それだけでしょうか?
少なくとも「嫌中」「嫌韓」とか言っている場合ではない、という思いを新たにしました。