ビ・ハイア株式会社公式ホームページより
今年2月、ゲーム業界の求人広告会社「ビ・ハイア」(東京)から業務委託を受けていた大山莉加さん(当時30歳)が自殺した。10月17日、大山さんの遺族と元同僚の男性2人が、計8800万円の損害賠償と賃金未払いの支払いを求めて、同社と代表取締役社長・清水有高氏に対して訴訟を起こしている。
同17日には、厚労省の記者クラブにて元同僚の男性2人と弁護士らが会見を開き、同社のパワハラを告発している。これについては朝日新聞のほか、10月23日放送の『ビビット』(TBS系)が、詳しく報じた。
きっかけとなった大山莉加さんの自死
大山さんは2018年2月25日、同社の清水有高社長に「わたしは死んだほうがマシですか?」という趣旨の連絡をした。すると、清水社長は激昂して大山さんの目の前でパソコンを破壊し、「死んでもゴミが増えるだけだ」などと、暴言を吐いたという。大山さんはその日の午後、会社のビルから飛び降りて自殺した。
原告は、大山さんが自死に至った背景には、清水社長によるパワハラがあると訴えている。
「賃金ゼロ」「3分置きのメール強要」原告側の主張
自死した大山さんと原告男性の2人は当時、業務委託という形態で働いていたものの、実質的には雇用関係のある従業員だったという。通常であれば「業務委託契約」は個人事業主と同じ扱いで、労働者にはみなされないが、実態は違ったとの主張だ。
業務委託契約での報酬は月額100万円で、清水社長は原告ら社員にブランドバックや靴を買い与えるなどもしていたという。しかし、その代金を社長から会社への「貸付金」として計上。また、原告の1人には「守秘義務違反」があったとして、数千万円の損害賠償を要求していた。いずれも「借金」として、給与から天引きしていたという。「借金」の額は、大山さんが4000万円、ほかの2人はそれぞれ6000万円と800万円にものぼるとされている。
この膨大な「借金」のために、労働の対価として支払われるはずの報酬は、実質的にゼロだった。原告たちは家賃を払えず、会社に寝泊まりせざるをえない状況に追い込まれて、オフィスの床に毛布やタオルケットを敷いて眠っていたという。さらにここでも、家賃やパソコンの使用料など称して、1000万円を請求されながら働き続けた。
まるで「借金」をカタに取られていたかのような状況に見える。その「借金」すら、言いがかりにしか見えない。けれど冷静な判断力も奪われていたのか、原告らはその環境で働き続けた。
本来は業務時間外であるはずの夜中にも、清水社長からはスマートフォンのメッセージアプリで3分おきに連絡するよう命じられ、一晩中「起きてます」とメッセージを送り続けた。これは証拠のLINE画面も公表されている。深夜~早朝にかけ3分ごとに「起きてます」とメッセージを送り続ける原告。社内には監視カメラが設置され、24時間、清水社長の監視下にあった。
日々の食事に困窮すると、清水社長は事務所に備えつけた「乾燥大豆」を与え、1日1食の生活を強いられたという。財布やキャッシュカードも没収されていたようだ。
このような異常な状況から逃げられなかった理由について、原告の男性は「少しでも反論すると清水社長は激高する。疲労から判断力が失われていた」と、表現している。
清水社長はしばしば、大きな声で罵倒する、ペットボトルの水をかける、シガースタンド(喫煙具)を投げつけるなどの暴力行為も行っていた。
「ビ・ハイア」の異常な労働環境について、17日の記者会見に同席した弁護士は「現代の奴隷契約」「現代におけるブラック企業の問題点がすべて含まれている事案」と、表現していた。しかし、原告の証言がすべて事実であるならば、「ブラック企業」や「パワハラ」などという横文字では、もはや生ぬるいのではないかとさえ思わされる。
清水有高社長の主張は食い違う
一方で、被告の清水有高社長は『ビビット』の取材に対して、原告の訴えを「事実無根」と真っ向から否定している。
清水社長は、「原告らがブランドものを欲しいといったときに個人的にお金を貸してあげたもので、給料天引きの事実はない」「彼らが自分たちの意思で会社に住んでいた」「24時間監視した事実はない」と反論。
さらに清水社長は、原告の1人には「深刻な契約違反」があったとして、原告に対する訴訟を検討していると表明。それは、顧客からの販売代金を不正に個人口座に入金していたとの疑惑だという。
自社HPでも、<弊社は原告に事務所に住むよう強制した事実は一切ありません。原告たちは事務所の鍵を持ち、いつでも自由に出入りできました。事務所に住むことを申し出たのは原告側です。><原告が弊社および代表取締役清水有高に経済的な自由を奪われていたという原告の主張は虚偽です。弊社は原告に正当な報酬を払っていました。>と主張している。
両者の見方は完全に食い違っており、今後は法廷で争われることになる。
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