モモンガ様自重せず   作:布施鉱平
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 モモルのお披露目式から約二ヶ月、王国と帝国の戦いが始まろうとしていた。

 戦に向かうアインズ様は、誰を連れて行くか守護者と話し合いをするが────


モモンガ様、帝国相手に自重せず(中)

◆ナザリック戦力向上会議────

 

 

「────ふむ、ということは、だ。この世界の人間を素体とした死の騎士(デス・ナイト)は武技を覚えることができたが、ユグドラシル金貨を消費して召喚した死の騎士(デス・ナイト)は覚えることができなかった。そういう結果になったわけだな?」

 

「ハイ、アインズ様。ハムスケト共ニ修行ヲサセテイタ死ノ騎士(デス・ナイト)ト同時進行デ、傭兵モンスターノ死ノ騎士(デス・ナイト)ニモ同ジ修行ヲサセテイタノデスガ、コチラノ方ハ一切武技ヲ覚エル気配ガアリマセン」[コキュ]

 

「なるほどな。純粋なユグドラシル出身者…………という言い方もどうかとは思うが、つまり私やNPCたちが武技を使えるようになる可能性は極めて低いということか」

 

「残念デハアリマスガ…………」[コキュ]

 

「いやいや、十分な結果だ、コキュートス。我々が使えずとも、武技を使えるアンデッドを量産できることが分かったのだ。その利益は計り知れないぞ」

 

「まさに、アインズ様のおっしゃる通りです。今後人間を素体とした死の騎士(デス・ナイト)に武技を習得させて行けば、確実な戦力強化が見込めます。

 また、元々武技やタレントを持っている人間を吸血鬼の眷属化した場合には、生前の武技やタレントをそのまま使うことが出来るという結果も出ています。

 これを踏まえ、有用な能力を持つ者は吸血鬼の眷属に、無能な者は死の騎士(デス・ナイト)にしたうえで武技の習得をさせていけば、より効率的な戦力強化をすることが可能でしょう」[デミ]

 

「その通りだ、デミウルゴス。ゆえに、今後は死霊術の研究に力を入れるべきだろうな」

 

「ナルホド。コノ世界ノ人間ヲ素体ニシテ作ルコトガ出来ルアンデッドハ、死ノ騎士(デス・ナイト)ガ限界…………シカシ、死霊術ノ研究ヲ進メルコトデ、サラニ強イアンデッドヲ生ミ出セルヨウニナレバ…………」[コキュ]

 

「そう、無能な人間から、力と技を併せ持つ強力なアンデッドを生み出せるようになるのだよ。無から有を生み出す…………まさにこの世界の神となられるアインズ様にふさわしい御業(みわざ)と思わないかね、コキュートス」[デミ]

 

「全クダ。アインズ様ノ英知ト御慧眼ハ、私ノ想像ノ及ブトコロデハナイ」[コキュ]

 

「コキュートス、お前の協力があってこそ結果を出すことができたのだ。それにお前が蜥蜴人(リザードマン)を滅ぼすべきではないと進言してくれなければ、この計画はもっと遅れていただろう。よくやってくれた」

 

「モ、勿体無イオ言葉ニゴザイマス!」[コキュ]

 

「デミウルゴス、お前もだ。お前は常に様々な形で私や他の守護者たちのことをフォローしてくれる。その忠勤、嬉しく思うぞ」

 

「ア、アインズ様…………! 有り難きお言葉にございます…………!」[デミ]

 

「うむ。二人とも、これからも頼むぞ」

 

「「はっ!」」[コキュ、デミ]

 

 

 

◆アインズ様、私室にて────

 

 

「ふーっ…………(やっぱり、デミウルゴスとの会話は少し緊張するな。だって俺、中身は平凡だし)」

 

「モモンガ様、お疲れですか?」[アル]

 

「いや、疲れてなどいないさ。今のはそう…………ひとつの計画が成功したことに対する、安堵のため息のようなものだ」

 

「おめでとうございます、モモンガ様。これもひとえにモモンガ様のお力によるもの…………」[アル]

 

「それは違うぞ、アルベド。この成功は、守護者をはじめとしたナザリック全ての力によるものだ」

 

「でしたらモモンガ様のご指導、ご薫陶の賜物ですわ。ね~モモル、お父様はすごいのよね~」[アル]

