iPhone XRとXSどっち買う? 全く同じで意外と違うカメラのできること・できないこと
一眼レフ?みたいに撮れるんでしょ?という人向け
iPhone XR の詳しい情報や試用レビューが出回り、「これで良かったんじゃないか?」な空気が漂うなか、逆に気になるのは「ほとんどの人にはこれで十分以上」な XR よりも数万円高い XS は何ができるのか、価格に見合った差はあるのか。
大きな差のひとつであるカメラについて、わかりやすい仕様上の差と分かりにくい実用上の差、実際に撮り比べてみた違いについてざっくりまとめます。「できると思って買ったらできなかった」を減らせれば幸いです。
前置き
格安スマホが増えるなか、それなりのお値段の新 iPhoneを検討するのは低価格最優先ではなく、それぞれにとっての「よいもの」を求める層のはずです。
そうした層にとって、XRがコストダウンありきで中身を妥協した安かろうモデルであれば、最初から考慮の必要もありません。
しかし実際のXRは、アップルに言わせれば「XSとどちらを選んでもベスト」なプレミアムかつ普及モデルという位置付け。(参考: iPhone XRってそもそも何?アップルのフィル・シラーにEngadgetが訊く)。
ほとんどのユーザーにとって十分以上となると、これまで考えてこなかったXRも検討対象になり、逆に数万円高いXSにしかないもの・しかできないことは何か、それは自分にとってどれだけ必要か?が気になってきます。
そこでもっとも大きな差のうちひとつ、一言でいえば「背面カメラがシングルかデュアルか」について、簡単な仕様上のおさらいと、それほど簡単ではない実用上の違い、なぜそうなるのか?についてまとめます。
価格数割増し・数万円増しでXSが必要か、自分にはXRでなんの問題もないか、検討の材料になれば幸いです。
基本
iPhone XSは広角(26mm相当 F1.8)と2倍望遠(52mm相当 F2.4)のデュアルカメラ
iPhone XRは広角(26mm相当 F1.8)だけのシングルカメラ
ただし、
XRのシングルカメラは、画角もF値も画素数12Mピクセルも、撮像素子(イメージセンサ)もXSの広角側と原則同じ。撮像素子は昨年のiPhone Xより深く広くなり、50%多くの光を取り込めるようになっています。
かつ、
デジタル写真では画質に直結するプロセッサも、XSと同じ最新のA12 Bionic。撮像素子からのデータを処理するISP(イメージシグナルプロセッサ)も、さらに機械学習で画像認識やさまざまな処理をするニューラルエンジンもA12の一部。
撮影の際、複数フレームの合成を含む様々な手法、アルゴリズムで明部暗部ともにクリアな写真を得る機能「スマートHDR」もXS / XR 共に対応します(名称としては)。
機能として。
このように「望遠レンズなし、ほか基本共通」なので、通常の写真は「原則」XSでもXRでも同じになります。(実際は微っ妙にセッティングかレンズが異なるようですが、能力という意味では原則同じ)。
・光学ズーム
まず当然の差として、XRでは光学2倍ズームが不可。少し遠くの被写体を撮影したいとき、XSでは光学2倍望遠レンズのおかげで、5倍までのハイブリッドズームで高い画質を保つと説明しています。XRでは広角側で撮った画像のデジタルズーム処理のみ。
実際のカメラアプリのインターフェースでも、XSではシャッター真上の「1X」ボタンをワンタップで2倍、左右にドラッグで10倍までのハイブリッドズームを片手で操作できるのに対して、XRでは最初からズームボタンがなく、2本指でピンチアウトしなければデジタルズームもできないなど、ズームを前提にしていません。
(望遠に切り替えないのだから撮影後に引き伸ばしても同じ、なくて当たり前と思うかもしれませんが、例えばPixel 3のように複数フレームのブレを使った超解像ズーム処理などの場合、シングルレンズでもデジタルズームモードを選ぶと処理が変わることも考えられます)
こんな場面を5Xズームして、中央を等倍で切り出すと、
iPhone XR (上)
iPhone XS。
実際に最大デジタルズームした上で一部を切り抜く使い方がどれほどあるかはさておき、ここは望遠側がある XS が有利です。逆にいえば、2倍程度ではあまり違いが分かりません。
・若干ややこしいポートレートモード
次に、従来のiPhone 7 Plus / 8 Plus や iPhone X から使えた「ポートレートモード」、主に人物を撮るときに背景をぼかし被写体を浮き上がらせるモードは、できるかできないかで言えば「XSでもXRでも使えます」。
若干、直感的でなくなるのはここから。
XSのポートレートモードは、広角と望遠のデュアルカメラで得られる画像の差も手がかりにして奥行き情報を認識して、奥をぼかす処理をしています。このため、
・望遠側の画角でしか撮れない (XS)
ある程度距離を空けねばならないため、すぐ近くだったり手元にあるものは撮れない。小さなテーブルで向かい合うような距離では、有効にできたとしても、画角が狭いので顔面だけアップになるなど構図が難しい。
