第10回甲状腺検査評価部会発言要旨

祖父江友孝部会員と共同で 倫理県民健康調査における甲状腺超音波検査の倫理的問題点と改善案(資料4-1)を提示しました。なお、この資料は全文書の前半部分で、後半は学校検診についての問題点、検査そのものについての問題点の指摘になっていますが、今回の部会では提示されていません。

資料4-2、4-3について、これらの文書は超音波検査による甲状腺スクリーニングの有用性を示した資料ではないのではないか、というお問い合わせをいただきましたので、下記に私の意見を述べます。

これらの資料は超音波検査による甲状腺スクリーニングの有用性を示した資料ではありません。

まず、資料4-2ですが、発見時に進行している患者ほど、再発率が高い、とするデータの提示になっています。この事実は確かですが、がん検診としての有効性を考えるには、甲状腺がんの特性を考慮しなければなりません。甲状腺がんは1)一生涯患者に悪さをしない”天寿がん”の頻度が高い、2)進行が極めて遅いので、かなり遅れて再発をきたすことによるリードタイムバイアスが生じやすい、という特徴があります。データを見るときはこのようなバイアスが否定できるか、ということを必ず見なくてはいけません。代表的な例を挙げます。下の図は若年者の甲状腺がんの再発率のデータです。確かに、進展している症例ほど再発率が高い時期があります。しかし、II~IVは15年経過すると再発率がほぼ同じになってしまいます。すなわち、最終的な再発率は変わらないのですが、IIは発見時腫瘍がまだ小さいので、再発がわかるようになるまで時間がかかるだけなのです。これがリードタイムバイアスです。またIの症例は多くの天寿がんの症例を含みます。これらは一生涯再発しないので結果として見かけ上Iの群は経過が良いように底上げされて見えます。超音波スクリーニングの有用性を証明するためには、これらのバイアスの可能性が無いデータを提示する必要があります。

 

資料4-3ですが微小癌であっても超音波検査で周囲や反回神経への浸潤がわかる、とする内容かと思います。これは「超音波検査の有用性」を示すデータであって、「超音波スクリーニング」の有用性を示したデータではありません。たとえば、超音波で7mmの段階で見つかった腫瘍には周囲への浸潤を認めなかったが、超音波をせずに1.5cmで見つかった場合は浸潤があった、といったデータであった場合にスクリーニングは有用であるといえます。しかし、提示されたデータは超音波でしか見つからないような小さい段階から甲状腺がんは周囲に浸潤していること示しており、むしろ超音波でスクリーニングしても早期発見につながらないことを示唆する結果です。

 

(記者会見) *質問が多かったので抜けているものがあるかもしれません。

質問1 説明の中で子供の甲状腺がんはほぼ一生涯死なないというのは間違いではないのか?

回答1 間違いでない。

今回この質問に関して何人かの方から情報を頂き、「質問者は子供の超音波検査で見つかるような甲状腺がんは一生問題がないというのが間違いではないかと聞いていたのでは?」というご意見もいただきました。その場合、剖検例で高い頻度で若年者の甲状腺がんが見つかることと、微小乳頭がんの経過観察で高齢になればなるほど増大しなくなるので上記の回答になるかと思います。そうでなく、私が理解したように通常見つかる子供の甲状腺がんの長期予後については質問者が指摘した3つの論文のうちの1つにデータが提示されていますのでそれを確認していただければよろしいかと思います(下図)。

アメリカ甲状腺学会のホームページでは小児甲状腺がんの予後については「20-30年の経過で生存率95%以上」としています。実はこの「95%”以上”」というのには訳があり、数十年という長期では追跡が困難であり、特に経過の良い患者は観察を中止されている例がどうしても増えてきます。ですから、実際の予後は95%より高いはずなのです。

質問2 超音波で反回神経や周囲組織への浸潤がみられることは超音波検査が有用だということではないのか?

回答2 超音波でしか見つからないような小さな段階ですでに周囲に広がっていること示しており、逆に超音波検査によるスクリーニングが早期診断には結びつかないということだと考える。

質問3 評価部会で科学ではなく倫理を議論するのはおかしいのではないか。

回答3 我々科学者が科学データを解析をするためには、そのデータが倫理的に正しい手段で得られたものであることが担保されていなければ解析をすることが許されない。

質問4 部会長が超音波検査の功罪について自分で結論を出されたがなにか反論はあるか。

回答4  今後部会で発言していく。

 
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