短文暗唱=瞬間英作文トレーニングの実際の手順ですが、どのステージでも基本的には同じです。ここでは、第1ステージで使用する文法項目別に編集された中学2年の短文集をテキストに使います。このテキストの目次を見てみましょう。
1. |
過去形 |
代表文: |
I visited the library yesterday. |
2. |
過去進行形 |
代表文: |
She was taking a bath then. |
3. |
That節 |
代表文: |
I think that he is a nice man. |
4. |
when節 |
代表文: |
When I came home, my brother was watching TV. |
5. |
SVC(一般動詞) |
代表文: |
The girl looks sad. |
6. |
SVO+前置詞 |
代表文: |
I gave the book to the student. |
7. |
SVOO |
代表文: |
I gave him a book. |
8. |
Will単純未来 |
代表文: |
He will soon be back. |
9. |
Will意志未来 |
代表文: |
I will go to the country some day. |
10. |
Will・shall |
代表文: |
Will you please call him? / Shall I help you? |
11. |
Be going to |
代表文: |
I am going to see him tomorrow. |
12. |
May・must |
代表文: |
You may go now. / You must do your homework. |
13. |
Have to |
代表文: |
They have to clean their rooms. |
14. |
Be able to |
代表文: |
I was able to solve the problem. |
15. |
感嘆文 |
代表文: |
How kind he is! / What a kind boy he is! |
16. |
不定詞・名詞的用法 |
代表文: |
I want to study English. |
17. |
不定詞・副詞的用法 |
代表文: |
He went to the library to borrow some books. |
18. |
不定詞・形容詞的用法 |
代表文: |
I have some work to do this afternoon. |
19. |
動名詞 |
代表文: |
He enjoys listening to music. |
20. |
原級 |
代表文: |
She is as pretty as her sister. |
21. |
比較級・er |
代表文: |
He is taller than his father. |
22. |
最上級・est |
代表文: |
He is taller than his father. |
23. |
比較級・more |
代表文: |
Tom is more intelligent than Jim. |
24. |
最上級・most |
代表文: |
She is the most beautiful woman in town. |
25. |
比較級・副詞 |
代表文: |
He runs faster than you. |
26. |
最上級・副詞 |
代表文: |
She sings (the) best of all the girls. |
27. |
現在完了・継続 |
代表文: |
He has lived in Japan for three years. |
28. |
現在完了・完了 |
代表文: |
The boy has broken the window. |
29. |
現在完了・経験 |
代表文: |
He has once been to Europe. |
30. |
受身 |
代表文: |
Emily is loved by her parents. |
|
|
|
|
項目ごとの短文の数は10なので、この本全体の単文数は300です。苦手にする人が多い最後の項目の「受身」を使ってトレーニングの手順を紹介します。この項目には次のような日本語文とそれに対応する英文が並んでいます。
|
日本文 |
1.
|
|
エミリーは両親に愛されている。 |
2.
|
|
この小説は多くの人に読まれている。 |
3.
|
|
この手紙イギリスにいるおじによって書かれた。 |
4.
|
|
英語は多くの国で話される。 |
5.
|
|
このおもちゃは中国で作られた。
|
6.
|
|
その少年は級友達に笑われた。
|
7.
|
|
その窓は誰によって割られたのか?
|
8.
|
|
彼は交通事故で死んだ。
|
9.
|
|
あなたはみんなに人に好かれるだろう。
|
10.
|
|
彼女はいつ、どこで生まれたのか?
|
英 文 |
1.
|
|
Emily is loved
by her parents. |
2.
|
|
This novel
is read by many people. |
3.
|
|
This letter
was sent by my uncle in England. |
4.
|
|
English is
spoken in many countries. |
5.
|
|
This toy was made in
China。
|
6.
|
|
The boy was laughed at
by his classmates.
|
7.
|
|
Who(m) was the window
broken by?
|
8.
|
|
He was killed in a car
accident.
|
9.
|
|
You will be liked by
everybody.
|
10.
|
|
When and where was she
born?
