Org-mode による HTML 文書作成入門
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1 始めに
このドキュメントは、Emacs と Org-mode を使って HTML 文書を作成するのに必要な最低限のノウハウをまとめたものです。
Org-mode を使えば、簡単に、整った HTML 文書を書くことができます。 HTML の知識はほとんど必要ありません。 (知識があれば、さらに高度なことをすることもできます。) Org-mode 自体の知識もほとんど必要ありせん。 Org-mode の記法の知識は多少必要ですが、 HTML を直接エディタで編集するよりはずっと楽です。 何せ、Org-mode 用のソースファイルは、それ自体をテキスト文書として他人に読んでもらうことができるくらいです。 (読み手が Emacs を使っていればなおさら。)
Org-mode は Emacs 22 あたりから標準リリースに含まれるようになりました。 このドキュメントでは Org-mode 自体のインストールについては触れないので、 標準添付されていなかったり、最新のものを使用したい場合は、各自でインストール方法を調べる必要があります。 Org-mode は http://orgmode.org で公開されています。
フッタを見れば分かりますが、このドキュメント自体も Emacs と Org-mode を使って書かれています。 このドキュメントに書いてある知識だけで、少なくともこのドキュメントと同等のものを作成することができます。 ただ、このドキュメントはあくまで入門書ですし、 Org-mode は名前からも分かる通り、 そもそも HTML での文書作成を主目的としたものではないこともあって、 ここには書いていない機能がたくさん (本当にたくさん) あります。 より詳しい説明は、 info などを参照してください。
2 文書作成の流れ
まず最初に、 Org-mode を使った文書作成の流れを概観します。
2.1 Org-mode 用のソースを用意する
Org-mode 用のソースファイルの拡張子は .org です。 ファイル名は何でも構いませんが、デフォルトではそのファイル名が文書のタイトルになります。 Emacs で .org ファイルを開いたら、それで準備完了です。 これはテストなので、内容は空で構いません。
2.2 HTML として出力する
文書を HTML として出力し、それをブラウザで見るコマンドは C-c C-e b
です。
これだけで、 .org から .html が生成され、それがブラウザで開かれます。
以下のような結果が出力されたでしょうか。
タイトルが "test" となっているのは、このサンプルのファイル名が test.org だからです。
HTML として出力するだけであれば C-c C-e h
なのですが、
ほとんどの場合すぐに結果を確認したいと思うので、こちらを使うことはあまりないでしょう。
3 ソースファイルの書き方
3.1 文書情報
まず、文書に関する情報を記述します。 既に見たように、何も記述しなくても Org-mode は必要な情報を Emacs の設定などから自動的に抽出しますが、それでは都合が悪いことも多いでしょう。
例えばこのドキュメントの場合は、以下のような情報をソースの先頭に記述しています。
#+TITLE: Org-mode による HTML 文書作成入門 #+AUTHOR: MORIMOTO Ken #+LANGUAGE: ja
英語の意味から分かると思いますが、上から順に、文書のタイトル、著者、言語を宣言しています。 もしメールアドレスを指定したい場合は以下のようにします。
#+EMAIL: user@example.com
3.2 見出しと本文
基本的に文書は、見出しと本文で構成されます。
見出しは、行頭に '*
' を書きます。
'*
' の数によって見出しの大きさが変わり、数が多いほど見出しの扱いが小さくなります。
本文については、特別な書き方はありません。
空行は段落の区切りと見なされます。
以下が記述例です。 Emacs によって見出しに色付けが行われるので、プレーンテキストよりも読み易くなっています。
* 文書作成の流れ まず最初に、 Org-mode を使った文書作成の流れを概観します。 ** Org-mode 用のソースを用意する Org-mode 用のソースファイルの拡張子は .org です。 ファイル名は何でも構いませんが、デフォルトではそのファイル名が文書のタイトルになります。 Emacs で .org ファイルを開いたら、それで準備完了です。 これはテストなので、内容は空で構いません。 ** HTML として出力する 文書を HTML として出力し、それをブラウザで見るコマンドは =C-c C-e b= です。
見出しにポイントを合わせて TAB
を押すと、その見出し以下の表示を Emacs 上で隠したり (閉じたり)
再表示させたり (開いたり) できます。
また、 S-TAB
