この前の続きです。今回は、Pから修正指示があったのに結局直さなかった、という実体験集を。
その1
『きまぐれオレンジ★ロード』のイベント用作品(テレビシリーズの前のやつ)を作った。1985年だったか、おれの最初の監督作品でした。
その中に「この下司野郎!」というセリフがあった。確か勇作が、ホテルの部屋にひかると二人でいる恭介に殴りかかる場面。するとアフレコ時に、Pの誰かが「下司」はもしや差別用語ではないかと言い出した。Pたるもの、とにかく大事を取ろうとするのだ。
もともと「身分の低い者」の意味ではあるが、「下司の勘繰り」などとも使われている。これは別に放送禁止ではないことをおれは知っていたのでその旨を説明したところ、誰かがどこか(テレビ局?)に電話を掛けて調べてくれた。結果として、そのまま収録されることになったのだった。
後日談。……ゲスの極み乙女。が登場して紅白にまで出場しても、そのグループ名が問題になったことなんてないぞ(別の問題はあったけどw)。「ほーらね」とおれは思った。
その2
これもかなり前、「らんま1/2」のシリーズディレクター(実質監督)をやった時のこと。良牙が登場する話数が近づいた時に局Pが我々スタッフに言った。……「ブタという言葉はやめてください」と。
良牙は水をかぶると黒くて小さなブタに変身してしまうという設定で、原作でもやたらに「ブタ」と呼ばれているわけで、ブタなんだから「ブタ」と称するしかないのです。
なぜセリフでブタと言ってはいけないか、Pの説明は一言、「世の中には養豚業者の方もいらっしゃいますから」というものだった。この発言がどんな意識を表してるか分かりますよね?
でもブタが言えなきゃストーリーが成り立たないことを我々が主張すると、P答えて曰く、「小ブタか黒ブタならいいです」。……はぁ? 結局はブタじゃないの。Pのこのバカバカしい発言、実際のアフレコでは音響監督もおれもなし崩しに無視し、原作通りにアニメの中でも「ブタ」です。
後日談。……この少し後には『紅の豚』が作られ、「はれときどきぶた」とか「青春ブタ野郎は~」とかもある。「世の中には養豚業者の方もいらっしゃ」るのにね。
その3
かつて『ダーティペアFLASH』ドラマCDというものがありまして、それの脚本をたくさん書きました。まずラジオ番組の中で一話づつ放送されて、後でそれをまとめたCDが発売された。
そのドラマの中で、ユリが小さな女の子に向かって「あそこにおまわりさんがいるでしょ?」と話す場面があった。するとそのアフレコ時に(音声ドラマなので正確にはアフレコではないけど)、このセリフに対しても思いがけない横やりが。
ラジオ局の担当者が「おまわりさんだと放送できない」と言い出したのである。「警察官」にせよとおっしゃる。おれとしては、「でも小さい女の子に対して『あそこに警察官がいるでしょ』は不自然すぎる」と反論するわけだが、担当者は「おまわりさんは警察官に言い換えることになっている」と頑なにおっしゃる。
結局、次のような方法をとった。CDを販売するレコード会社側のPは「うちではおまわりさんで全く構いません」とのことだったので、お言葉に甘えて当初の脚本通りに収録した。そして、ラジオ用バージョンだけそのシーンをまるごとカットしたのである。前後つながらなくなるが、どうしてもダメだと主張するのだから仕方ない。このラジオ局では「犬のおまわりさん」も放送できないのかな。
後日談。……つい先日の「深夜天才バカボン」でもあの警官はちゃんと「目ン玉つながりのおまわりさん」と呼ばれてたよ。