オーダーロード~理想の道路をあなたに~他 短編集   作:善太夫
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目が覚めたらフィリップだった

 僕が目覚めたのは昼近くの頃だった。

 

 オーバーロード11巻が発売されて夢中で読んでいて、いつの間にか眠っていたらしく、こんな時間まで眠ってしまったらしい。

 

 寝起きのボンヤリした頭で枕元の目覚まし時計をみようとして、そこでようやく自分が自分の部屋にいない事に気がついた。

 

 中世ヨーロッパのアールデコ調に統一された室内。まるで映画の中に迷い込んだようだ。

 

 部屋の中を所在なく歩き回っていると、扉が強くノックされた。

 

「フィリップ様、もういい加減お目覚め下さい。お父様もお叱りになられますよ」

 

 僕は目が覚めたらフィリップになっていた。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 食堂に行くと、おそらく父親だと思える、初老にも見えるくたびれた中年の痩せた男が先に食事をしていた。

 

 甲斐甲斐しく給仕をしている女がおそらく母親なのだろうか。

 

「フィリップ、お父様に謝りなさい。兄さんがいたら……」

 

 どうやらオーバーロードを読みながら寝てしまった為、10巻の内容が夢に出て来ているらしい。

 

 僕はどうやら王国のしがない地方領主の出来の悪い三男坊のフィリップで、跡取りの兄はカッツェ平野で死亡するのだろう。

 

「早く兄さんが帰ってくると良いのに。やはり戦争になんか行かせるべきではなかったわ」

 

 

「……そういうな。どうせ毎年恒例の帝国との睨み合いだ。伯爵様の顔を立てる意味でも後継ぎを送るのは政治的駆け引きでもある。ま、今年も何事もなく戻ってくるだろう」

 

 父母の話しから察すると、カッツェ平野での戦争の結果はまだ出ていないらしい。

 

 もしかしたら平行世界とかで、僕が現在いる世界にはナザリック地下大墳墓やアインズ・ウール・ゴウンが存在しない世界なのかもしれない。

 

 とすれば、僕は一生うだつの上がらない、小領主の無駄飯食らいで終わってしまう。

 

 まあいいか。どうせ夢だし。

 

「お父上、今年の会戦では魔導王国というのは出てきていないのでしょうか?」

 

 

 父はやたらかしこまった僕の言葉に不審なものを感じたのか、黙って僕を見つめていたが、やがてなにやら納得したかのような表情で答えた。

 

「……ふん。あのエ・ランテルの領有を主張しとる偽物国の事か?あんなの帝国の偽帝のインチキに決まっている」

 

(良かった……魔導王国はどうやら存在するらしい。さて、これからどうしたものか?)

 

 カッツェ平野で王国兵と共に後継ぎの兄も死亡、フィリップとしての自分がこの小領主の跡取りとなり、一躍貴族の仲間入り……これは既定路線だ。

 

 ちなみに本物のフィリップだと浮かれてヒルマやアルベドに良いように使われて捨て駒になってしまうのだろう。とはいえ、12巻までしか読んでいないから、すべては想像の域を出ないのに過ぎないのだが。

 

 

 だがしかし、僕はフィリップとは違う。

 

 なにしろ丸山くがね著「オーバーロード」を読んだ上でこのオーバーロードの世界に来ている。

 

 という事はフィリップであってフィリップに非ず。情報こそが世界を制するならば、覇者たりえるはずである。

 

 まずは自らの能力を把握しておこう。

 

 いわゆる現地人というやつで、腕力は使い物にならない。

 

 貴族という生き物はまともな職業ランクもない。

 

 つまりは非力そのもので、とてもじゃないがナザリックは愚か八本指にすら太刀打ち出来ない。

使えるのは知識のみ、のようだ。

 

 

 このゲームに勝つ為には、圧倒的なナザリックの庇護下に入り、現地人を支配する事を目指すべきだろう。

 

 例えば、僕ならばシャルティアを洗脳したワールドアイテムがスレイン法国の至宝、ケセ・ケコクである事も知っている。

 

 これをアインズに教える事で多大な恩が売れるのではないか?

 

 まてよ。アインズよりアルベドに教えるべきかもしれない。

 

 ちょうどフィリップとアルベドは接点があるのだし、それにアルベドはなにやら画策している節がある。

 

 ああ……本来のフィリップと違い、僕がフィリップの立場ならばなんという可能性の大きさ!フィリップ最高!フィリップ万歳!

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 数日後、父も母も王国からの知らせを受けて放心状態に陥っていた。……無理もない。

 

 次男は既に病死し、後継者として期待を一身に受けて育った兄がカッツェ平野での戦争で亡くなってしまったのだから。

 

 僕は冷静だった。

 

 なにしろ僕のフィリップ歴はまだ短く、まだ会った事すらない兄に対して何ら感情が動く事はなかった。ただ、単純に着実に僕のフィリップとしての野望を達成させる準備が整いつつある事を実感していた。

 

「…伯爵様にはちゃんと挨拶に行ってきたかね?」

 

「……はい。お父上」

 

 

 本来のフィリップとは違い、僕は物事を冷静に考え、利用出来るものならなんでも利用するつもりだ。喩えそれが古臭いカビだらけの権威であったとしても。

 伯爵家はかつては王家を支える筆頭貴族として権勢を誇っていたが、この数代にわたり家勢は衰え、今では過去の権威にすがるだけの没落貴族に過ぎなかった。

 

 しかし、僕が権力を握った暁にはまた権勢を取り戻してやろう。さすればきっと忠義な手駒としてきっと役立つに違いない。

 

 さてさて…そろそろかの八本指のヒルマが接触してくる頃だろう。

 

 そして魔導王国からの使者としてアルベドがやってくる。

 

 

 

 今のままでは単なる現地人として、きっと歯牙にもかけられないのは明白である。結局の所、ナザリックに属さない勢力は彼らにとって虫けらに過ぎないのだから。

 

 かといって八本指みたいに恐怖公の眷族に蹂躙されるのは避けたい。

 

 例え夢の中であっても遠慮したい体験だ。

 

 ふと、天啓のごとく一つのアイデアがひらめいた。

 

「…モモンガを愛している」

 

 そうだ……名前を変えてしまおう。いや……名前に「モモンガ」を付け足せば良い。そうすればナザリック随一の戦力が特別部隊ごと手に入れられるかもしれない。

 

 アルベドの設定はモモンガによって書き換えられたが、それは「モモンガ」という名前ならば有効ではなかろうか?おそらくは誰も思いつかなかった盲点を見つけてしまうとは……何という頭の良さ!

 

 

 フィリップは(わら)った。








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