生活保護のよくある質問に答えてみました(8) 「生活保護なら後発医薬品」は誰得?
「生活保護利用者は医療費がタダだからといって不要な医療を求める」という都市伝説があり、その延長で生活保護利用者に対して後発医薬品の使用が事実上強制となろうとしています。
このことには、生活保護利用者に対する差別であること以外に、数多くの問題があります。
最大の問題は、後発医薬品やそのメリットに関して正確な説明がなされていないことです。
「生活保護利用者は後発医薬品を」で医療扶助は減ります、たった3%ですが
まずは、この問題に関する報道で、何が意図されているのか、目的は何なのかを確認しましょう。
財務省は年末にかけての2015年度予算編成で、生活保護の受給者に安価な後発医薬品(ジェネリック)の使用を徹底するよう厚生労働省に求める方針だ。現行法は後発薬の使用を原則とするが、義務化は見送った経緯がある。受給者の反発も予想されるため、厚労省は慎重に対応するとみられる。
財務省は後発薬の使用を促し、社会保障費の抑制を狙う。国と地方が後発薬ベースまでしか薬剤費を負担しない(引用者注:差額は生活保護利用者本人が負担)仕組みにすることで、後発薬の使用を促したい考えだ。
生活保護のうち、医療費の全額を国と地方で負担する「医療扶助」は12年度に1兆6759億円で全体の半分近くを占める。うち、受給者の薬剤費は約900億円で、8割ほどが先発薬の経費だ。国と地方の薬剤費の負担を後発薬を使った場合の水準に抑えることで、財務省は国と地方で計約500億円の経費削減につながるとみている。
(略)
そもそも生活保護利用者は先発医薬品を選好していたのか?
生活保護利用者が「医療扶助のおかげで医療費無料だから」といって、ご近所さんの分まで湿布薬を処方してもらうとか、向精神薬を多量に処方してもらって転売するとか……という事例は、ときどき面白おかしく報道されます。
もちろん、たまにはそういう人もいるでしょう。筆者は大学受験時期、近所のおばあさん(生活保護利用者ではない)に、処方されたサロメチールや胃薬や風邪薬を頂戴していました。当時、高齢者の医療費自己負担は無料でしたから。なにしろ当時は親の扶養家族でしたから、ちょっとやそっと具合が悪いからといって、病院に行けないわけです。一世帯に一枚しかない保険証を持ちだすことになりますし、こっそり持ち出せたとしても誰がどこの病院の何科にかかったか丸わかりだし。母親を説得するのも大変、無断で受診したら後がよけいに大変。もしかすると、生活保護だからといって余分な処方を求める方も、そういう形で地域の役に立っているのかもしれませんが、それはさておき、データを見てみましょう。
こちらは、2012年に行われた「新仕分け」で用いられた資料より、「生活保護利用者の後発医薬品使用が進まない」というトピックで用いられた比較です。

点数(金額)ベースで、生活保護利用者の後発医薬品使用率は7.5%、一般の受診者は8.4%と、確かに0.9%の差があります。
この表には数量ベースの数値も出ていて、生活保護利用者の後発医薬品使用率は20.9%、一般の受診者は23.0%です。
これを先発医薬品の使用率で見てみると、
生活保護利用者 92.5%(金額ベース) 79.1%(数量ベース)
一般の受診者 91.6%(金額ベース) 77.0%(数量ベース)
となり、数量で2.1%の違いが金額で0.9%の違いとなっているわけです。これを見る限り、
「タダだから高価な先発医薬品を選んだ」
と考えるのには無理があるかと思われます。もしそうであるならば、数量の差より金額の差の方が大きくなるはずですから。
後発医薬品が選ばれないいくつかの可能性
後発医薬品が選ばれない可能性は、「どうせタダだから高い方を」以外にもたくさんあります。
- 難病や治療研究の歴史の浅い疾患で、そもそも後発医薬品が存在しない
- 血中濃度を厳重にコントロールする必要があるので、先発医薬品と後発医薬品の主成分以外の違いが無視できない(向精神薬・抗てんかん薬など)
ちなみに筆者は気管支喘息で2種類、精神疾患で4種類の薬剤の処方を受けていますが、喘息の薬2種類・精神疾患の薬剤のうち2種類は後発薬がありません。後発薬のある2種類のうち1種類は「後発薬の効き方が違う」という話を経験者から聞いているので使用を避けています。確実に効かないと困る頓服ですから。残る1種類は遠い昔に特許が切れており、後発薬しかありません。筆者自身についていえば、6点の薬剤のうち1点だけが「後発薬があるけど選んでない」にあたります。
