カテゴリー: タイの山岳民族(三輪隆) | 2007.05.21 Monday
「ロッコン」はアカ族の人々とって、人間の世界と霊の世界を分け隔てる「結界」の役割を果たしていると考えられている。門を境にして外側(森)が霊や鬼の住む世界であり、内側(里)が人間の住む世界である。人間の世界と霊の世界ではそれぞれ異なる流儀で生活しなければならず、住み分けることによって分かれて住むことによって、この世界の安定が保証されるのである。
アカ族は病気治療などの儀礼を行うときに犬を殺して食するが、このとき、犬は必ず門の外側で殺さねばならない。また、葬式の野辺送りのとき、棺や参列者は必ずこの門をくぐって村を出て、埋葬から帰ってくるときはこの門をくぐって村に帰らなければならない。
霊の世界である森の中にはさまざまな邪悪な霊がさまよっているが、いったんこの結界の中に入ってしまったら、そこは人の世界で、霊は人間に悪さをすることができないと信じられている。ロッコンは魔よけの門でもあるのだ。門の上の部分には、鳥や魚やカエルなどの動物、はては飛行機、ヘリコプターなどの文明の利器をかたどった木彫の細工が付加されているがこれが何を意味するかはよくわからない。守護神のようなものであろうか。
村の中で病人がでたときには、ここで悪霊祓いの儀礼をし、また人の体から出て行ってしまった魂を呼び戻すため(アカ族では多くの病気は魂が体内から離脱するために起こると信じられている)の儀礼をする。
ロッコンの横には、同じく木でできた一対の男女の人形のようなものが並べ置かれている。男女が向かい合ってあたかも交合するように配置されているものもある。男女とも股間にはかなり誇張された性器がかたどられている。リンガ(男根)は巧みな彫刻によって、ヨーニ(女陰)はどこから見つけてくるのか、うまいぐあいにえぐられ周辺に苔が生えたりしている三又の枝などが使われている。日本の道祖神のようなものであろうか。
「ロッコン」は毎年、暑期の真っ盛りの頃、4月の「馬の日」(アカ族も暦に十二支を用いる)に、村の男たちが集まって新しいものが建てられる。稲の播種の前に行われるこの儀礼は、ズュマと呼ばれる村の長(祭司)が中心になり、村の男たちが集まって行われ、門を建てた後、生米や生卵を地面にまく儀礼が遂行される。新しいロッコンは古い門の外側に重ねるように建てられるので、古いものが朽ち果てたり倒れたりせず残っている場合、この門の数を数えれば、その集落ができて何年経過したかを知ることができる(ただし、たいていの場合、古いものは朽ち果ててしまって原型をとどめていない場合が多い)。2ヶ所のロッコンの儀礼が終わると、村に戻って、ズュマの家で料理が振舞われる。
ロッコンは、神聖な建物であり、みだりに触れることはできない。もし村人もしくは外来者がうっかりこの門に触ってしまった場合は、豚もしくは鶏を生贄にして、儀礼をやり直さなければならないそうだ。アカの村に遊びに行くときは気をつけられたし。
(97号掲載)
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