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【コラム】

筆洗

 田中正造は「手紙」を手にして、天皇の馬車に向かった。明治三十四年の直訴である。取り押さえられ、目的を果たせず終わった田中に、理解者の新聞社幹部がかけた言葉が日記にある。<一太刀受けるか殺さ(れ)ねばモノニナラヌ>(『通史 足尾鉱毒事件1877-1984』)▼なぜ切られてこなかったのか。非情の言葉の裏にあるのは、命にかえても直訴状を届けたい、そうすれば世の中が変わるという彼らの思いだろう。失敗に終わったが、足尾銅山の鉱毒に苦しむ農民らの惨状を伝えた直訴を新聞が報じて、支援と同情の世論は一時、盛り上がる▼手紙は時として、世の中や政治を動かす武器となってきた。恐怖をこめるなら、悪用であろう。米国が恐怖の手紙に揺れている。封筒入りの爆発物とみられる不審物が、オバマ前大統領ら要人宛てに次々送られていた▼送り主不明だ。闇にかくれ、郵便の仕組みを利用し、恐怖を手元にまで送り届ける。けが人などないのが救いだが、卑劣な行為である。大掛かりであるのをみると、相当の覚悟を持った行為にも思える▼郵便の送り先は、トランプ大統領が批判する対象ばかりという。中間選挙が、間近だ。政治を動かそうという狙いがあるのか。敵と味方を分ける大統領の時代の出来事にもみえる▼テロに通じる発想は、「モノニナラヌ」と米国は示さなければならない。

 

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