米国が「中国との冷戦」に本腰を入れ始めた。中国企業の対米投資規制に踏み切ったのに続いて、トランプ大統領は中国も念頭に、ロシアとの中距離核戦力(INF)全廃条約を破棄する方針を表明した。日本はどうすべきなのか。
ペンス副大統領は10月4日、ワシントンで「中国に断固として立ち向かう」と演説した。10月12日公開コラム(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57929)で書いたように、私はこの演説が事実上、米国の「中国に対する冷戦開始宣言」だった、とみている。
ペンス演説に続いて、米財務省は10日、半導体や情報通信、軍事など27分野を指定し、外国企業による対米投資を制限する方針を発表した。これは、トランプ大統領が8月に署名した新しい対米投資規制法に基づく措置だ。
米国に投資する外国企業に対して、小額でも対米外国投資委員会(CFIUS)による事前審査を義務付けた。対米投資が米国の競争力を脅かすだけでなく、安全保障上の懸念があれば、却下される仕組みだ。もちろん、中国企業を念頭に置いている。
さらに、トランプ大統領は20日、ロシアとのINF全廃条約の破棄も表明した。これはロシアとの条約だが、狙いはむしろ中国である。大統領は記者団に「ロシアや中国が開発を進めながら、米国だけが条約を守るのは受け入れられない」と述べている。
中国は条約を結んでいないので、中距離核戦力を無制限に拡大できる。実際、中国は東アジアを射程に入れた中距離ミサイルを大量に保有している。標的には当然、日本の米軍基地が含まれる。だが、米国はINF条約に縛られている限り、中国の脅威に対抗できない。
INF全廃条約は1987年、当時のレーガン大統領とソ連のゴルバチョフ書記長によって署名され、2年後の米ソ冷戦終結につながった歴史的な条約である。それがペンス演説から2週間余りで破棄へ、と激しく動いた。歴史の歯車は完全に逆転している。
単に「逆転した」というだけではない。展開の速さに驚かされる。かつての米ソ冷戦は、どうだったか。
ソ連封じ込め政策を立案した米外交官のジョージ・ケナンが、最初にソ連に対する懸念を伝えた歴史的な「長文電報」をモスクワの大使館から国務省に打電したのは、1946年2月だった。先のコラムで紹介したチャーチル英首相の「鉄のカーテン」演説は、同年3月である。
ケナンは2カ月後の5月、国務省に新設された政策企画局長に就任した。トルーマン大統領がソ連との全面的な冷戦を宣言した「トルーマン・ドクトリン」を発表したのは、翌47年3月である。
つまり、ケナンが「長文電報」によって警鐘を鳴らしてから、1年ほどで「ソ連封じ込め」が正式にトルーマン政権の政策になった。このとき、米国の対応は早かった。
ケナンはその後、外交誌『フォーリン・アフェアーズ』の47年7月号に「X」という署名で「ソ連の行動の源泉」という論文を発表している。そして、49年4月に米欧軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)、50年1月には対共産圏輸出統制委員会(COCOM)が創設された。このころには、冷戦は誰の目にも明らかになっていた。
今回の米中冷戦は、何が起点になったか。