 

「…………とうしゃま、しゅごい」[モモ]

 

「えっ!? モ、モモルが喋った!?」

 

「はい、今朝方あたりから言葉を喋ることが出来るようになったみたいです」[アル]

 

「そ、そうか、うむ。偉いぞ、モモル(ハイハイもお披露目式の翌日くらいからしてたし、いくらなんでも成長早すぎるだろ! いや、嬉しいんだけどさ!)」

 

「…………えへへ~」[モモ]

 

「あら羨ましい、モモンガ様に褒められて」[アル]

 

「あー…………もちろんアルベドだって偉いぞ? ナザリックの内政全般に、こうして時間を見つけてはモモルの世話も見てくれている」

 

「姉さんは私がモモルを保育園から連れ出そうとすると渋りますけどね」[アル]

 

「まあ、それは仕方ないだろう。ニグレドもかなり張り切って働いてくれているみたいだからな」

 

「ええ、モモルもよく懐いていますわ」[アル]

 

「うむ。ニグレドやペストーニャにも何か褒美を考えないとな…………ああ、そういえば、なにやら人を集めて勉強会のようなこともしているそうじゃないか。何をやっているんだ?」

 

「モモンガ様に悦んでいただく為の、ご奉仕技術の向上や閨での心得などを勉強しておりますわ♡」[アル]

 

「…………えっ?」

 

「モモンガ様に悦んでいただく為の、ご奉仕技術の向上や閨での心得などを勉強しておりますわ♡ 平たく言えばセッ…………」[アル]

 

「いや! うむ! 分かった! 分かったから平たく言わなくてもよい!」

 

「はい、畏まりました♡」[アル]

 

「ふー…………(アルベドの発言は、時々モモルの教育に悪い……………………いや、アルベドは淫魔(サキュバス)だし、モモルも淫魔(サキュバス)なんだから、これでいいのか…………?)」

 

「…………かあしゃま、おなか、しゅいた」[モモ]

 

「あらあら、じゃあご飯にしましょうね♡」[アル]

 

「…………(いや、よくない! コレは絶対に良くないはずだ!)」

 

「さ、モモンガ様♡」[アル]

 

「い、いや、ちょっと待つのだアルベド。モモルにご飯をあげるのはいいとして、モモルの前で、その、する必要はないんじゃないか?」

 

「これも教育ですわ、モモンガ様♡ 淫魔(サキュバス)として恥ずかしくない教養を、モモルには身につけて貰いませんと♡」[アル]

 

「そ、それは…………もう少し成長してからでもいいのではないか?」

 

「いいえ、早いに越したことはございませんわ♡ ねー、モモル。お父様とお母様と一緒にご飯食べたいわよねー」[アル]

 

「あい!」[モモ]

 

「……………………(いい笑顔で…………)」

 

「さ、モモンガ様♡」[アル]

 

「…………えぇい、やったれぃ!」

 

「あぁっ♡」[アル]

 

「きゃっきゃっ♪」[モモ]

 

 

 

◆王国との戦争には誰を連れて行くか会議────

 

 

「────して、アインズ様。王国との戦争にはどの守護者をお連れになるつもりですか?」[デミ]

 

「うむ…………世界級(ワールド)アイテムを保有する存在がいることを考慮すれば、あまりこちらの手の内を晒すべきではない。

 ならば、まだ存在を知られていないであろうコキュートス、デミウルゴス、アルベドは除外。ガルガンチュアも同様に除外(でかすぎるし)。死ぬことで特殊技術(スキル)を発動するヴィクティムも当然除外。

 セバス、シャルティアに関しては、まだナザリックとの繋がりを知られる訳にはいかないのでこれも除外。

 となると、必然的にアウラかマーレのどちらか、ということになる」

 

「くぅ…………また活躍の機会が…………!」[シャル]

 

「ドンマイ、シャルティア(笑)」[アウ]

 

「また上から目線!」[シャル]

 

「…………どきどき、ぼくかな…………ぼくかな…………」[マレ]

 

「ご一緒できないのはとても残念ですが、私はナザリックとモモルを護り通すことに専念いたします」[アル]

 