でソース全体の見出しの表示レベルを変更することができます。
Emacs で .org ファイルを開いた時には、大見出し以外は全て閉じられている状態なので、
ソース全体を確認するには S-TAB
で再表示を行う必要があります。
最初は慣れないかもしれませんが、そのうち便利に感じるようになると思います。
3.3 文字の装飾
文字を装飾する記法もいくつか用意されています。 残念ながら class などが指定されていないので、スタイルシートで装飾することが難しくなっています。 (Org-mode のバージョンによって HTML での表現は異なる可能性があります。)
.org での書き方 | HTML での表現 | 表示結果 |
---|---|---|
*太字* | <b>太字 abc</b> | 太字 abc |
/斜体/ | <i>斜体 abc</i> | 斜体 abc |
_下線付き_ | <span style="text-decoration:underline;">下線付き abc</span> | 下線付き abc |
+取消線付き+ | <del>取消線付き abc</del> | |
=コード= | <code>コード abc</code> | コード abc |
~等幅~ | <code>等幅 abc</code> | 等幅 abc |
3.4 ハイパーリンク
Org-mode は、ソース中の 'http://example.com' のような記述を自動的にハイパーリンクに変換しますが、 URI の代わりに分かりやすい文字列を表示したいなどの場合は、
[[リンク先][表示文字列]]
という記法を用います。 例えば、
[[http://www.google.co.jp][Google 日本]]
と書けば、「Google 日本」のように HTML で出力されます。 ただ、 Emacs で編集していると、ハイパーリンク用の記法で書いた瞬間に Emacs 上での表示も
と書けば、「Google 日本」のように HTML で出力されます。
という風に変わるので、最初は戸惑うかもしれません。
このように表示が変わった状態でも、表示文字列の編集は普段通り行うことができますし、
リンク先については C-c C-l
で編集できます。
あるいは、ハイパーリンクの後ろにポイントを合わせてバックスペースを押すことで、
リンク記法の最後の ']
' を削除することもできます。
3.5 画像
画像を埋め込む場合は、
[[file:ファイルのパス]]
という、ハイパーリンクに似た記法を用います。 これもハイパーリンク同様、書いた瞬間に
file:img/icon.png
のように Emacs 上の表示が変わります。
もし、 HTML の img タグに属性を追加したい場合 (典型的には alt 属性) は、以下のような特別な書き方をします。 属性はいくつ指定しても構いません。
#+ATTR_HTML: alt="代替文字列" class="クラス名" file:img/icon.png
3.6 リスト
リストは、各要素の先頭に決まった文字列を書くことで表現し、リストの深さは空白によるインデントで表現します。
数付きのリストの場合は、"1.
" や "2.
" のように書きますが、
HTML 出力時には数字自体は無視され、必ず 1 からの連番となります。
数字無しのリストの場合は "-
" と書きます。
いずれも、 空白を挟んでから 内容を記述することに注意してください。
以下に例を示します。
1. January - 元旦 - 成人の日 2. Feburuary - 建国記念の日
上記のように書くと、以下のように出力されます。
-
January
- 元旦
- 成人の日
-
Feburuary
- 建国記念の日
3.7 テーブル
行頭が '|
' で始まる行はテーブルと見なされます。
テーブルの区切りも '|
' です。
また、行頭が "|-
" で始まる行はテーブルの区切りで、ヘッダ、ボディ、フッタを分離します。
以下に例を示します。
|ヘッダ A|ヘッダ B| |- |値 A|値 B|
このように書いたものは、以下のようなテーブルとして出力されます。
ヘッダ A | ヘッダ B |
---|---|
値 A | 値 B |
Org-mode でテーブルを編集していると気づくかもしれませんが、
テキストで見てもテーブルに見えるように自動整形する機能があります。
上のソースの、テーブルのどこかで TAB
を押すと、以下のように整形されます。
| ヘッダ A | ヘッダ B | |----------+----------| | 値 A | 値 B |
フォントが等幅であれば、きちんと罫線が繋がっているように見えるはずです。
3.8 プログラムソース
プログラムソースを書く場合は #+BEGIN_SRC
と #+END_SRC
を使い、以下のようにモード名も記述します。