生活保護利用者に占める傷病者・障害者・高齢者の比率の高さを考えると、「そもそも後発品がないので選びようがない」「万一意図どおりに効かなかった時に非常にまずいことになるので医師が消極的」は、比較的ポピュラーな理由なのではないかと思います。
「後発品があるけど、何らかの理由で選んでない」は(後記:金額ベースで医療扶助の)0.3%にすぎない、ということは、冒頭で引用した報道にも見るとおりです。その0.3%のうち、そんなにシビアに薬を選択しなくてもよい方々にお願いすれば済むことであり、なにも「生活保護だから後発薬」という制度化は必要ないはずです。
厚生労働省はどう説明しているのか
こちらは、今年2014年秋に生活保護利用者に配布されたパンフレットです。


後発医薬品の使用を推進したいのはわかりますが、不正確な説明、脅しや圧力とも取れる文言。「0.3%」のために、なぜそんなことをする必要があるのでしょうか? パンフレットの印刷代、説明にあたる薬剤師やケースワーカーの人件費、調剤薬局に後発医薬品を在庫させるための助成などなどを考えると、まるで「合わない」投資に見えます。
ちなみに、後発医薬品と先発医薬品で同じなのは主成分だけです。その他の成分は同じではありません。効能そのもの、効能が出現し始めるまでのスピード、持続時間、アレルギーその他もろもろ、違いはあって当然です。
そのリスクを「生活保護なんだから、負え!」と? 一定期間は服用するという人体実験に協力しろ、と?
本当の目的は「生活保護だから劣る医療」や「生活保護だから治さない」将来では?
おそらく本当の目的は、後発医薬品の使用促進ではなく、「生活保護なりの(劣る)医療」を生活保護利用者に押し付け、そのことに対する国民的合意を形成することではないでしょうか。その先には
「治る病気だけど、生活保護だから治されずに死んだ」
がありうる、ということです。
それに近いことは現在既にあります。筆者自身、医療機関で生活保護と思い込まれて差別的な扱いを受けたことが何回もありますから。
「いや、そういうつもりではないです」という主張が、具体的な政策として今後、厚労省や財務省から出てくればよいのですが……期待できないでしょうね……。
後発医薬品の使用で引き起こされる問題も
後発医薬品は、先発医薬品の特許(物質特許)切れに伴って製造可能になるものです。特許が切れているので、他社が同じ主成分の薬剤を作れることになるわけですが、製法に関する特許はたいていは切れていませんから、まったく同じものが同じように作れるわけではありません。主成分が同じでも不純物が違うとか。
しかし後発医薬品メーカーが努力して、同じものを作れるようになったとしましょう。すると別の問題が引き起こされます。先発医薬品メーカーにとってのメリットがなくなる、ということです。このことは過去数年にわたって医薬品業界の問題となりつづけています。
特許が切れると、製造を続けることが困難になります。製造しても販売量を確保できないわけですから。なにしろ安価な後発医薬品があるのです。他の何かで収益を確保する見込みがないならば、人員削減しかありません。収益の確保が難しくなるということは、次世代の新薬開発も困難になり、ますます業界全体が先細ります。
これは可能性の話ではなく、過去数年にわたって起こり続けていることです。問題は、日本国内だけがこの状況であるということではなく、世界中で同時に起こり続けているということです。つまり、「余剰」とされた人員の行き先は世界中のどこにも十分にはないのです。
最近のそういうニュースから。
第一三共が年内にも早期退職を募ることが明らかになった。国内の事業会社に勤務する35歳以上60歳未満の社員が対象で、最大で72カ月分の給与を退職金に上乗せする。2016年には米国で主力の高血圧症治療薬「オルメサルタン」の特許が切れる。早期退職を通じて固定費を削減し、主力薬の特許切れに備える。
(略)
制度の適用者には通常の退職金に加えて、幹部社員で最大60カ月分、一般社員では同72カ月分の給与が支給される見通しだ。募集人数は定めないが、数百人規模となる可能性がある。
(略)
製薬大手では、アステラス製薬やエーザイなども今年に入って早期退職を実施した。エーザイでは今年3月末に約400人が退職している。
職を失った人々やその家族は、もしかすると生活保護を利用することになるかもしれません。
本当に後発医薬品の使用推進は「トク」なのかどうか、誰かがトクをするとしても「誰得?」なのかは、冷静に、データと事実にもとづいて考える必要があると思われます。
「生活保護だから後発医薬品」でいいのかどうかを考えるのは、その後の後の話であるべきです。