「同ジク。モモル様ハ、コノ爺ガ命ニ代エテモオ護リイタシマス」[コキュ]

 

「ご指示に従わせていただきます。ところでアインズ様、パンドラズアクター様がお連れの候補に入っておられないようでしたが」[セバ]

 

「ああ、あれの能力は切り札(ジョーカー)だ。よほどのことがない限り、パンドラズアクターとして表に出すつもりはない。まあ、何かに変身させてから連れて行けば問題ないだろうが、それなら最初から他の者を連れて行けばよいしな」

 

「なるほど、畏まりました」[セバ]

 

「となりますと、相手が大群であることを考えればお連れになるのはマーレでございますか?」[デミ]

 

「えぇ~…………」[アウ]

 

「…………(そわそわ)」[マレ]

 

「…………いや」

 

「おぉっ?」[アウ]

 

「…………(しゅん)」[マレ]

 

「今回は二人とも連れて行こうと思う」

 

「いぃやったーーーーっ!!」[アウ]

 

「…………!(ぱぁぁ)」[マレ]

 

「ほぅ、二人とも…………ということはアインズ様、おやりになるおつもりですね?」[デミ]

 

「ああ、そうだ。今回の戦いでは────()()を使う」

 

 

 

◆その頃カルネ村では────

 

 

「────というわけで、我らが神アインズ様は王国の有象無象と戦争をすることになったのですよ」[ロバ]

 

「なるほど、分かりましたロバーデイクさん。じゃあ僕らは僕らで出来ることをやらなきゃね。エンリ、アインズ様から頂いた笛を吹いてよ」[ンフィ]

 

「えっ!? いや、ゴウン様が戦争をするっていう辺りはサラッと流してたけどいいの!? っていうか、なんで急に笛を吹くって話に!?」[エン]

 

「誰と戦争をするにせよ、アインズ様が負けるはずないからね。心配は無用さ。笛を吹く理由は、きっと僕らは王国から狙われることになるからだよ」[ンフィ]

 

「えぇ、な、なんで?」[エン]

 

「考えても見てごらんよ。王国はアインズ様のことをほとんど知らない。唯一の情報は、戦士長のガゼフさんが持ち帰ったものだけのはずだ。

 なら、王国は戦争の前にアインズ様のことを調べようとするはず。

 そして、その情報を得られそうな場所といえば────」[ンフィ]

 

「────ゴウン様に救っていただいた、私たちの村…………」[エン]

 

「そういうこと。王国はこの村に兵を差し向け、なんとしてもアインズ様の情報を得ようとするはずだ。けど、アインズ様に恩義がある僕たちがそれに協力するわけがない」[ンフィ]

 

「じゃ、じゃあ王国の兵士と戦うことに…………?」[エン]

 

「最悪の場合ね。けど、僕たちがどれだけ抵抗しても、数で勝る王国の兵士には敵わないだろう。だから、僕たちはアインズ様の足でまといにならないように、トブの大森林にでも身を隠すべきなんだよ」[ンフィ]

 

「あ…………だからゴウン様から貰った笛を?」[エン]

 

「そういうこと。ゴブリンさんたちの数が倍に増えれば、それだけ逃げる準備も森での戦闘も楽になるし、村人たちの訓練効率も高くなるはずだ」[ンフィ]

 

「ふむ、ンフィーレア殿は賢明なお方ですなぁ」[ロバ]

 

「ありがとう、ロバーデイクさん。これもみなアインズ様のおかげですよ。さ、そういう訳だから笛を吹いてよ、エンリ」[ンフィ]

 

「う、うん、分かった。じゃあ吹くね?」[エン]

 

「お願い」[ンフィ]

 

「…………すぅぅ…………ブォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」[エン]

 

「うわっ、随分大きな音が鳴るんだね」[ンフィ]

 

「流石は我らが神から下賜された品。迫力が違いますな」[ロバ]

 

「…………前はもっとおもちゃみたいな音だったんだけど…………」[エン]

 

「────コン、コン」[ドアをノックする音]

 

「あ、はーい、開いてますからどうぞ入ってください」[エン]

 

「バタンッ────エンリ閣下が配下、ゴブリン重装甲歩兵団長! お呼びにより参上いたしました!」[ゴブ重]

 

