オーダーロード~理想の道路をあなたに~他 短編集 作:善太夫
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ヘロヘロはナザリック地下大墳墓の第一○階層の玉座で人を待っていた。
エルダー・ブラック・ウーズという異形種の彼はモンスターではなくプレイヤーである。
武器防具の劣化能力を保有し厄介な敵として存在するスライム系の最高種族であるが、選択するプレイヤーはほとんど皆無である。
彼は玉座の間でひたすら待ち続けていた。
※ ※ ※
DMMO‐RPG YGDRASILのサービス終了に伴い、一緒にナザリック地下大墳墓で過ごしませんか、というメールを受け取ったのは確か一週間前の事だったと思う。
差出人はヘロヘロもメンバーとなっている、ギルド アインズ・ウール・ゴウンのギルドマスターのモモンガからだった。
最盛期の頃と違い、メンバーの多くが実質的には引退しており、ヘロヘロ自身もリアルでの仕事に忙殺されて満足にギルドメンバーとしての責務を果たしていなかった。
申し訳ないな、とは思いながらたまにしかログインできない後ろめたさが常にある。ただ、それも最終日だという。
かつては生活にもゆとりがあり、ユグドラシルの世界を満喫し、楽しんでいた。
いつ頃からだろうか?
仕事に追われて楽しむ感覚すらいつしか忘れてしまっていた。
よし、最終日は少しだけ。
少しだけ、顔を出そう。
後から後悔する事がないように。
※ ※ ※
モモンガは以前と変わらず打ち解けた様子で迎えてくれた。
ヘロヘロの愚痴も静かに聞いてくれていた。
ひとしきり互いの近況や愚痴を語り合って合間が出来た時に、モモンガが切り出した。
「ヘロヘロさん、お疲れの所、申し訳ありませんが、少しの間、私のかわりに皆を待ち受けてくれませんか?ちょっと一旦ログアウトしてトイレに行っておきたいので…」
ヘロヘロはこの言葉に裏があると気がついたが、あえて口にしなかった。
「いいですよ。モモンガさんには日頃から迷惑かけてばかりですからね。ゆっくり済ませて来て下さい」
モモンガはひとしきりあやまりながらログアウトしていった。
さて、とヘロヘロは立ち上がり玉座の間に向かった。
彼らが待っていたのはギルドメンバーだけではない。
彼らのギルド アインズ・ウール・ゴウンの拠点であるこのナザリック地下大墳墓は巨大なダンジョンであり、ユグドラシルサービス最終日だからこそ攻略を試みるプレイヤーがいるかもしれないのだった。
そして見事、玉座の間にたどり着いたら悪のロールプレイのラスボスよろしく出迎えてやろう、というギルドとしての意向に添ったものだ。
玉座の間には執事と戦闘メイドが居並び、玉座の脇には一人の美女が立っている。
彼らは全て拠点NPCでそれぞれ戦闘目的のビルドがされている。
モモンガとは玉座の間で落ち合う事にしていた。
――それにしても――おそらくモモンガの用事は言い訳に過ぎない。
きっと誰かとユグドラシルの最後を過ごしたかったのだろう。
しかし、ヘロヘロに気遣って言い出せなかったのだ。
最後位、愚痴をやめておくべきだった、とヘロヘロは後悔したがもう遅い。
せめて、モモンガに最後まで付き合う事で少しはこれまでの恩に報えるだろうか、などと考えながらヘロヘロは眠ってしまった。
※ ※ ※
「――いかがされましたか?ヘロヘロ様」
目が覚めたヘロヘロを迎えたのは初めて聞く声だった。
ふと見上げると玉座の隣に立つ女性NPC―守護者統括アルベドだとヘロヘロは思い出した―が話しかけていた。
――こんなプログラム組んでいないぞ?
モモンガのかわりにナザリック地下大墳墓の主となったヘロヘロの物語が、いま、始まるのだった。
〈オーバロード外伝 エルダー・ブラック・ウーズ~いにしえの暗黒粘体~ 終わり〉