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粒径や添加材料に最適化の指針
こうした3つのメカニズムは、従来の仮説から大きく逸脱したものではない。同社は、課題解決に最も有効な材料特性をより具体的に限定できたようだ。
例えば、特定の正極と電解質の下では、金属Siの粒径を2.8µmにすることで微粉化の悪影響などを緩和でき、サイクル寿命を大幅に改善できることを確認した。
活物質間と活物質と集電体との間の電子の流れを補助する導電助剤は、複数の形状・粒径を特定の配合で混ぜ合わせることで、微粉化したり寸断したりして出来た隙間に、より密着するように入り込む。これにより、劣化に伴う電子移動度の低下を抑えられる。バインダーには、既存の生産工程に変更を加えなくて済む水溶性材料を使って、電極崩壊を抑える粘着性を得られるようにできた。
現時点で確認できた充放電サイクル数は50程度と少ないが、今後さらに改善していく。仮に、2025年時点でのサイクル数を例えば既存の黒鉛負極並みの500回にできなくても、車載用途では意味があると同社はみる。大容量化することで、放電しきらずに充電する頻度が増えるようになり、電池の劣化を抑えられるためだ。実使用時のサイクル寿命が延び、いざというときには長い航続も可能になる。
ポリイミドで400サイクル達成
研究開発志向の化学メーカーであるI.S.Tは、Si系材料を負極に使ったLiイオン電池を開発。既存のLiイオン2次電池並みの400回のサイクル寿命を開発品の試験で確認した(図5)。
同社は、充放電(Liイオンの吸収と放出)に伴うSiの体積変化の影響をポリイミドで抑える研究を10年ほど続けている。1994年に米デュポン(DuPont)のポリイミド事業を買収して以降、同材料を自ら開発・製造しており、Si負極に適切な材料を探索してきた。
今回、Siよりは容量密度は低いが膨張率が2.2倍と小さなSiOxを適用して、実用レベルのサイクル寿命を実現できた。正極は、既存材料のうち大容量化に適したNCM系(ニッケル、コバルト、マンガンによる3元系材料)である。負極の軽量化と、電解質、部品なども見直すことで、電池パックとしての容量密度は既存のLiイオン2次電池の約1.5倍になる。
製造工程を既存品から大きく変える必要はないとする。集電材のCu箔に塗布するスラリーと呼ぶ原料にポリイミドを混ぜる。ただし、乾燥工程は変更することになる。既存のスラリーの乾燥は100℃程度で済むが、ポリイミドでは最低でも200℃ほどになる。高温でCu箔が酸化することがないように、不活性ガスのAr(アルゴン)雰囲気下で処理することになる。
今後は、Siの適用を目指すという。強度の高いポリイミドを使うなどの工夫で実現できるとみる。電池パックとしての容量密度は、既存品の1.7倍程度になると見込んでいる。
既存の電池メーカーのほか、電池製造に新規に乗り出す企業へ技術供与することで実用化を目指す。まずはSiOx適用品を早ければ2020年に量産化する。