「同じくエンリ閣下が配下、ゴブリン聖騎士隊長! 推参いたしました!」[ゴブ聖]

 

「同じく、ゴブリン騎獣兵団長! 御前に!」[ゴブ騎]

 

「ゴブリン長弓兵団長、参りました!」[ゴブ弓]

 

「「ゴブリン魔法支援団長、並びにゴブリン魔法砲撃隊長もここに!」」[ゴブ魔支、ゴブ魔砲]

 

「ゴブリン軍楽隊長であります!」[ゴブ楽]

 

「ゴブリン暗殺隊長、控えております」[ゴブ殺]

 

「ゴブリン近衛隊長、お側に!」[ゴブ衛]

 

「ほっほっほ、入りきれませんのでここまでにしておきましょうか。私はゴブリン軍師でございます。エンリ閣下の要請に応じ、ゴブリン軍団全五千、即座に戦闘に入る準備を整え参上いたしました。さぁ────敵はどちらに?」[ゴブ孔明]

 

「「……………………」」[エン、ンフィ、ロバ]

 

「おや、どういたしましたかな?」[ゴブ孔明]

 

「…………逃げる必要は、ないかな」[エン]

 

「…………そうだね。むしろこっちから攻めても良さそうなくらいだ」[ンフィ]

 

「流石は我らが神。これほどまでに強大なアイテムを、ポンと村娘に渡すとは…………」[ロバ]

 

「ふむ、察しますに、差し迫った戦の気配はないようですな。閣下」[ゴブ孔明]

 

「あのー、さっきのゴブリンさんも言ってたけど、閣下って、やっぱり私のことですよね…………?」[エン]

 

「ほっほっほ、もちろんでございます。我らエンリ将軍閣下によって召喚された者でございますからな」[ゴブ孔明]

 

(あね)さん、族長、村長ときて、とうとう将軍閣下にまで上り詰めちゃったね、エンリ」[ンフィ]

 

「うぅ…………ンフィに笛吹いてもらえば良かった…………」[エン]

 

「全ては神のお導きですよ、エンリさん」[ロバ]

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………び、びっくりしたっす。なんすか、あのゴブリンの数は…………アインズ様に報告しなきゃっす」[ルプ]

 

 

 

◇王国の戦士たち────

 

 

「────今回の戦、どう見ている? ロックマイヤー」[ブレ]

 

「きな臭いな。俺の雇い主のレエブン侯も気をつけるべきだと言ってたが、何より俺の勘がヤバイと言ってる」[ロック]

 

「ああ、俺もだ。首の後ろあたりがチリチリしやがる」[ブレ]

 

「…………お二人の悪い予感には、ストロノーフ様の言っていたアインズ・ウール・ゴウンという魔法詠唱者が関係しているのでしょうか」[クラ]

 

「間違いないだろうな。シャルティア・ブラッドフォールン、セバスさん、モモン…………絶対に勝ち目のない強者を俺は見てきた。もしアインズなんたらがその強者たちと同等の強さを持っているんだとしたら────王国に勝ち目はない」[ブレ]

 

「まあ、セバスさんが帝国側にいたら…………って考えたら、勝ち目はないわな」[ロック]

 

「王国兵が空に舞う光景が目に浮かびますね」[クラ]

 

「ああ。しかも、今回の強者は魔法詠唱者…………飛んでくるのは拳じゃなくて魔法だ」[ブレ]

 

「範囲攻撃か…………一体一ならまだしも、集団戦では最も厄介な相手だな」[ロック]

 

「はい。どれだけ強大な力を持つ戦士であろうと、一人で戦争はできません。ですが、強大な力を持つ魔法詠唱者であれば…………」[クラ]

 

「ちっ、厄介なんてもんじゃねぇ。だいたい、そのアインズとかいうのはどれだけ強いんだ? だれか知っているやつはいないのか?」[ブレ]

 

「…………お前が想像する強さを、さらに数倍するといい。それがゴウン殿の強さだ」[ガゼ]

 

「おっ、ガゼフか…………今なんて言った? 数倍だと?」[ブレ]

 

「そうだ。先ほどお前はモモン殿とセバス殿という御仁を同列の強者として挙げていたが、俺もモモン殿の強さはヤルダバオトとの戦いの痕跡からある程度推察している」[ガゼ]

