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マクセルがSi負極で全固体
(2)の負極材料にSiを適用して容量密度を高める開発は、ここへ来て相次いでいる。量産出荷後の信頼性を高める目的の提案が多い。Liイオン2次電池が、製品レベルで今後数年にわたって着実に進化する可能性を示している。
国際二次電池展ではマクセルが全固体電池に適用したことを明らかにした(図3)。同社が適用したSi系材料は、負極での重量容量密度を、既存品で一般的な黒鉛の少なくとも数倍にできるSiOx(酸化ケイ素)と、約11倍にできるSiで形成した粒子である。この粒子を「活物質の50%以上になるように混ぜた」(同社)という。
同社がSi系材料を負極に初めて使ったのは2010年である。この技術を「ULSiON(アルシオン)」と名付けてスマートフォンなどモバイル機器向けLiイオン2次電池に搭載している。ただし、負極の活物質に占めるSi系材料の比率は現在まで数%にとどまっていた。今回の技術で大半をSi系材料とすることで、重量容量密度は既存のULSiON品の1.5倍以上になる。
今回、電池を構成する電解質の材料を一般的な液体から固体にして、−40~+120℃超といった広い温度範囲での動作を可能とした。規定外の条件などでの使用で生じ得る発火のリスクも低くなる。充放電時の副反応に伴う電解質からのガス発生が抑えられることによる。IoT機器や自動車用TPMS(タイヤ空気圧監視システム)など、過酷な環境での高い安全性が求められる用途に向け2020年までの製品化を目指す。
一般にSi系材料は充放電に伴う体積の膨張・収縮が、黒鉛と比べて大きく、これがSi系材料の利用や利用比率の増加を難しくしている。金属Siにはその4倍超の数のLi原子を挿入できるものの、体積は4倍以上に変化してしまう。
そこで同社は、多数の球状ナノSi結晶とアモルファスSiOxで形成した粒子で、課題を解決したという。比較的柔軟なアモルファスSiOxが、自身とナノSi結晶の膨張・収縮を吸収する。この粒子にはナノカーボンを被覆して、粒子間および粒子と黒鉛との間の電気伝導性も確保した。既存のLiイオン2次電池と同様に導電助剤とバインダーも混ぜている。固体化した電解質材料の種類については、同社は明らかにしていない。
同社は、磁気テープの製造技術を2次電池に展開してきた経緯があることから、全固体電池の製造においても同様の工程を適用する。溶媒を混ぜた電解質を塗布後、乾燥させる。さらに電極との電気伝導性を高めるために加圧する。