上田麻由子

第23回・まぼろしの舞台少女

『少女☆歌劇 レヴュースタァライト -The LIVE- #2 Transition』

 幼いころから観た、運命の舞台『スタァライト』。そのスポットライトの中心である「ポジションゼロ」に立つことを目指して、聖翔音楽学園俳優育成科に通う9人の「舞台少女」は、情熱と「キラめき」をぶつけあっていた。そんな彼女たちが文化祭で上演した『スタァライト』は、また別の「舞台少女」たちの情熱を燃え上がらせる。他校からやってきた3人の少女との交流プログラム。しかしその実態は『スタァライト』の上演権を奪い合う、熾烈な戦いだった。少女たちは、これまで見て見ぬふりをしていた心残りや執着と向き合うため、オーディションに臨む。「つねに新しい舞台を求めるものだけが、ポジションゼロに立つ資格を持つ。舞台に求められたいのなら戦え、舞台少女たちよ」

舞台少女の系譜

『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』は、2・5次元というジャンルが成熟したなかで生まれてきた作品だ。トレーディングカードゲームやそのアニメ化、キャラクタービジネスなどを手がけるブシロードと、『ミュージカル「テニスの王子様」』など2・5次元舞台の制作を長年にわたって牽引してきたネルケプランニング、そしてアニメ制作会社のキネマシトラスがタッグを組んでつくられた本作は、たとえばアニメ放送前に舞台が上演されたり、舞台のキャラクターとアニメの声は同一人物が担当したりするなど、はじめから舞台とアニメを連動させることが想定されている。アニメや漫画、ゲームといった原作ありきの、ある種の二次創作的な立場から解放された2・5次元舞台、惹句によると「ミュージカル×アニメーションで紡ぐ二層展開式少女歌劇」だ。

 もう一点、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』が異色なのは、女性俳優だけで演じられているということ。もちろん2・5次元舞台の歴史を紐解けば、多くの女優たちが板の上に立ってきた。たとえば『美少女戦士セーラームーン』のミュージカル版(「セラミュ」)は、アニメ放送と同時期にメディアミックスの一環として1993年に始まり、2013年からは先述のネルケプランニングによるオール・フィーメールの公演で、舞台上も客席も女性中心の2・5次元舞台を実現している(本作の2年A組からも愛城華恋役・小山百代は水野亜美/セーラーマーキュリー役、柳小春役の七木奏音は火野レイ/セーラーマーズ役で出演している)。また帝国歌劇団の女優として舞台に立つ少女たちが、そのいっぽうで帝国華撃団・花組として降魔という怪物と戦う姿を描いた『サクラ大戦』も、ゲームのリリース翌年(1997年)から、アニメの声優たち自身が演じる舞台版『サクラ大戦 歌謡ショウ』が長く上演された。言うまでもなく、こうした女性による2・5次元舞台の源流には『サクラ大戦』がモチーフにしている、宝塚歌劇団の長い、長い歴史がある(ネルケ版「セラミュ」の初代・タキシード仮面は、元宝塚歌劇団宙組トップスターの大和悠河が演じたことからも、特に技術と経験が求められる女性キャストに関しては、現在も宝塚のOGに負うところは大きい)。

『レヴュースタァライト』の少女たちが通う「百年の歴史を持つ由緒正しい女学校」で「演劇界を担う次の才能の育成」を目的とした聖翔音楽学園俳優育成科は、いうまでもなく宝塚音楽学校をモチーフにしている。大きく異なるのは、宝塚のように「男役」「女役」に分かれることなく、たったひとり「ポジションゼロ」に立てる「トップスタァ」を目指しつつも、特にアニメでは2人1組のカップルを中心に描く「百合」色が強いことだ。そしてまた、本作で9人の「舞台少女」を演じるのはみな舞台経験者とはいえ、声優、歌手、モデル、レスラーなど、さまざまな経歴も持っていること。近年、2・5次元舞台が若手男性俳優を育成する一種の「学校」になっている状況も鑑みると、本作にはまさに「舞台少女」として輝き続けることを目指す、俳優自身の物語もが重ね合わされている。

頂きの向こうにあるもの

 まずは『少女☆歌劇 レヴュースタァライト -The LIVE- #1』(およびその再演)が舞台上演され、トップスタァを目指して、夜な夜な繰り広げられる「オーディション」で行われる「レヴュー」で、それぞれの武器を手に取り決闘する、一種のバトルロワイヤルが描かれた1クール12話のアニメがテレビ放送された。そして本作『少女☆歌劇 レヴュースタァライト -The LIVE-#2 Transition』はまさに、そのアニメ12話の直後から物語になっている。

 学園の文化祭である聖翔祭で上映された戯曲『スタァライト』。そこで神楽ひかりと愛城華恋は、幼いころに憧れ、また舞台少女をめざすきっかけともなったクレールとフローラという運命で結ばれた2人を、他の7人のクラスメイトとともに演じきる。手に手を取りあって「みなさん、本日はありがとうございました」と声を合わせ、客席に一礼。そして、舞台に降りた緞帳の裏から、物語ははじまる。緊張が一気にほぐれつつも、興奮がいまだあたりを包み、やりきったという思いが、少女たちの声を弾ませ、瞳を輝かせる。さっそくはじまるダメ出しに、落ち込む者もいる。しかし、ひとつだけ共通しているのは、次こそは「主役の座を奪うのはわたしだ」という思い。

 9人による、美しく完結した世界――しかしこの舞台は、そんなふうにアニメ12話で描かれた幸せな世界に「本当にそれでいいのか?」と、疑問をつきつける。そのために、彼女らの心の拠り所である戯曲『スタァライト』を盗みにやってきた、青嵐総合芸術院という他校の生徒3人とその顧問を使って、彼女たちの安定した関係を撹乱するのだ。やがて神楽ひかりは、こう問いかける。「たしかにわたしたちの夢は叶ったのかもしれない」でも「もし客席で、観客としてわたしたちが『スタァライト』を観たとしたら、悔しいって思わないのかな。たった一度、ふたりであの役を演じたことに満足して、それでわたしたち、いいのかな」。そうやって「舞台少女」たちがある種の籠の中の鳥、井の中の蛙であることを気づかせるのだ。

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