川上量生(カドカワ社長)
既に報道されているように、政府の知的財産戦略本部が検討を進める有識者会議「海賊版対策タスクフォース」は、10月15日の第9回検討会議で3時間半に及ぶ長丁場の末、報告書を出さずに流会しました。
多くの報道では「紛糾した末まとまらなかった」「米国の裁判でCDN(コンテンツ配信ネットワーク)業者から『漫画村』の運営者が特定できた(のでブロッキングは必要ない) 」というブロッキング(接続遮断)反対派の主張に沿った内容が書かれています。
では、実際に何が争点となって、どういう議論が行われたのか。あまり報道されないブロッキングに「固執する推進派」(これも反対派につけていただいたレッテルですが…)の視点から、振り返りたいと思います。
そもそも検討会議は9月19日の第8回で終了する予定でした。しかし、最大のテーマであるブロッキングをめぐり、「中間まとめ」の報告書の中にどう盛り込むかについて、委員の間で完全に意見が分かれ、結論が出なくなりました。
事務局からは、ブロッキングについては両論併記にするという仲裁案が提示されたのですが、森亮二弁護士をはじめとする反対派委員の皆さんは「両論併記すら認めない」という立場を崩さず、本来予定されていなかった第9回が開催されることになったのです。
なぜ反対派は両論併記を認めなかったのか。それは両論併記のままだと、その後ブロッキングの法制化が進む可能性があるからというのが本当の理由です。しかしながら、本来は政府がブロッキングを行うべきかの判断材料を提供するのが今回の検討会議の役割でしたから、政府がそういう判断をできないように材料を提供しない、というのは無茶苦茶な論理です。
ですので、表向きの理由として反対派が掲げていたのは、ブロッキングの法制化は憲法違反の疑いが強く、法制化の可能性を残した形での「中間まとめ」を作成するのは絶対に許されない、という理屈でした。
憲法違反というのは非常に大上段な物言いです。確かにブロッキングには「通信の秘密」という憲法に定められている国民の権利を侵す可能性はあります。では、「ブロッキングは絶対にできないのか」というと、現在でも児童ポルノや各種サイバー攻撃に対してブロッキングは実施されています。ところが、それについて憲法違反との声は上がっていません。
それなのに、なぜ反対派は今回のブロッキングについて、憲法違反の疑いがあると主張したのか。反対派は、ブロッキングにはそもそも立法事実がないからだ、という理屈を持ち出してきました。「立法事実がない」。平たく言うと、法律をつくらなければいけない理由が存在していない、との主張です。仮にそれでも法律をつくろうとするのであれば、憲法違反の恐れが強いというのです。