経済冷戦から新冷戦に踏み出すトランプ大統領

INF条約破棄が招く核危機

2018年10月25日(木)

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訪ロしたボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)(写真=AP/アフロ)

 トランプ米大統領が冷戦終結と核軍縮を導いた歴史的な中距離核戦力(INF)廃棄条約を破棄する方針を打ち出した。ロシアが条約を履行せず、条約の枠外にある中国が核増強に動いているとみたためだが、米中「経済冷戦」は米ロ中の「新冷戦」に足を踏み入れる危険がある。

 これは、オバマ米前大統領の「核兵器なき世界」を葬り去ろうとするものである。米朝首脳会談は朝鮮半島の非核化をてこに、核軍縮にはずみをつけてこそ歴史的意義がある。トランプ大統領によるINF条約破棄は、核軍拡競争を再燃させ、世界を再び「核の危機」にさらしかねない。新冷戦を防ぐため、唯一の被爆国である日本の責任は重大だ。

冷戦終結と核軍縮を導いた歴史的条約

 1987年、当時のレーガン米大統領と旧ソ連のゴルバチョフ書記長が調印したINF廃棄条約は、1989年のベルリンの壁崩壊から両独統一、ソ連解体につながる冷戦終結への突破口となった。それは、START1(第1次戦略核兵器削減条約)、START2(第2次戦略核兵器削減条約)にも波及し、世界の核軍縮を軌道に乗せた。

 トランプ大統領はこの歴史的な条約について、「ロシアや中国が戦力を増強しているのに、米国だけ条約を順守することは受け入れられない」とし、「合意は終わらせる」と表明した。さらに「我々は戦力を開発する必要がある」と核増強をめざす方針を示した。

 たしかにロシアが条約を順守していないという疑念はオバマ政権時代からあった。2014年の米議会への報告で、条約違反が指摘されている。米国が問題にするのは、ロシアが実戦配備したとされる新型の巡航ミサイル「SSC8」だ。射程500~5500キロメートルの地上発射型の巡航ミサイルの開発や配備を禁じるこの条約に違反しているとみている。ハチソン北大西洋条約機構(NATO)大使は「このミサイルを排除することだ」と述べている。

ゴルバチョフ氏の怒り

 問題は、ロシア側に疑念があるからといって、ロシアに条約順守を徹底させる前に、この歴史的条約を一挙に破棄してしまうのかという点である。レーガン氏とともに条約に調印したゴルバチョフ氏は怒る。トランプ大統領の方針について「危険な後退であり、歴史的な前進を脅かすものだ」と警告している。歴史的条約の当事者だけに重みがある。

 訪ロしたボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)と会談したプーチン・ロシア大統領は「ロシアは何もしていないのに、米国の取る手段には驚かされる」と皮肉交じりに批判した。中国外務省の報道官は、トランプ大統領がINF廃棄条約破棄の理由に中国の核増強をあげたことに「完全な誤りだ」と反発した。フランスのマクロン大統領はトランプ大統領に電話を入れ「条約は欧州の安全保障にとって重要だ」と懸念を表明した。米国にも与党・共和党内に「歴代大統領の功績をくつがえすのは間違いだ」という批判がある。

欧州「核危機」の悪夢

 冷戦時代、米ソ合わせて6万発を超す核弾頭は、世界を核の脅威にさらしていた。とりわけ冷戦末期、欧州は「核危機」の悪夢にさいなまれていた。ソ連が中距離核ミサイルSS20を配備したのに対抗して、NATO加盟の西欧諸国には米核ミサイルの配備計画が進行していた。この核危機のなかで、西欧には反核運動が広がった。この反核運動はソ連の誘導ではないかという説もあったが、それは欧州の市民運動そのものだった。そこには、米ソ対立の余波をまともに受ける西欧の社会の苦悩があった。

コメント15件コメント/レビュー

オバマの「核兵器なき世界」なんて絵に描いた餅、捨ててもいいじゃない。ただの絵なんだし。
だいたいオバマがしっかり対応しなかったせいで北朝鮮の核武装が進んだんじゃないか。
日本の責任は重大だとおっしゃるが、軍事大国でも国連常任理事国でもない日本が他国の軍事政策に
口出しできる力があるのでしょうか。せいぜい絵に描いた餅がもう一枚増えるだけだ。
「唯一の被爆国」なんてセンチメンタリズムに浸る前にまずは足元の問題である自衛隊の憲法解釈問題を片付けるところから始めるべきでしょう。(2018/10/25 13:13)

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「経済冷戦から新冷戦に踏み出すトランプ大統領」の著者

岡部 直明

岡部 直明(おかべ・なおあき)

ジャーナリスト/武蔵野大学 国際総合研究所 フェロー

1969年 日本経済新聞社入社。ブリュッセル特派員、ニューヨーク支局長、論説委員などを経て、取締役論説主幹、専務執行役員主幹。早稲田大学大学院客員教授、明治大学 国際総合研究所 フェローなどを歴任。2018年より現職。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

オバマの「核兵器なき世界」なんて絵に描いた餅、捨ててもいいじゃない。ただの絵なんだし。
だいたいオバマがしっかり対応しなかったせいで北朝鮮の核武装が進んだんじゃないか。
日本の責任は重大だとおっしゃるが、軍事大国でも国連常任理事国でもない日本が他国の軍事政策に
口出しできる力があるのでしょうか。せいぜい絵に描いた餅がもう一枚増えるだけだ。
「唯一の被爆国」なんてセンチメンタリズムに浸る前にまずは足元の問題である自衛隊の憲法解釈問題を片付けるところから始めるべきでしょう。(2018/10/25 13:13)

何時も思うのだが岡部と言う御仁は何処の国の人なのでしょうか?
此処までロシアや中国の肩を持つのはどう見ても日本国籍とは思えません。
ロシア、中国、ドイツが何をしてきて今何をしているのか見ていないようです。

例の米中の関税の掛け合いは単なる貿易戦争ではありません。
貿易の名を借りた戦争です。
実戦争を起こす訳には行かないので関税という手段を用いているだけです。
嘗ての冷戦はチャーチルの演説に依って始まりました。
新たな米中冷戦はペンス副大統領の演説で号砲が撃たれました。
たった今歴史が動いています。(2018/10/25 10:53)

書かれていることはほとんどがその通りと思うが、下記一点だけは、言葉の問題だけなのかもしれないが、違和感を感じた。
> 新冷戦を防ぐため、唯一の被爆国である日本の責任は重大だ。
戦争を仕掛けた責任があり、その終結には核爆弾投下もやむなし、という意見はあるが「被爆」した側に核兵器廃絶を訴える責任があるのか。悲惨な体験を伝える、これ以上増やさないということの自発的な活動に価値があるのであって、義務でも責任でもない。責任と言うのであれば、戦勝終結という大義のために世界で唯一核爆弾を投下してしまった米国が、事態をきちんと把握評価し、自身が二度とこれを行使せずに済むような外交を繰り広げることこそが責任であり、義務だと思う。トランプには何も哲学はないが、それを指示する米国民にも理想を言っていられない事情があるのだろう。IMF離脱に関しては、そこをどうできるのかが課題なのだと思われる。(2018/10/25 10:28)

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