|
さて、トレーニングに入りましょう。
サイクルを回す
学習の中でもトレーニング性の高いものは必ず同一のテキストを何度か繰り返します。これを、サイクルを回すと言います。文法であれ、構文であれ、語彙であれ、英語を駆使するためには瞬間的に記憶から取り出し(アクセスして)、自由に使いこなせることが必要です。
このような反射的で融通性に富んだ知識は、試験勉強のような一回限りのゴリゴリした暗記では獲得することができません。
大切なことは軽めに何度も繰り返すということです。これを行うことによって、知識が深く確実に刷り込まれ、使いこなすことのできる技術(スキル)に変化するのです。
セグメントに分ける
何度も繰り返すことによって内容を刷り込んでいくのですが、いっぺんにテキスト全体を学習すると、1サイクル終えてテキストのトップに戻ってきた時に記憶が薄れていて、せっかく得たスピードと滑らかさが失われているということが起こります。ですから、ひとつのテキストをいくつかの部分(セグメント)に分割します。
セグメントごとにサイクルを回して完成させ、最後にテキスト全体のサイクル回しをすると能率的です。
こうすると記憶が薄れる前に次のサイクルが回ってきて刷り込みがどんどん進むのです。この30項目のテキストだと10項目ずつ3セグメントに分割するのが標準的ですが、分割のしかたは人によって異なります。
第1サイクル
それでは、最初のサイクルです。はじめてこのテキストにあたるわけですから、このサイクルではじっくりと4つのステップを踏みます。
1.まず、日本語文の内容を理解して英作文をします。
ここで気をつけるのは無駄に時間を費やさないと言うことです。決して一つの文に1分も2分も長考しないで下さい。短文暗唱=瞬間英作文は言語的な反射神経を鍛えるトレーニングなのです。1文につき長くても10~20秒で切り上げて下さい。
2.次に文ごとに英文を見て答えあわせをして理解納得してください。
正しい英文を作ることができましたか?4.や5.で、by many countries、by Chinaとしなかったでしょうか?「多くの国」や「中国」は動作の主体ではないので機械的にbyを持ってこないように。6.で「笑われた」とwas
laughed byとatを落としませんでしたか?「~を笑う」はlaugh atですから、このatが受身になっても行方不明にならないようにして下さい。
7.で詰まる人が多いです。より基本的な一般疑問文は「その窓はピーターに割られたのですか?」を作ってみましょう。これはWas
the window broken by Peter? ですね。7.では「ピーターに」が「誰に」なので代わりにwhomが入ります。疑問詞は文頭に来ますから、Whom(who)
was the window broken by?となります。whomの代わりにwhoを使うほうがより口語的です。
8.ではby a car accidentではなくin
a car accident ですね9.ではbeを落とさないように。どうでしょうか?中学2年の英語と言えども基本がぐらぐらしていると、思わず足をすくわれた個所もあってのではないでしょうか?上に挙げたようなポイントに気をつけながら自作の英文と、解答を見比べしっかり理解・納得してください。そして次に、
3.英文を口に落ち着ける作業をします。
理解・納得した英文を、テキストを見ながら何度か音読して下さい。口になじんだら、テキストから目を離し数回唱えます。テキストを見ながらの音読も、テキストから目を離した暗唱も、単なる音にならないように文構造・意味をしっかり感じ、発話実感を込めて英文を再生して下さい。
例えば7.の文なら、粉々になった窓ガラスを思い浮かべながら、「いったい誰がこんなことをしたんだ?!」と憤慨を込めて言うのです。ばらばらの文を、リアルな感情とともに再生するのは難しいと思われるかもしれませんが、すぐに慣れてしまいます。外国語の習得には多少の芝居っ気が必要です。
テキストから目を離し、スムーズに2~3回言えれば次の文に移って下さい。反復回数は当然ながら文の難度によって変化します。「この花は美しい。」This
flower is beautiful.程度の文なら、スムーズに言えるならば、テキストを見て一回、目を離して一回の、合計2回でもいいでしょう。しかし、「あなたが庭で見つけた花はいい香りがしましたか?Did