 

「つまり、お前はアインズとかいうやつの強さをモモンの数倍と見ている、ということか?」[ブレ]

 

「ああ」[ガゼ]

 

「正直信じられないが…………なにか根拠はおありなんですか? ガゼフ殿」[ロック]

 

「あなたは確か…………レエブン侯の食客でロックマイヤー殿でしたか」[ガゼ]

 

「ガゼフ殿ほどの方に名を知られているとは光栄だ」[ロック]

 

「ガゼフで構いません」[ガゼ]

 

「なら俺もロックマイヤーと呼び捨てにしてくれ」[ロック]

 

「挨拶はそれくらいにして、聞かせてくれ、ガゼフ。お前は何を知っている。何を見た」[ブレ]

 

「強さだよ、ブレイン。比類なき強さだ。俺がカルネ村の救出に駆けつけたとき、そこにあったのは散らばった兵の死体と、四体のアンデッドの姿。

 その内三体は、完全装備の俺でどうにか戦える程度の強さだったが、残りの一体は────────おそらく、俺が十人掛りでも倒せないほど強力なアンデッドだった」[ガゼ]

 

「ちょ、ちょっと待ってください、ストロノーフ様! それは本当なんですか!?」[クラ]

 

「ああ。まるで勝てる気がしなかった。それを見た瞬間、自分は死ぬのだとあっさり受け入れたくらいにな。お前たちも、俺と似たような経験をしたんだろう?」[ガゼ]

 

「それは…………モモン様の力を垣間見たあの時のことですか?」[クラ]

 

「残念なことに俺はその場にいなかったがな。だがその話を後で聞いたとき、俺はカルネ村で見たアンデッドを思い出した。そしてモモン殿の戦いの痕跡を見て理解したんだ。おそらく、あのアンデッドとモモン殿は同程度の強さを持っていると」[ガゼ]

 

「だが、それがアインズの最大戦力かも知れないぜ?」[ブレ]

 

「いや、ゴウン殿はさらに強い」[ガゼ]

 

「…………なんでそれが分かるんだ?」[ロック]

 

「その後、村をスレイン法国の陽光聖典が襲撃した。だがゴウン殿は散歩にでも向かうかのような気軽さでそれを迎え撃ち、十秒ほどで殲滅すると、また何事もなかったように戻ってこられたのだ」[ガゼ]

 

「…………マジ、かよ…………」[ブレ]

 

「陽光聖典っていやぁ、周辺国最強として名高いスレイン法国の特殊部隊だろ? それを十秒って…………」[ロック]

 

「俺は決して誇張して話しているわけじゃないぞ? むしろ、行って帰って来るまでが十秒だから、実際の戦闘時間はもっと短いはずだ」[ガゼ]

 

「おまえ、それを王様に伝えたんだろうな?」[ブレ]

 

「無論だ。王は信じてくれただろうが、貴族は鼻で笑っただけだったよ」[ガゼ]

 

「俺だって、セバスさんに会わなけりゃ同じ態度をとってただろうな」[ロック]

 

「俺もセバス様やモモン様に会っていなければ、心の底で疑ってしまっていたかもしれません。ですが、今は残念なことにそれが真実なのだと理解してしまっています」[クラ]

 

「…………ガゼフ。おまえ、今回の戦はどうなると思う?」[ブレ]

 

「…………はっきり言おう。もしゴウン殿が本気を出せば、王国の歴史はその瞬間に終わることになる。だからブレイン、お前は逃げろ。俺やクライムには命を捧げて仕える方がいるが、お前はそうじゃない」[ガゼ]

 

「なんだ? 勝ち目はないから、尻尾を巻いて旅にでも出ろっていうのか?」[ブレ]

 

「言い方は悪いが、そういうことだ。俺は王の為に死ぬが、お前は自分のために生きろ。路銀もいくらかは用意して────────」[ガゼ]

 

バカ野郎! ガシッ!」[ブレ]

 

「……………………」[ガゼ]

 

「…………漢の拳をガードするんじゃねぇよ。そこは甘んじて受けるべきところだろうが」[ブレ]

 

「すまん、ついな」[ガゼ]

 

