漆黒の英雄モモン様は王国の英雄なんです! 【アニメ・小説版オーバーロード二次】 作:疑似ほにょぺにょこ
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「ふー──」
横から大きく息を吐く音が聞こえる。リグリットの怒りを含んだ音が。
基本的に冒険者は戦争への参加は行わない。それはどちらにも言い分があり、どちらにも正義があるからだ。一度参加してしまえば自分の正義が揺らいでしまうから。そう彼女は言って居た。しかし目の前で広がっているのを戦争と言っていいのだろうか。理不尽に生き物たちの命が消えていく様は、いつ見ても気分が良いものではないのは確かだ。
だというのに、不思議と平然と見て居る自分が居るのだ。
「ふむ」
遠くからでも感じるほどの強烈な衝撃波に少しだけ感嘆の声が漏れた。それが気に入らなかったのだろうか。彼女は私の方をちらりとだが強く睨んでくる。流石にすぐ鏡の方へと視線を戻したが。
「世界の均衡を求めるドラゴンロードとして、この状況をどう思ってるんだい」
「不思議、かな」
彼女の怒りは相当なものなのだろう。鏡に映る理不尽な死から私の方に視線を移すことなく私に話しかけて来る。でも私に湧き上がる感覚は、怒りでも、悲しみでもなく──
「不思議ってのはどういう意味だい」
相変わらず彼女は結論を急ぐ。それでは情報の伝達が円滑に行われないだろうというのに。
不思議と感じるのは、そう。違和感だ。これだけの命が散っているというのに、違和感しか感じていない。まるで人間たちが好んでやるというゲームを見ている気分とでも言うのだろうか。
互いが互いを知り、互いの手の内を探りながら行って居る。そういう感覚だ。それを前提に考えるとすると、聖女カルカ・ベサーレスはアインズ・ウール・ゴウン伯爵を知っていることになる。そして自国民の命をゲームと称して徒に消費していることになる。
しかしそれでは違和感がぬぐえない。目の前に広がるは人と人の命の奪い合いだ。
方や聖戦と謳い、あのガゼフ・ストロノーフをも超えるレベルを持つとされる聖騎士を頭とする、そして何十万という数多の亜人たちを含む一団を持つ大軍団。
方やアインズ・ウール・ゴウン伯爵の弟子を名乗る二人。
普通に考えれば数は暴力だ。だが結果は違う。圧倒的な魔法の力によって理不尽と言うべき死を撒き散らしているのは少女二人の方だった。
「このように同じ魔法を同じタイミングで扱うという条件下、同程度の戦闘能力を持つ者が行う場合には魔法強化が互いにかかる。今回で言うならば《ツイン・マキシマイズマジック/魔法二重化・最大化》と《ツイン・ワイデンマジック/魔法二重化・範囲拡大化》が重なり、《トリプレッド・マキシマイズ・ワイデンマジック/魔法三重化・最大化・効果範囲拡大化》へと昇華される。そうすることにより互いの詠唱時間を削りながら最大限の──」
十万を超す戦死者を出せた二人の事が余程誇らしいのか。アインズ・ウール・ゴウン伯爵の高説は続いている。初めて聞くものだ。あの八欲王すら使わなかったものだ。
──位階魔法を齎した八欲王すらも知らない方法を、あれは知っていたのだ。
ではどうやってあれは知り得たのか。その答えはあれが使う超位魔法にあるのだろう。
あんなもの、誰も使って居なかった。いや、使えなかった。使えるはずがなかった。使えるはずのないものをあたかも当然の様に扱って居る。それは──
「ツアー!」
「──どうしたんだい、リグリット。大声を出して」
いけない。思考の波に飲まれていたようだ。彼女は私の違和感を感じたのだろうか。私の方を睨み続けている。
「今日のアンタはおかしいよ。何があった──いや、何を感じているんだい」
「違和感だよ。不思議なんだ。まるで、数多の命を散らせること自体が目的だと感じるんだよ」
「それは戦争だからそうだろうさ。わしが言っているのは──」
