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Si負極で大容量より高出力

 電池材料などを手掛ける研究開発型ベンチャー企業である米Zeptor(ゼプター)は、高出力化のためにSi材料を使う(図7)。短時間での充電と大電流の放電を繰り返せる新型のLiイオン2次電池を実用化し、ドローンへの搭載を見込む。ドローンは、高出力モーターの駆動を繰り返すため既存電池では劣化の進行が速い。2018年中にサンプル品を出荷する。

図7 Si系の負極で高速充放電化を狙う
Zeptor(ゼプター)のSi負極の製造設備。同社は、Si電極の容量密度の高さに加え、イオン電導度の高さに着目している。(写真:同社)
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 同社は、Si負極は高速充放電化(高Cレート化)にも適するとみて、1年ほど前に開発の方向性をそれまでの大容量化から高Cレート化に変えた注1)。「(同社が本社を置く)シリコンバレーでは、ドローンをはじめとする空を飛ぶ電動機への関心が極めて高く、有人機の開発も活発だ」(同社)。電池には、高い容量密度に加えて、激しい充放電を繰り返しても寿命劣化が少ない特性が求められる。

注1)高CレートのLiイオン2次電池に関しては、イスラエルのベンチャー企業StoreDotが開発中である。2018年3月、TDKは同社との共同開発を発表した。出資も決めた。StoreDotは有機材料の合成を得意とし、電極や電極と電解質との界面でのLiイオンの移動を高速化している。スマートフォンを5分で充電できるとする。TDKは、モバイル機器などへの応用を計画する。自動車向けは対象外だ。

 同社が開発中の電池は、数十Wを連続して出力して全容量を12分間で放電しきる「5C」のCレートに堪えるレベルという。この高Cレート対応品の容量密度は200Wh/kg前後になる。ここまで高いCレートが求められない仕様にすれば260Wh/kgの容量密度にできるとする。

 負極に適用するのはSi合金材料である。信頼性を維持するため、独自に開発したCNF(カーボンナノファイバー)をSi合金とCu箔に絡ませる。Siは黒鉛に対して熱伝導性が低いために放熱において不利になりがちだが、同社の電池は他のSi負極Liイオン2次電池よりも放熱特性に優れるとする。CNFが熱も効率良く伝えるためである。

 同社のSi負極の製造プロセスは、既存のLiイオン電池向けとほぼ同じで、現行の製造設備をほぼそのまま使える。Cu箔に塗るスラリーを塗布・乾燥させる工程で、スラリーの種類を水溶性の黒鉛ベースの既存品から水溶性のSi含有品に置き換える。

 量産は、協力メーカーに製造を委託する計画である。まずは2019年後半に試験生産を始める。量産時には「Zeptor」ブランドで販売する。