オーバーロード ありのままのモモンガ 作:まがお
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リ・エスティーゼ王国の王城にあるラナーの私室。
モモンガ達と『蒼の薔薇』は詳しく話を聞くために移動してきたが、ラナーからもたらされた情報にラキュースは眉を顰めていた。
「――アベリオン丘陵、エイヴァージャー付近の亜人達が…… それに法国が動いているなんて……」
蒼の薔薇は過去に一度、法国の特殊工作部隊の一つである『陽光聖典』とぶつかっていた事がある。
陽光聖典が亜人狩りをしている所に遭遇してしまったのだ。人を襲ってもいない亜人を殺す事に憤りを覚えたラキュース達が、それを食い止め退ける形で一戦交えたのだった。
「本来冒険者は、戦争や国の政治に関わる事に参加してはいけません。法国が亜人を間引き、人類を滅びから救おうとしている事にも関わらない方が無難でしょう。しかし、今回はどうも様子が違うようなのです」
てっきり、また法国の部隊が亜人を殺していると思ったガガーランが声を上げる。
「姫さんよ、いったいそりゃあどういう事だ? またアイツらの特殊部隊か、別の兵士なんかが出てきたんじゃないのか?」
「恐らくそれは違います。亜人達が逃げている範囲がおかしいのです。包囲殲滅から逃げたというより、強大な力が押し通って散らばったと言った方が良いでしょう」
「ふむ、正直アベリオン丘陵もエイヴァージャー大森林とやらも知らんから、私には規模がよく分からんのだが…… そもそも法国の特殊部隊ってそんな強いか? 逃げた亜人の強さも知らんが、強大な力が押し通って逃げてくイメージが湧かないんだが……」
モモンガが知っている法国の特殊部隊といえば、ニグン・グリッド・ルーインが率いる陽光聖典である。
「モモンガ様の基準はちょっと…… 六色聖典の一つである漆黒聖典は六大神の遺産とされる物を纏い、他の5つの部隊とは一線を画した強者で構成されているようです。他の部隊に比べて少数精鋭ですが、中には神の血を引く神人と呼ばれる子孫もいるとか。その神人というのは他の精鋭の中でも桁外れに強い存在だそうです」
いくらラナーでも人員や強さなどの詳細までは知らないようだ。
他国の国家機密なので、寧ろこれでも知りすぎているレベルではあるが……
「ですがその部隊が直接の原因ではないでしょう。エルフ達が〈
コイツ実はクライムとエ・ランテルを散策してたんじゃないだろうか。
そう思ってしまうほど情報の幅が広い。
「私は頭を使うのは得意ではない。結論を頼む。ラナーは私達に何をして欲しいんだ?」
モモンガが結論を促すと、ラナーがいつになく真剣な表情でこちらの顔を見渡していく――
「その巨大な化け物とやらを探しに行きましょう!! 未知を暴きにみんなで冒険です!!」
「駄目に決まってるでしょぉぉおお!!」
王城にラキュースの声が響き渡る。
ラナーはやっぱりラナーだった。自分がやりたいことを全力で叶えようとしている。
「心配性ねラキュースは。いざとなったらモモンガ様に全部吹き飛ばしてもらうから大丈夫よ!!」
「それ以前の問題よ!! 一国の王女が冒険していいわけないでしょ!?」
「可愛い子には旅をさせろって言うじゃない。クライム、私の事をどう思いますか? 貴方の目から見て可愛いかしら?」
「はい!! ラナー様は世界で一番美しく可愛らし――」
「惚気てる場合じゃないでしょ!! 御付きの兵士なら止めるべきでしょ」
すっかりラナーのペースに乗せられてしまったラキュース。
シリアスな雰囲気は完全に霧散した。
「はははっ、いいじゃないか。未知を求めて冒険というのは楽しそうだ。王女だからといってやりたい事が出来ないのは寂しいからな。友人として力を貸そう」
「ふふふっ、それは嬉しいですね。さぁ、行く事はもう決定しました。目撃情報を精査するので三日後くらいに出発しましょうか。ラキュース達は行かないのですか?」
「っ〜!! もうっ!! 私達も一緒に行くわよ!!」
結局ラナーを放っておけないラキュースは行く事を決意した。
一体どこから計算された行動だったかは、ラナーのみぞ知る……
ラナーの提案により謎の巨大な化け物を探すため、未知の冒険へ行くことになったモモンガだったが避けては通れぬ高い壁があることを忘れていた。
(仕方ない、アレをするしかないな……)
「――というわけでして、私とネムが提供させていただく本企画はエンリ様の成長に繋がり、未知への探究心を満たす素晴らしい経験と――」
「ダメです」
「お姉ちゃん、手強い……」
――そこにはエンリという名の高い壁が立ち塞がっていた。
「くっ、あの場は勢いで言ってしまったが、こうなる事は予想すべきだった……」
「好奇心を満たすためだけという理由で、ネムをそんな危険な所には連れて行けません!」
エンリから告げられたあまりの正論に、モモンガはネムやエンリも一緒に行くという要求を通せなかった……
似たような事が『蒼の薔薇』でも起こっていた。
「鬼ボス、いってら」
「鬼リーダー、いってら」
「まぁ、姫さんのあの様子だとそこまで危険でもないんだろ。たまには友達とピクニック気分で楽しんで来いや」
ラキュースは私達も一緒にと言っていたが、誰も参加するとは言ってない。
イビルアイはラナーの我儘に付き合う気は最初から無い。
ティアとティナも今回の冒険には興味が無かったようだ。
ガガーランに至ってはラナーの話していた様子から危険は無さそうと判断し、純粋に友達とのお出かけを楽しんで来いと送り出すような雰囲気だ。
つまり『蒼の薔薇』として参加する気は誰一人無かった。
「そういう事だ。偶には一人で頑張って来い」
イビルアイの無慈悲な言葉により、蒼の薔薇よりラキュースの一人参加が確定した。
トブの大森林にあるモモンガの家の前で、ブレインはある修行をモモンガに提案していた。
「今まで近接戦闘ばかりを磨いてきたが、相手がそれに合わしてくれるとは限らない。遠距離にも対応できるように、対
「確かに敵の戦法がどんなものかは戦うまでは分からないからな。どんな内容の修行がしたいんだ?」
ブレインの言うことに納得したモモンガは、どんな修行をするのかと先を促す。
「実戦的なのが手っ取り早いが、お前が魔法を使って戦うと戦闘にならん。そこでだ、まずは
この世界では第1〜第3位階の魔法が主流のため、ブレインの言うこともあってはいる。〈
普通の矢なら連続で打たれても既に弾けるため、ただの遠距離攻撃ではなく複数なら同時に飛んでくる〈
「さぁ、俺に〈
ブレインは実際に見た事はないが、知識から想定している一流の
武技〈六光連斬〉を使える事から同時に6つは防げるとの考えだろう。
「分かった。二倍で放てば良いんだな? 〈
「……嘘だろう?」
予想をはるかに超えた数の光弾が迫り来るなか、しみじみとブレインは思う。
――ああ、俺はまだまだ自惚れていたようだ。一流の
目の前の骨は一流の域など遥かに超越しているのだが、戦いにおいて色んな感覚が麻痺してきたブレインはそんなことを考えない。
ブレインはまだ見ぬ