#+BEGIN_SRC c++ #include <iostream> int main(int argc, char** argv) { std::cout << "Hello, world." << std::endl; return 0; } #+END_SRC
すると、指定したモードによって出力時に色付けが行なわれ、以下のように出力されます。
#include <iostream> int main(int argc, char** argv) { std::cout << "Hello, world." << std::endl; return 0; }
勿論、プログラム用のモードに限らず、"fundamental" や "text" を指定しても構いません。 ただし、色付けには別途 htmlize.el が必要です。
3.9 HTML の埋め込み
HTML を直接記述したい場合は "#+HTML:
" に続けて書くか、 #+BEGIN_HTML
と #+END_HTML
を使います。
単純なタグであれば、タグの前に '@
' を付けることでエスケープもできます。
Hello, @<strike>world@</strike> Japan. #+HTML: <span class="foo">HELLO</span> #+BEGIN_HTML <div class="bar"> Hello, world. </div> #+END_HTML
3.10 コメント
HTML に出力されないコメントを書きたい場合は、行頭に '#
' を書くか、
インデントされた行頭 (行頭でも可) に "#+
" (空白が必要なことに注意) を書くと、
その行全体が無視されます。
3.11 出力オプション
出力のオプションは、以下のように書きます。
#+OPTION オプション:値 オプション:値 ...
オプションには以下のようなものがあります。 他にも色々あるのですが、このドキュメントの読者に必要そうなものだけをピックアップしました。 より詳しくは info を参照してください。
オプション | 意味 |
---|---|
H | どのレベルまでを見出しとし、どのレベル未満をリストとするか (1 〜) |
num | 見出しに番号を付けるかどうか (nil / t) |
toc | 目次を出力するかどうか、どのレベルの見出しまで目次に載せるか (nil / t / 1 〜) |
^ | '_' を下付き文字列の開始記号とするかどうか (nil / t / {}) |
author | 著者情報を出力するかどうか (nil / t) |
creator | 出力ツール (Emacs と Org-mode) 情報を出力するかどうか (nil / t) |
timestamp | タイムスタンプを出力するかどうか (nil / t) |
このドキュメントでは、以下のように指定してあります。
#+OPTIONS: ^:nil toc:2
4 その他
4.1 スタイルシートによる文書の装飾
Org-mode の出力する HTML ソースは、スタイルシートで装飾しやすいように、 適宜 id や class が指定されています。 使用するスタイルシートを設定するには、ソースの中に以下のように記述します。
#+STYLE: <link rel="stylesheet" type="text/css" href="スタイルシートのパス" />
このドキュメントでは、スタイルシートについての説明は行いません。 スタイルシートについての知識がなく、それでも文書作成を急いでいる場合は、 ひとまず このドキュメントのスタイルシート をそのまま使っておけば、 このドキュメントと同じデザインにはできます。
4.2 任意の文字を任意の場所に書くための改造
少なくともこのドキュメントを作成している Org-mode では、
思い通りの場所に思い通りの文字を書けないことがあります。
例えば、テーブルの中に '|
' を書くと、どうしてもセルの区切りだと見なされてしまうので、
'|
' を書くことができません。
HTML では、" 
" の様に文字コードで文字を表現することができるので、
'&
' さえなんとか HTML に出力できれば、任意の文字コードを表現できるということになります。
しかし、当然 Org-mode が '&
' を '&
' に変換してしまうので、
HTML 出力後のフックを利用して、逆変換するようにしてみました。
;; .org ファイル中の "@&" という文字列を、 HTML 出力時に "&" に置換する。 ;; つまり、テーブルの中で '|' を使いたければ "@|" と書いておけばいい。 (add-hook 'org-export-html-final-hook '(lambda () (perform-replace "@&" "&" nil nil nil)))
4.3 このドキュメントのソース
このドキュメントのソースを ダウンロード できるようにしておきます。 参考になれば幸いです。
Date: 2011-03-13 13:47:18 JST
HTML generated by org-mode 6.33x in emacs 23