「リグリット。齟齬が発生しているよ。私が指しているのはアインズ・ウール・ゴウン伯爵ではなく、ローブル聖王国だからね」
やっと私の意図が読めたのだろうか。大きく目を見開きながら驚いている。そして、先ほどよりも強く、鏡に映る状況を把握しようと始めたようだ。
「──いつからだい?」
「最初からだよ。ローブル聖王国はまるで、魔法が当たりやすいように固まっている様に見えるんだ。まるで──」
「『魔法を受けて死ぬことが目的』だって、言いたいんだね。聖戦を、悪しきものを倒すことが目的のはずなのに。──だからか。わしは聖戦を謳っているから誰も逃げないで居るんだって思っていたけど。確かに──違和感しかないね」
さて、この事態にどれだけの人数が気付いているのか。そう思いながら周囲に視線を巡らせる。リ・エスティーゼ王国のラナー姫ははっきりと気付いているようだけれど、やはり殆どの者たちは理不尽な死を目の前にしているためかローブル聖王国の目的に気付いていないようだ。
「なぜ死ぬのか、その違和感を口に出すから『不思議』か。確かに不思議としか言葉が無いね」
「皆々方、前座はどうだったかな。身内贔屓かもしれないが、良き前座であったと私は自負している」
朗々とアインズ・ウール・ゴウン伯爵は続ける。戦場という巨大な舞台の演者として。それは彼の魔法の詠唱が終わった事を示している。それは、前座という4人の少女たちの行った強烈な魔法よりもすさまじい魔法が放たれるという意味である。さらなる死が撒き散らされるという意味である。だというのに不思議と現実味がない。違和感しかない。不思議だとしか言葉が浮かばない。
けれどそれに──そのことに気づけたのは俯瞰して見られる私や、常に数多の死を身をもって感じているドラウディロン・オーリウクルスなど一部の者たちくらいか。だがそれが悪い事ではない。恐らくローブル聖王国は隠しているのだから。『何か』を。
「さあ、フィナーレを行うとしよう。我が超位魔法をもって!」
本当にそれは終曲<フィナーレ>なのだろうか。私には前奏曲<プレリュード>であるように感じた。
戦う者が居なくなれば戦は終わる。終わるはずなのに、始まりだと感じるのはこの違和感のせいなのだろう。一体ローブル聖王国は何を考えているのか。
「始まるよ。止めないんだね、ツアー」
「あぁ、これはただの始まりに過ぎないからね」
始まり。そう、これは始まりだ。人と人の戦争のではない。意思と意思のぶつかり合いではない。強大な悪に、何かが対抗するための始まり。
「超位魔法《イア・シュブニグラス/黒き豊穣への贄》」
あれの魔法が放たれる。絶対なる死という魔法が。それは何の音も伴うことなく戦場を貫いた。恐らく人には見えていないだろう。死んだ者のとなりに立っている者すら気付かなかっただろう。なぜ隣の者が倒れたのか。何が起こったのか分からない。分からないままに死ぬ。それは避ける事すらままならないだろう。恐らく私があそこに居たとしても避けれたかは難しいところだ。真正面から、あれだけ遠くからならばどうにかなったかもしれない。しかし通常射的距離から放たれたら何もできずに地に伏すしかないのではないだろうか。
そんな超位魔法は──理不尽な死は、ローブル聖王国の最も集中する中央を貫いた。
「あ──あぁ──」
「これは──また──」
開始35万ほど居たはずだ。前座によって10万近くが削られ、そして今20万を超す人が死に絶えた。
もう、5万を切っている。勝負は着いた。ローブル聖王国は何もできぬままに負けてしまったのだ。
──本当にそうなのだろうか。
「すぅばらしい!!本当に素晴らしい魔法でございました、アインズ・ウール・ゴウン伯爵様ぁぁ!!!」
「称賛の声をありがとう。確かバハルス帝国筆頭宮廷魔術師フールーダ・パラダイン殿、だったかな」
「私のような矮小な者に敬称など必要ありません。是非フールーダとお呼びください!」
