Saudades

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【神林長平】のSF小説個人的ベスト3はこれ。

こんにちは。
筆者は読書が趣味だが、以前は小説なるものはほとんど読まなかった。小説を読むくらいなら映画を見他方が良いのではないか、映画なら視覚を通して一度に入ってくる情報量が小説の比ではないと思っていたからだ。
 ただ最近は小説もよく読むようになった。なぜそうなったかというと、やはり普段人と関わり生きていると自分の使用する言葉や語彙力はもちろん、人の気持ちや感情を敏感に感じ取る力は大切であり、小説のなかに出てくる人物を通してそういった人間としての基本的な能力を養うことができるのではないかと思ったのと、特にSF小説に現れる想像力は参考にしたいと思うところがあったからだ。

今でこそ、明確な理由をもって小説を読むモチベーションがあるけど、一人だけ、昔から好んで読んでいたSF小説かがいる。

それが神林長平だった。

ご本人のことはあまり詳しくないけど、他の多くの日本のSF小説家に影響を与えた人らしい。神林長平の作品は「言葉」「機械」、最近は人の「意識」などに焦点の当てたもの多く、非常に独自の世界観を作り出している。SFと同時にファンタジーチックな設定も時たまあり、それらが融合している感じが個人的にとても気に入っている。

そんなわけで今回は、神林長平SF小説の中で個人的にお気に入りの3作品を紹介しようと思う。
それでは。


3. 言壺

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タイトルからも読み取れる通り完全に「言葉」がテーマの9編の短編からなる連作小説だ。第16回日本SF大賞を受賞した神林長平の比較的初期の作品である。

『私を生んだのは姉だった』

小説家の解良(けら)は、万能著述支援用マシン“ワーカム”から、言語空間を揺るがす文章の支援を拒否される。
友人の古屋は、解良の文章が世界を崩壊させる危険性を指摘するが・・・・・

「綺文」ほか、地上800階の階層社会で太古の“小説”を夢見る家族の物語「没文」、
個人が所有するポットで言葉を育てる世界を描いた「栽培文」など
9篇の連作集にして、神林言語SFの極北。


短編集といってもそれぞれの短編が全く独立しているわけではない。つまり同じ世界の話であり、年代が異なるということである。別に一つ一つで読んでも意味は分かるのだけれど、最初の編で起こったことが影響して次の年代の世界が作られているんだぁということがわかるだけで、『私を生んだのは姉だった』というたった一文が世界を大きく捻じ曲げてしまったということを効果的に強調している感じがした。私を生んだということは普通は「母」という言葉で表現されるのに対して登場人物は「姉」という言葉を使用しようとするのである。しかしそれは言葉の定義と言葉が示す現実の概念にそぐわないことであるが故に「ワーカム」はその入力を是が非でも認めようとしない。
「ワーカム」というのはAIを搭載したワープロのようなイメージであるが、この小説の中ではもっと現実空間と強く結びついている。神林長平は「言葉」の持つ力をSF表現とともにリアルに描くのが抜群に巧い。その「ワーカム」という万能ワープロが「跳文」の中では「サイメディック」へと変わり、「没文」の中では「ワーコン」、「栽培文」では「言葉ポッド」への変化する。それぞれの中でどのように「言葉」が世界をゆがめる現象を呈しているかはぜひ読んで確認してみてください。


2. 猶予の月(いざよいのつき)

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これもおそらく比較的初期の作品ではないだろうか。
連作集ではなく一つの長編小説である。上巻、下巻に分かれているので結構な量になるが全く苦にならず読む手がとまらなかった。

第三眼を額に持つカミス人。かれらは人工衛星カミスに住み、事象制御装置により、惑星リンボス上で社会を営むリンボス生物を制御している。カミス中央機構の理論士イシスは、詩人である弟のアシリスに恋していた。けれども、カミスでは姉弟の恋は禁じられている。イシスは事象制御装置を使って、自分たちの恋を正当化できる世界のシミュレーションを開始したが…日本SFの先端を疾駆しつづける神林長平の意欲的大作。


設定だけ見るとかなりファンタジーチックな印象を受ける。「時間」、「事象」などがこの作品のてテーマとなっている。ただ正直知って読み終えても作者が何を描きたかったのかがはっきりとわかるわけではない。カミス人には第三の目があり、特殊な力をもってリンボス(地球のような普通の人間が暮らす星)、の生物を支配している。イシスの行った事象制御による世界の再構築により主要なカミス人はそのリンボスに地球人に人格がトレースされるのである。そしてリンボスを舞台にして、悪人であるバールとそのほかの主要人物たちの思惑が様々な方向に行く。イシスとアシリスは実の姉弟である。神林長平の作品には姉と弟が登場する作品が多く、作者自身もそのような環境で育ったのではないかと思う。


1. プリズム

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はい。きました。僕が一番最初に読んだ神林長平の作品にして個人的には一番好きな作品がこのプリズムだ!はっきり言ってこれを書いたのはプリズムが一番面白いということが言いたかっただけである。これは短編集のような感じもするんだけど一作品である。都市には「浮遊制御体」というものが浮かんでいて、人間の暮らしを様々な面でコントロールしている。別にどういったことに制御体が鑑賞しているのかはそこまで詳細に描かれないが、人間は基本的にすべてこの制御体に認識されていなければならない。そんな中で制御体に認識されず、いないものとして扱われているのが、おそらく主人公である少年である。
 この始まり方もぐいぐい読み手を引き込む感じがあって当時僕はまだそんなに読書家ではなかったけど、それでもすいすい読み進めることができた。普段本を読むのがあまり得意ではない!という人にとても読みやすい作品だと思う。また「浮遊都市制御体」というとまさにSFチックだが、作品に登場するのはその世界だけではなく、「リンボウ」と呼ばれる別の世界では生き生きとした「色」で満たされる実にファンタジーチックな世界なのだ。エスクリトールとヴォズリーフの「創言能力」「創想能力」の戦いももっと詳細を掘り下げていったらもっと素晴らしい作品になるのではないか、これだけで終わらせるにはもったいない!と思うほどユニークな発想ではないだろうか。それは「新しい言葉」を創る力と「対象に想い」を吹き込み力のように描写されている。それに巻き込まれた刑事をメインとした「パズラー」「ヘクサグラム」の編も独特の余韻があって最高だった。すべての編が面白い。意味は良く分からないけど(笑)。そういう作品です。また「ルービィ」と呼ばれる神を抽象化してレベルダウンしたような存在も神林長平の初期作品ならではの独特の世界観を作り出すのに成功していた。

「ルービィに弱い想いが伝われば死んでしまう。」

またいつか読み直したい、僕の読書人生に色どりを加えてくれた傑作。



以上です。
プリズムは人に会う合わないもあると思うけど本当に一作品としてのまとまりが良くて最高だと思っているので興味があったら読んでみてください。