「…………はぁ、まあいい。おいガゼフ、俺は逃げねぇぞ。昔の俺なら一も二もなく逃げただろうが、今は全力で戦って死ぬのも悪くないと思ってるからな」[ブレ]

 

「ほう、それはなぜだ?」[ガゼ]

 

「世の中には、絶対的な強者ってやつがいる。そいつらと俺の間には分厚くて高い壁があって、俺が何をしようと、どうあがこうと、壁の向こうに行くことはできない。

 それを知ったとき、強さが全てだと思っていた俺は絶望した。

 俺に生きている価値などない、そう思った。

 だがな、ガゼフ。

 壁を乗り越えることはできなくても、壁に生きた証を刻むことはできるんだ」[ブレ]

 

「ブレインさん…………」[クラ]

 

「ブレイン…………」[ロック]

 

「だから俺は、壁から逃げるのをやめた。背を向けちまったら、俺の刀は壁にすら届かない。

 ────俺は戦うぞ、ガゼフ。

 そのアインズがどれほど強く、戦えば確実に死ぬのだとしても、俺は刀を振り続けてやる。

 そして、そいつの髪の毛一本でも切り飛ばせたなら、たとえ死んだとしても悔いはねぇ」[ブレ]

 

「よっ、爪切り職人!」[ロック]

 

「もしその偉業を成し遂げられたなら、今度は髪切り職人ですね!」[クラ]

 

「ふふふ、そうか。そこまで覚悟を決めているなら、もはや何も言うまい。噂に聞く〈秘剣:爪切り〉とやらを、冥土の土産に拝ませてもらうとしようか」[ガゼ]

 

「「ブレイン! ブレイン! ブレイン! ブレイン!」」[クラ、ロック]

 

「へっ…………よせよお前ら」[ブレ]

 

「おい! キサマら! 部隊編成の最中だというのに、何を騒いでいるのだ!」[王国将校]

 

「やべっ! おい、一旦散るぞ!」[ブレ]

 

「はい! あれ、ストロノーフ様は?」[クラ]

 

「さっき風のような速さで去っていったぞ」[ロック]

 

「流石ガゼフ、危機察知能力も高いな!」[ブレ]

 

「ラナー王女を守るためには、そういう能力も必要だぞ、クライム君」[ロック]

 

「はい! 精進します!」[クラ]

 

「言ってる場合か! 逃げるぞ!」[ブレ]

 

「待てー! 待たんかキサマら! そこの白い鎧! お前クライムだろ! ラナー様のお付きだからって調子に乗るなよ……………………!」[王国将校]

 

 

 

◇魔導王様の御成り────

 

 

「────カーベイン将軍、最敬礼でお願いします」[ニン]

 

「…………ここは戦場だぞ?」[カベ]

 

「お願いします」[ニン]

 

「…………分かった。皆、姿勢を正せ! 最敬礼でお出迎えする!」[カベ]

 

「ありがとうございます」[ニン]

 

「ニンブル殿の独断でないことくらいは分かる。それくらい陛下や帝国にとって重要な人物ということなのだろう?」[カベ]

 

「…………ええ。重要という意味では、このうえなく重要な()()です」[ニン]

 

「そうか────む、馬車から下りてくるぞ」[カベ]

 

「────────ひかえーい! ひかえおろう! このお方をどなたと心得る! 畏れ多くも絶対なる支配者! 全知全能なる至高の存在! アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下にあらせられるぞ!」[アウ]

 

チャ……チャチャチャ~、チャッチャッチャッチャ~ン」[マレ]

 

「マーレ! BGMが小さい!」[アウ]

 

「ご、ごめんさい、お姉ちゃん」[マレ]

 

「……………………(どこで覚えたんだろう、あのフレーズ。っていうかマーレ、それ将軍のオープニングだから! 副将軍のじゃないから!)」

 

「「……………………」」[ニン、カベ]

 

「(ほら! 帝国の騎士もポカンとしちゃってるじゃないか!)」

 

「ちょっとあんたたち! アインズ様がいらっしゃったんだから頭を下げなさいよ!」[アウ]

 

「…………はっ! し、失礼した! 各員、魔導王閣下に対し! 最敬礼!」[カベ]

 

「────頭を上げてくれたまえ」

 

「ほら! アインズ様が頭を上げろと仰ってるんだから、さっさと上げる!」[アウ]

