生活保護利用者のワガママで後発医薬品の使用が進まないのか?
「生活保護利用者は、医療費が無料だから無駄な医療を欲しがる」という俗説を背景として、生活保護利用者への後発医薬品の事実上強制が推進されてきています。
本エントリーでは、この方針に関する報道について、気になるところを指摘します。
先発医薬品利用は「本人の希望」とは限らない
昨日、10月28日のNHKニュースより。
(略)
高齢者世帯が増えたことなどを背景に生活保護の受給者は増え続け、今年度の生活保護費は国と地方合わせておよそ3兆8000億円となり、リーマンショックが起きた6年前の1.4倍に上っていて、このうち、半分近くを占める医療費の抑制が課題となっています。現在、生活保護の受給者には効能が同じ後発医薬品がある場合、原則的に後発医薬品を提供することになっていますが、本人が強く希望する場合は通常の医薬品も提供しており、その場合でも費用は生活保護の医療費の中で負担しています。
財務省では、これを改めて医療費を支給する際には後発医薬品にかかる費用を基準とするよう求めることにしていて、財務省の試算によりますと、こうした取り組みによっておよそ490億円が削減できるとしています。
(略)
福祉関係者などからは生活保護の受給者の必要な医療を受ける権利が奪われかねないといった反発が出ることも予想され(略)調整が行われる見通しです。
財務省の意向はそのとおりなのでしょう。しかし
現在、生活保護の受給者には効能が同じ後発医薬品がある場合、原則的に後発医薬品を提供することになっていますが、本人が強く希望する場合は通常の医薬品も提供しており、その場合でも費用は生活保護の医療費の中で負担しています。
については、「え?」です。
まず、後発医薬品が使用されない理由は、本人の希望だけではありません。
医師の発行した処方箋で「後発品への変更が可能」とされている場合には、調剤薬局では基本的に後発品を調剤することになります。調剤薬局で「先発品を希望」と強く主張することは可能ですし、先発品の調剤を受けることも可能なのですが、その情報は福祉事務所に提供され、担当ケースワーカーから事情を尋ねられることになります。これだけのプレッシャーのもとで「あくまでも先発品」という主張を行うのは、非常に難しいかと思われます。
医師が「後発品への変更不可」としている場合にも、調剤薬局では後発品への変更を本人に求めます。医師にそれなりの理由があって処方したものを本人の同意のもとで薬剤師が覆せるというのも釈然としない話です。
私は生活保護の利用者ではありませんが、調剤薬局で後発品に変更するように求められたことがあります。医師の処方は「後発品への変更不可」となっていましたが、薬剤師は「あなたに拒む権利はないんですよ」と言わんばかりの態度でした。また「成分が同じ」という説明に対して「主成分がですよね? 他の成分はどうなんですか?」「飲んで効かなかったら仕事にも生活にも影響が及ぶのですが、それは私の自己責任になるんですか?」と私が言ったところ、薬剤師は答えず「あくまでも医師の処方通りにしてほしいと本人が希望するということですね」と書類に何やら書き込んでいました。「薬の変更によって最も影響を受ける本人が、どうなろうが、どうでもいい」ということなのでしょうか?
先発医薬品が「後発医薬品と同じ」とは言い切れない
先発医薬品と後発医薬品は、主成分は確かに同じです。しかし主成分だけで医薬品ができているわけではありません。
後発医薬品について良く聞く話は
「先発品と味が違う」
です。味が違う以上、少なくとも「全成分が同じ」ではありません。不純物・賦形剤などの影響が現れているわけです。
味が違うことだけでも、さまざまな問題が引き起こされます。
「先発品だったら舌下錠的に使えるのに、後発品は苦すぎてそういう使い方ができない」
など。
もちろん「効き方が違う」「効き始めるまでの時間や持続時間が違う」という話もよく耳にします。
その違いにも個人差があることを考慮すると、少なくとも「後発品は先発品と同じものだから」という理由で後発品利用を迫ることは不適切なのではないかと思います。
少なくとも、不正確な理由に基づく強制はやめてほしい
他人の健康状態に影響を与える可能性のある選択を、「同じ薬ですから」という不正確な主張によって強制するのはやめてほしいと切に思います。
また、財務省としては
「生活保護利用者のワガママによって後発医薬品が使われない」
というストーリーがぜひとも必要なところなのでしょうが、医師がそれなりの医学的理由に基づいて行った処方を薬局で(本人にウンと言わせて)覆すことの是非や経済的デメリットの可能性も検証していただきたいところです。