テーブルの上のものを撮るにも、後ろに仰け反ったり椅子を引いたり。後処理では仮想のF1.4なども選べるものの、どこからボケ始めるか自体は変わらず、ボケ効果の強弱が変わる。
・人間以外のものも(一応)撮れる (XS)
視差から(も)奥行き推定するため、モノでも一応撮れる。ただし距離が必要なので、テーブルの上の小物や料理などは工夫しないと難しい。またあくまで「ポートレート」なので、想定していない人間以外の物体は輪郭(奥行き)推定が怪しく、エッジが部分的に融けたようになることも多い。
iPhone XS ポートレートモード。ストローが消え、グラスの奥側の縁が融けている。背景の椅子の白い背もたれ部分が、ストローの一部と切り分けられず手前扱い。
(参考。これのみ Pixel 3 XL。「XRと同じシングルレンズ組」扱いのあのピクセルさんです。よくよく見るとストローの途中や、テーブルと背景とグラスの境界があやしい)
このあたり、昨年からXを使っていれば、あるいは 7 Plus以来のデュアルカメラモデルを使っていれば今さらかと思いますが、まあ今年XRかどうか悩む人には意外と馴染みがないかもということで。
一方XRのポートレートモードは、広角側のカメラで、画像から機械学習で人の形状を推定して抜き出し、背景と判断した部分をぼかす処理。なので、
・人間しか撮れない。厳密には顔がないと撮れない。(XR)
顔認識を手がかりに人物の形状を推定するらしく、後ろ姿では撮れません。横顔や俯いた顔は角度に依存。また正面から目が合っていてもマスクをしていると「誰も検知できませんでした」で有効になりません。
(iPhone XR。アイスコーヒーはポートレートモードになりませんでした)
近くから撮影できるなら、Google PixelやHuaweiスマホのようにすぐ手元の小物なども簡単にボケ味を活かして撮れそうなものですが、現状ではアルゴリズムが人間に限定しているため、顔が見つからないと撮れません。
(iPhone XR ポートレートモード。後から仮想被写界深度を調整して強くボカしています。帽子の白いポンポンは抜きに失敗している点に注目。境界があやしいレベルではなく、青い部分までが前景と推定しています)
(iPhone XSポートレートモード。デフォルト設定よりきつめにボケるよう調整。帽子の白い部分もちゃんと認識)
余談。逆に顔さえあれば実際の奥行きには敏感でないため、完全に平面のポスターなど撮っても、人以外の背景をボカせます。何に使うかは謎ですが。
(さらに余談。iPhone XRと同じシングルカメラでポートレートモードに対応するGoogle Pixelは、同じく機械学習で形状を推定してボケを実現していると言われますが、実際はデュアルピクセルセンサの位相差オートフォーカスと同じ仕組みで奥行き情報を得た上で、さらに機械学習で補完するアルゴリズムです。このためか、ポスターをポートレートモードで撮ってもXRのように騙せません。)
・広角で(近くから)撮れる。(XR)
対面の典型的なポートレート撮影の距離でなくても、近くから上半身も収めて撮りやすい。逆にいかにもポートレートなアップは寄らないと撮れない。当たり前ですが。
・かなり暗い場所でも撮れる。(XR)
ザ・微妙な差のようになって来ましたが、広角側のF1.8レンズしかないので、望遠のF2.4を元にするXSよりも暗い場所で明るくポートレートが撮れます。
(XR ポートレートモード。背景が分かりづらい場所で恐縮ですが、ポートレートで後ろがボケています。)
対するXSは、かなり暗い場所でポートレートモードを選ぶと「もう少し明るさが必要です。フラッシュを使うといいかもしれません」と注意書きが出ます。
(iPhone XS Max ポートレートモード)
ただし暗所撮影は両機種とも以前iPhoneより向上したため、よほどの暗がりでないかぎりXSでもポートレート撮影はできます。また明るさについては、ポートレートを選ばずに広角で撮ればそもそも問題ありません。
上位互換なのに微妙な「XR有利」がある理由
カメラについてはXSがXRの上位互換である以上、この「広角で撮れる」「暗い場所でも撮れる」というXRだけの利点は、XSでもシングルカメラ用のアルゴリズムを走らせれば対応できるはずです。
しかしそうなればなったで、画角によりどこかで使う方式が切り替わり、ユーザーには直観的でない理由で撮影結果が変わることになります。
シンプルでJust worksを重んじるアップルとしては、現状のポートレートモードだけでも十分に注意や制約が多いなかで、さらに複雑にする両方式併用切り替え式にはしたくなかった、操作も結果もシームレスになるまでは片方で決め打ちということかもしれません。
名称が「背景ぼかしモード」でも「ワイドアパーチャ」でもなく「ポートレート」なのも、分かりやすく主な用途を名前にするだけでなく、あくまで人物を一定の距離で撮るものです、なんでも背景がボケるわけではないし人以外は推奨しません、を誘導する意味がありそうです。