 

「は、はっ! 各員、頭を上げよ!」[カベ]

 

「…………すまないな、戦場ということで私の従者も気が立っているようだ」

 

「いえ、謝罪の必要などございません。私どもも魔導王閣下にお会いできた喜びに我を忘れてしまったようです」[ニン]

 

「そう言ってくれるならありがたい」

 

「では、ここより野営していただく場所まで、私、ニンブル・アーク・デイル・アノックがご案内をさせていただきます」[ニン]

 

「そうか、よろしく頼む」

 

「私はカーベインと申します、アインズ・ウール・ゴウン魔導王閣下。なにか駐屯基地でお困りのことがございましたら即座に対応いたしますので、なんなりとおっしゃってください。ここにいる騎士の幾人かを従者としてお使い頂ければ────」[カベ]

 

「あぁっ!? あたしとマーレじゃアインズ様の従者として不足だっての!?」[アウ]

 

「…………ピクリッ」[マレ]

 

「やめよアウラ。すまないがカーベイン殿、そういう訳だから、私にはこれ以上従者は必要ない」

 

「畏まりました、魔導王閣下。ですが、何かありましたら遠慮なくお申し付け下さい。カーベイン将軍、そういうことでよろしくお願いします」[ニン]

 

「…………了解した」[カベ]

 

「ああ、そうだ。ひとつ確認したいことがあったのだが」

 

「なんでしょう、魔導王閣下」[ニン]

 

「今回の戦争は私の魔法を開幕の一撃とするということだったが────────どれだけ長くても、一撃は一撃ということでかまわないかな?」

 

 

 

◇カルネ村襲撃(バルブロ側)────

 

 

「王子、ここがカルネ村でございます」[モブ]

 

「…………なんでただの開拓村が、こんな防壁を張り巡らせているんだ?」[バル]

 

「はっ、おそらくではありますが、トブの大森林が近い場所にありますので魔獣対策ではないかと…………」[モブ]

 

「馬鹿な事を言うな! これが魔獣対策だと!? どう見ても対軍勢用の備えではないか! この村はいつからこのような有様になっているのだ!」[バル]

 

「は、あの、つい最近徴税官が来ているはずなのですが、このようなことになっているというような報告は上がってきておりませんので、なんとも…………」[モブ]

 

「貴様はどこまで愚かなのだ! そんなもの、賄賂を送られたに決まっているであろうが! …………あぁ、もうよい! これは王家に対する反逆だ! この村を滅ぼし、すぐに戦場へ転進するぞ!」[バル]

 

「お、お待ちください王子! そのようなことをしては兵の士気に…………! ん? あ、あれはなんだ!?」[モブ]

 

「なに? いったいなんだと…………おぉおおおおおおおっ!!?」[バル]

 

ドゴォォオオオオオオオオオオンッ!!

 

 

 

◇カルネ村襲撃(エンリ側)────

 

 

「────よしっ! 命中した!」[ンフィ]

 

「ほっほっほ、戦とは先手必勝。頭を最初に潰してしまえば、あとは楽なものでございます」[ゴブ孔明]

 

「…………いいのかなぁ。四方八方から〈火球(ファイアーボール)〉なんて撃ち込んじゃったけど」[エン]

 

「アレらは神に歯向かう愚か者たちです。慈悲など必要ありませんよ、エンリ殿」[ロバ]

 

「さて、では初手の火計が成功いたしましたし、次の指示を出すとしましょう。重装甲歩兵部隊、敵軍の退路を塞いでください。伏せていた聖騎士隊、騎獣兵団は左右から敵の腹を食い破って分断。長弓兵団が斉射した後、支援魔法を受けた重装甲歩兵部隊は前進しつつ分断した敵を包み込むように……………………」[ゴブ孔明]

 

「……………………いいのかなぁ」[エン]

 

 

 




 結局帝国編は前、中、後編の三つに分かれてしまいました。

 後、もう◇とか◆とかよくわからなくなってきたので、帝国編が終わったら◇に統一しちゃおうと思います。

 そして、自分で書いておいてなんだが、髪切り職人てなんだクライム。
 床屋か。
 まあ、ブレインはなんとなくカリスマ美容師っぽい見た目してるけど。


 







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