「そうか。フールーダよ。今お前は素晴らしい魔法『でした』と言ったな。まだ私の魔法は終わっていないぞ。黒き豊穣の母神への贈り物は、仔共達という返礼を持って返る。可愛らしい仔共達を持ってな」
まるで子供の様にあれに駆け寄ったのは帝国筆頭宮廷魔術師フールーダ・パラダインか。深淵を求めるという者にとってあれは素晴らしい存在に見えるのだろう。あれはそんな存在などではないというのに。
しかし、これだけの死を撒き散らすものが終わっていないというのはどういうことなのか。
そう、思った時だった。
数多の死体が広がる上空に黒い何かが現れたのだ。その何かは丸く、徐々に大きくなっていく。そして、落ちた。まるで、木の実が熟して落ちるかのように。
落ちた黒いものは弾け、黒の波となって死体を飲み込んでいく。食らっていく。
──亜人の死体だけを。
なぜ人の死体を食わない。偏食家なのか、その豊穣の母神とやらは。まさか、だ。だとするならば、その答えは──
「メエエエエエェェェェェ!!」
可愛い仔山羊のような声が響いた。地面に落ち、亜人達の死体を喰った『それ』は膨らみ、『モノ』となったのだ。似つかわしくない可愛い声と共に。
『それ』は異形だった。形は黒い蕪のような感じだ。だが大きさは私本来の姿と然程変わらないだろう。上部に無数の触手が生えている。蕪らしき本体には数多の、口の付いた肉塊があり、その下にはまるで蹄のようなものがついた足が五本ある。
そして『それ』は一体ではなかった。
「フハハハハ!7体か!本来1体召喚できれば良いと言われるというのに、7体も召喚できたか!これは最高記録だぞ!!」
「おめでとうございます、アインズ・ウール・ゴウン様ぁ!!」
拍手が起こる。フールーダ・パラダインの、弟子達の、メイド達の拍手が。
唖然としていた観客たちも、各国の首脳陣からも拍手が起こり始める。だれも、止められない。止めることが出来ない。あまりにも異様な状態にだれも正常な判断を下せないからだ。だから、釣られて拍手が起こっていく。それは万雷となってアインズ・ウール・ゴウン伯爵に降り注いでいく。狂気の拍手が降り注いでいく。
「さぁ、可愛い仔山羊たちよ。追撃を開始せよ!」
最後の追撃が始まる。
超位魔法は中央を貫いた。もう聖女カルカ・ベサーレスは死んだだろう。聖騎士諸共に。
指導者の居ない烏合の衆と化したローブル聖王国の兵たちを『それ』は追撃していく。
特殊な能力は無いのだろう。巨躯を走らせ、触手を唸らせ、踏みつぶしていく。
相手の表情が分からない程に遠い位置にあるが故に聞こえぬはずの、潰す音が。まるで果物をつぶすような音がここまで聞こえて来るような気がした。
あぁ、何と恐ろしい。何と凄まじい。
「誰も──逃げない──」
死ぬと分かっていて誰も逃げない。誰一人として。まるで狂気に取りつかれているかのように。誰かに操られているかのように。
ローブル聖王国の兵は誰も逃げない。皆が武器をとり、『それ』に向かっていく。無残に命を散らしながら。
その意味を、私は──観客たちは知ることになる。
──こんなものは、ただの始まりに過ぎなかったことを。
文字量の都合でニニャたちの魔法を使って居るシーンはカットされました。ひたすらツアーの何やら怪しい考えをぐだぐだやっている回でございました。前回魔法を使って居るシーンを入れましたので、二番煎じになるここはカットでいいかな、と。
そして超位魔法は原作と同じくイア・シュブニグラスを使わせてもらいました。可愛いですよね、仔山羊。
しかし私の話はここから長いです。ここからが本当の戦いですから。
前座で死んでいった亜人達の冥福をお祈りいたします。
さぁ、ここからです。ここから、本当の余興が始まるわけです。
あまり書くとネタバレになりますのでやめておきましょう。
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