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休日は家族に嘘つきマンガ喫茶へ…壊れた自衛隊エリートの不安と苦悩

日本が保持する「戦力」の最大タブー

日本のインテリジェンスの恥

首相、防衛相にも知らせず、冷戦時代から中国、ロシア、韓国、東欧などに身分を偽装した隊員を派遣し、情報活動をさせている自衛隊の秘密情報部隊「別班」について言及した拙著『自衛隊の闇組織 秘密情報部隊「別班」の正体』(講談社現代新書)の刊行後、さまざまな意見を頂戴した。

たとえば、「同様の情報活動をしている組織は自衛隊だけではない」「海外にも存在しているではないか」といった指摘である。

たしかに、拙著でも述べているように、アメリカのDIA(国防情報局)のような対外ヒューミント(人的情報活動)を行う軍事組織は海外にも存在する。しかし、それらは文民統制が徹底されており、自衛隊の「別班」とは明らかに異なる組織であることは、重ねて強調しておきたい。

張作霖爆殺事件や柳条湖事件を独断で実行した旧関東軍の謀略を挙げるまでもなく、政治のコントロールを受けず、組織の指揮命令系統から外れた部隊の独走は、国家の外交や安全保障を損なう可能性があり、極めて危ういといえる。

元外務省主任分析官の佐藤優氏も、別班については、〈独善的な国益感を持った分子が、別班の名の下に「私的インテリジェンス」を行って、国家権力を簒奪しているに過ぎない。このような事態は、文明的な民主主義国では考えられない。まさに日本のインテリジェンスの恥である〉と指摘している。

休日は家族にウソをついてマンガ喫茶へ

この取材を通じて何人もの別班OBたちと会ってきたが、常に彼らの視線や表情に違和感を覚えてきた。まず気になったのが、彼らの〝普通ではない〟眼だ。元別班員たちはほぼ例外なく、相手の心の中を透視でもするかのような――冷徹なまなざしをしていた。

私は1994年から防衛庁(現防衛省)の担当記者をし、これまでに数多くの取材をしてきたが、一般的な自衛官とはまったく違う眼をしている(強いていうなら、かつてロシアのウラジオストク郊外の原子力潜水艦修理工場で私を拘束した、旧KGBの連邦保安局〈FSB〉捜査員に似ているかと思う)。

では一体、どうしてそんな、一度見たら脳裏から消し去ることができないような眼になってしまったのか――。

 

それは、陸上自衛隊小平学校(現情報学校)でスパイ要員を養成する心理戦防護課程(現DPO、旧CPI)を修了したある別班OBが「完全な洗脳教育だった」と振り返るように、同課程の特殊ともいえる教育内容、そして同課程を最優秀の成績で修了したものだけが配属される「別班」での過酷な活動や、時に行わざるを得ない非合法な任務にあるとみている。

心理戦防護課程では、諜報(密かに情報を収集すること)、防諜(スパイの侵入や活動を防ぐこと)、謀略、宣伝など情報に関する座学のほか、追跡、張り込み、尾行、そして尾行をまく訓練もある。

基礎教育終了後は、在日本朝鮮人総聯合会(朝鮮総聯)の幹部に食い込んで内部情報を取ってくる訓練や、突然、地方の町に出張させられ、町民から怪しまれないようにその町の権力構造を調査する訓練もあるという。