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容量1.5倍の正極を全固体電池に

 (1)の正極用の高電圧材料でLiイオン2次電池を開発したのは、電池や電源部品などを手掛けるFDKである。正極材料は、5V前後と高い電圧で充放電し、重量容量密度が860Wh/kgのLi2CoP2O7(ピロリン酸コバルトリチウム)ある。材料そのものは、同じグループ会社の富士通研究所と共同で2017年までに開発していた。重量容量密度は、既存のLiイオン2次電池で多く使われているLiCoO2(コバルト酸リチウム)の1.5倍以上である。

 新材料のLi2CoP2O7は、充放電電位(差動電位)が高い上に、1分子に取り込めるLiイオンが2個と、既存材料の2倍ある。安定した骨格構造を持ち、一般には劣化しにくい。ただし、希少金属のCo(コバルト)を使う点は既存のままとなる。

 国際二次電池展でFDKは新型の正極材料を使った全固体電池を試作し、公開した(図2)。2018年12月までにサンプル出荷する。材料開発発表時の予定からは1年遅れとなる。製造工程の確立に想定よりも時間がかかったためとする。

図2 5V超の高電位材料を正極に採用して大容量に
(a)(b)FDKは、5V超と高い電位(エネルギー)でLiイオンを蓄積できる活物質を正極に適用した。電解質を固体にしたことで可能になった。(c)積層インダクターと同様に量産できる。(d)試作品も見せた。(図:同社)
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 大容量化につながる5V前後での充放電が可能になったのは、電解質を固体化できたためだ。既存の電解質は液体で構成し、正極電圧を4.5V以上に高めると電解質が分解してしまう。固体の電解質にすると、4.5Vでも分解することはなく、新型材料を適用できた。固体電解質はセラミックス系材料である。

 製造には、電源部品の積層インダクターの量産で実績のある生産技術を使う。セラミックスと金属電極を積層して高精度に焼成する技術である。

 IoT(Internet of Things)機器など比較的小容量で低出力の用途での利用を目指す。太陽電池や熱発電素子と組み合わせる用途も見込む。容量密度のみに着目すると、車載用途に適用できる可能性はあるが、大容量化した電池パックとする場合のコストが高くなるという。また出力(放電電流)も高くないとみられる。

 なお全固体電池の製品化で先行しているTDKと比べて、電極材料の違いから10倍以上の重量容量密度を得られるとFDKは主張する。より広範な応用を見込めると期待している。