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2018年10月29日月曜日

日本では女性への暴力は少ないと言う調査結果に困惑するジェンダー社会学者

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ask.fmで紹介されて拝読したのだが、ジェンダー社会学者の小松原織香氏(font-da氏)が、「女性に対する暴力被害は、EUと比較すると、少ない。暴力の形態に限らず,EUのほぼ半分である」と言う龍谷大学の津島教授と浜井教授の調査結果*1に困惑をして難癖をつけていた*2。ジェンダー社会学 vs 犯罪社会学と言うのが興味深いが、それはさておき難癖になっていることを言及しておきたい。

小松原氏は、

性差別が強く性教育が行き届いていない国では、被害者が自分が暴力を受けていてば、それに気づかず、「暴力であること」自体を認知できない。

ので津島・浜井の結論は支持できないと言うのだが、さすがに日本に夫に殴られた事を暴力だと認識できない妻はいないであろう。性的暴力であれば、夫婦間での性的暴行を法的に認めない社会であれば、夫と不本意ながら性行為を行なっても性的暴行だと自覚しない場合もあるであろうが、事前研修を実施した女性調査員による訪問調査なので、身体的暴力、性的暴力、心理的暴力の定義について説明していると思われ、文化的なブレは抑えられていると思われる*3。さらに、調査への回答によって夫などから制裁を受ける可能性がない事も説明されている。

また、

暴力には「否認」の問題がある。自分の身に起きたことを暴力であると認識することで、被害者は精神的に厳しい状況に追い込まれることがある。そのため、被害者は意識的または無意識的に「これは暴力ではない」と思い込む。その結果、自分に起きた暴力も、他人に起きた暴力も、暴力と認識されない。

と言っているのだが、論理的にちょっとおかしい。被害者は自分への暴力を精神的な理由で否認することがあっても、被害者では無い人が他人への暴力を精神的な理由で否認する理由は無い

小松原氏は理解できていないようだが、津島教授が『日本の調査では女性が「自分の被害」だけではなく「身近な人の被害」についても「聞いたことがある」と答える割合が低い』ことを主張したのは、この精神的な理由によるバイアスが入っていないことを指摘するためであろう。

小松原氏はさらに、

北欧・フランス・ドイツなどの「女性に対する暴力」の割合が高い国に比べて、日本の対策が十分だという人はほとんどいない

から、日本で女性への暴力は少ないことは承服し難いと言っているが、これは因果が逆の可能性、つまり女性への暴力が多い国ほどその対策を迫られた結果、対策が充実した可能性がある。反乱分子の多い中国の警察予算は防衛予算を凌ぐのだ。

事前研修を実施した女性調査員による訪問調査で、調査デザインも欧州のものを踏襲しており、そう粗があるように見えないが、限界はある。

小松原氏は社会運動もしているので問題が矮小化される気がして落ち着かないのかも知れないが、欧州の半分とは言え少なく無い被害女性がいるのは間違いないので、フェミニズムに基づく運動が不要になったりはしない。これはこれで聞いておけばよいと思う。EUの調査を含めて有効回答率は低めなので調査自体に限界もあるが、こういう調査が無いと何も議論できないし。なお、東欧は開発経済ではなく移行経済と言う方が普通である。

おっと書き忘れがあった。ジェンダー社会学以外の話をインプットするのは良いことだと思う。日本では女性への暴力が多いと聞くのを「大変楽しみにしていた」のであろうが、自説を補強する以外の情報も大事だ。

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