the flower you found in the garden smell good? だと構文的にぐっと難しくなるので、口に落ち着けるためにはそれなりの回数を繰り返さなければならないでしょう。いずれにしても、音読パッケージのように数十回も繰り返す必要はありません。
学校英語・受験英語では英語を静止的な知識として扱いますから、理解できたらお終いで、この繰り返しの作業がないがしろにされています。英語を使いこなすことがゴールでないので無理からぬことです。何を目的にするかによってトレーニングの方法は全く異なってきます。「わかっていること」を「できること」にするためにはわかりきったことを繰り返すことが欠かせません。
1~3の作業は個々の文について連続して行います。このように10まで終わったら、
4.10文全部の「英作文の流し」を行います。
「英作文の流し」とは、各項目の仕上げとして10の英文を川が流れるように、なめらかに連続的に再生していくことです。日本文を見ながら、1~3のステップで口に落ち着かせた英文が口からすらすらとでるように状態にして下さい。
途中でつまづいて流れを止める文があれば、その文については3.のステップに戻り再び口に落ち着けます。このようにして流れを堰きとめる個所を復習しながら10文すべて終わったら、一文目に戻り同じ要領で「英作文の流し」を行います。このようにすると苦手な文は当然繰り返しの回数が増えますから自然に弱点を補強することになります。
「英作文の流し」を何度か繰り返してすべての文が発話実感を伴ってすらすらといえるようになったらその項目は終わりです。次の項目に移って1~4のステップを繰り返していきます。このようにして、セグメント全体を終えたら第2サイクルに移ります。
第2サイクル以降
第2サイクルから後はすべて同じで、第1サイクルのステップ4.の「英作文の流し」だけを行います。もちろん流れをせきとめる英文はステップ3.に戻り口に落ち着ける作業をしながらです。とはいっても、第1サイクルで4つのステップを踏み、特にステップ3.でしっかり口に落ち着けているうえ短いセグメントに切るので、トレーニングは順調に進むでしょう。
サイクルトレーニングの特長は、サイクル数が増すにつれトレーニングの負荷が減っていくということです。何度も繰り返す、と聞いただけでうんざりとした顔をする人がいますが、実際にはトレーニングはどんどん容易にかつ快適になっていくのです。第1サイクルでは比較的入念なステップを踏みますが、その際の理解・記憶とセグメント分割を利用してそれ以降のサイクルはとんとん拍子にスピードアップしていきます。この第1サイクルでさえ、一回で覚えきろうなどという邪念はありませんので、負荷はゴリゴリ暗記の10分の1以下でしょう。
サイクルを回していると、5~6回目からスムーズに短文が口から出てくるようになりますが、ここですぐにサイクル回しを止めないで下さい。たやすくできることを楽に繰り返すことにより「熟成」が起こり、深い刷り込みが起こるのです。けんかをする場合、相手が降参したらそこで攻撃を止めるのがルールでしょう。しかし、英語のトレーニングでは、相手が無抵抗になっているときにさらに馬乗りになって殴りつけてとどめをさすことが肝心です。淡白にトレーニングを切り上げ捕まえたはずの獲物を取り逃がさないで下さい。サイクルは楽になってからさらに4~5回回すのが標準です。つまり10回くらいは回すことになりますね。
セグメントからテキスト全体へ
このように一つずつすべてのセグメントを完成したら、今度はテキスト全体を通してサイクルを回します。この際は、第2サイクル以降の手順で結構です。テキスト全体と言っても、セグメントごとに完成しているので、苦も無く仕上がってしまうでしょう。
ただし文法・構文があらかた身につき、短文暗唱の目的が表現の獲得に移っている上級者は、このテキスト全体のサイクル回しは徐々に省いていくようになります。文法・構文の全体的な俯瞰図を体得しなければならない初心者・中級者はしっかりテキスト全体のサイクル回しを行ってください。
以上のプロセスを繰り返しながら、テキスト(あるいはセグメント)の最後に至ったら、頭に戻り同じプロセスを行う。サイクルが深まるごとに、英作文のスムーズさ、瞬間性が増すことを図る。
*セグメントに分割する場合は、セグメントごとにサイクルを回し完成し、最後に教材全体のサイクルトレーニングを行う。
|