その名は「松尾アトム前派出所」さん。
長野県でりんご農家として働きながら、プロの芸人として都内を中心とした各地でお笑いライブへの出演を中心に活動。現在、エキサイトが運営するラジオ番組アプリ「Radiotalk」にて、自身の農家としての日常をネタにしたトークを配信しています。
りんご農家と芸人──。一見想像のつかない兼業ですが、いったいどんな経緯でこのような活動をしているのか。芸人として、りんご農家として目指しているものは……
りんご収穫のスケジュールを事務所が押さえている
──事務所で管理されているスケジュールには、農家としてのスケジュールも組み込まれていると伺いました。
松尾さん「はい、りんごの収穫時期はそこに注力させてもらっています。毎年11月の後半から12月にかけてなんですが、時間との勝負なんですよ。雪でりんごが凍ると食べられなくなっちゃうもので……」
──芸人とりんご農家、どちらのキャリアのほうが長いんですか?
松尾さん「芸人としてのキャリアのほうが長いんです。農家をはじめたのは、結婚がきっかけで。
入場料100円のライブを開催したときに見に来てくれたお客さんと一度結婚したんですが、家庭を持つとバイトだけでは生活していけなくて。
『地元の農園が高齢化して若い働き手がいないから、農園を継いでくれないか』と父親から言われて、お笑いをやりながらでもいいか?と聞いたら、いいというので」
──ぶっちゃけた話、芸人とりんご農家、どちらがもうかりますか?
松尾さん「芸人の収入をりんご農家の収入でカバーしている感じですね。といっても、自分は月5万くらい。そこにお笑いの収入を足して生活している感じですね。全体的には全然お金ないです。
同じ事務所ということで脳みそ夫くんとよく飲みに行くんですが、僕のほうが先輩なので、僕がおごるんですよ。実際には脳みそ夫くんのほうが稼いでるんですけども……。
最近は、脳みそ夫くんにお金を借りて脳みそ夫くんにおごって、その借金を脳みそ夫くんとのバーター(抱き合わせ出演)仕事で稼いで返すっていう…… 『脳みそ夫自転車操業』を繰り返しています」
りんごもお笑いも「ちょっと勉強したくらいじゃ美味しくならない」
──Radiotalkで配信されているトークも、プロの農家としての知識がふんだんに織り込まれていますね。
松尾さん「りんご作りとお笑いって、共通するものが多いんですよね。
農園ではいろんな作物を作るんですが、りんごだけ突出して奥が深い。梨あたりは農協のいうやり方に沿えばおいしく作れるんですけど、りんごはそうはいかない」
──りんご作るのって、そんなに難しいんですね……
松尾さん「りんごだけは、ちょっと勉強したくらいじゃ美味しくならないんですよ。
りんごを育てるとき、きちんと実に栄養がいきわたるように余分な枝を切る「剪定(せんてい)」という工程があるんですが、どの枝を切れば正解かなんて、結果を見るまで全然わからない。
よくサスペンス映画で、時限爆弾につながれた赤と青のコードどっちを切るか、ってシーンがありますよね。あれに何度も直面しているような感じなんです。
やるかやらないかの2択だけれどまったく。まるで地球と将棋さしてるような気分です。」
お笑いライブで農家キャラを絶対やらない理由
──ライブで農家キャラをやってみようとやってみようと思ったことは?
松尾さん「若手芸人やテレビの人には、農家のおっさんの格好してネタやれば?とはよく言われますね。でも全部無視しています。そういう人たちが描く『農家の格好』って、だいたい麦わら帽子をかぶったカールおじさんスタイルなんですよ。農家をバカにしてるんです。
りんご農家って想像以上に俊敏性が求められますからね。こっちは地球と真剣勝負してますから。
……まぁでもさすがに面と向かって言ったらケンカになるんで、その場では『わかりました〜』って返事するんですけども。」
──「農家キャラ」は一見わかりやすい気もしますが、そうではないんですね。
松尾さん「それやっちゃったらただのキャラクター大会ですからね。全部農業にたとえてギャグをやるのはわかりやすいけれど。それはある意味『違う場所に当てはめる芸』であって、すでにその分野のエキスパートが何人も活躍している。自分の土俵ではないなと思います。
あばれ大鼓的な、何をするかわからない、得体のしれない存在であり続けたいんです。『何いってんだこいつ』と思われ続けていたいというか……」
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