それに、漫画村の利用者契約者情報として開示された住所は、部屋番号まで記載されていなかったとされている。これが意味するのは、クラウドフレアに記載する利用契約者情報として正確な居住地を記載しなくても有料サービスの利用契約ができるということであり、このような認識はすでにクラウドフレアを、悪意をもって利用する者にとって共有されていると考えるべきであろう。

 クラウドフレアについては無料サービスもあり、無料サービス利用においては、詳細な情報を要求されない。そして、CDNは米国を会社所在地としない会社も存在しており、クラウドフレアが必ずしもCDNの全てではない。

 一方②は、私の権利侵害を行うサイトについて、私自身がクラウドフレアに対して問い合わせを行い、ポルトガルや米国のサーバー管理会社を特定したことがあるが、サーバー管理会社によっては、削除請求を行っても全く対応されないことがあった。

 クラウドフレアがキャッシュデータを仮に削除したとしても、元のサーバー管理会社が「防弾サーバー」と呼ばれるサーバーを利用していれば、インターネット上には記事が公開されたままになる。「防弾サーバー」はデータの削除請求に一切応じないサーバーを指す。権利を侵害するサイトは、クラウドフレアが利用できなくなっても、結局防弾サーバーを利用するか、他のCDNを利用することで、法的追及を受けにくくすることが可能である。

 このように、私の経験や、現在置かれているインターネット環境から言えば、必ずしもクラウドフレアに対して法的手段を取ったことをもって、ブロッキングの法制化の必要がなくなったとか、緊急避難の要件を満たさなくなったというのは疑問である。
※画像はイメージ(ゲッティ・イメージズ)
※画像はイメージ(ゲッティ・イメージズ)
 最後に、価値の大きい法益のために価値が小さい法益を害してもよいとする「法益権衡」の観点から述べたい。著作権は財産権であり、被害回復の可能性がある著作物が一度インターネット上で流通されてしまうことについて、被害回復が不可能となる児童の権利などと同様にできないとの見解がある(安心ネットづくり促進協議会 児童ポルノ対策作業部会「法的問題検討サブワーキング報告書」)。だから、すでにブロッキングされている児童ポルノと著作権侵害を同列にすることはできないとの主張がなされている。

 しかし、被害回復の可能性があるというが、インターネット上で一度著作権侵害がなされれば、著作物の複製・拡散は容易にできる。そして、財産的損害について被害回復が可能であるという議論も、権利侵害サイトにおいて権利侵害を受けた全著作権者の全損害が回復可能であるとするのは現実味がないと言わざるを得ない。加害者に資力があるかどうかや、強制執行できる財産が日本にあるかなども見据えた議論をすべきである。

 以上のように、ブロッキングの手段としての必要性については否定できないところがあり、いまだ議論の必要があるように思われる。今後も継続的に健全な議論が行われ、権利侵害が一刻も早くなくなることを期待するばかりである。