もう同じ過ちは繰り返さない。心に刻んだ悪夢を強さに変え、向田は攻めに攻めた。タックルを主体に大きなリードを築いても、妥協なく得点を重ねた。「昨年の決勝の相手もベラルーシの選手だった。試合中に昨年のことを思い出した」。圧勝で世界一に返り咲き、満面の笑みで金メダルを誇示した。
決勝の直前には、携帯電話の待ち受け画面に目を凝らした。そこには前回大会の表彰台で不本意そうに銀メダルを首から下げる自らの姿が映っていた。「むすっとした顔。毎日見て悔しさを忘れないようにしてきた」
6-0からの大逆転で敗れた1年前の決勝を境に、向田は変わった。練習が休みでも、仲間と出掛ける前にトレーニング室などで体を動かすことがルーティンになった。「走るのは苦手なんですけど。何かを変えないといけないと思った」。オフ返上で自分の中の甘さを取り除いてきた。
JOCエリートアカデミー時代の後輩で、日本男子史上最年少の金メダリストとなった乙黒拓斗の活躍も励みになった。「中学のころはよくスパーリングをしていた。昨日、一昨日はタックルを返されても、それでもタックルにいっていた。すごい刺激になった」と言う。
12月の全日本選手権からは五輪階級の53キロ級に階級を下げる予定で、至学館大の後輩・奥野春菜らライバルとの争いが激化する。「待ち受けは、東京五輪の代表に決まるまでは変えません。五輪に出て金を取りたい」。朗らかな笑顔の下に、人一倍の負けん気が宿っている。 (木村尚公)