楠正憲(国際大学グローコム客員研究員)

 10月15日に行われた政府の「インターネット上の海賊版対策に関する検討会議」は、中間とりまとめを提出できないまま無期限延期となった。検討が不十分なまま、海賊版サイトのブロッキングに突き進まなかったことは英断だった。

 今年4月に、民間の自主的取り組みとして、「漫画村」「Anitube」「Miomio」の3サイトに対するブロッキングが適当との緊急対策が示された。しかし、実際にはブロッキングが実施されないまま、3サイトともサービス閉鎖に追い込まれた。これは個人やニュースサイトによる「草の根」調査を通じて、海賊版サイト運営者の正体に迫ったことによる成果である。

 検討会議では、現行制度で海賊版サイトに対してどこまでの対抗措置を行うことができるのか、実際に試すことのないまま臆測が語られた。例えば、検討会議では当初、多くの海賊版サイトを配信している米コンテンツ配信サービス(CDN)大手のクラウドフレア(Cloudflare)は権利者からの照会には応じないとされたが、これは出版社が作品の著作権を保有しておらず、米国で裁判を起こしていなかったからだった。

 実際の権利者である漫画家がクラウドフレアを相手取って米国で裁判を行ったところ、罰則付き召喚令状(サピーナ、Subpoena)を勝ち取り、クラウドフレアから海賊版サイト運営者の情報について開示を受けている。同じ10月に東京地裁でも、クラウドフレアに対して発信者情報の開示を命じる仮処分を決定している。

 中間とりまとめ(案)では、被害規模について業界団体のコンテンツ海外流通促進機構(CODA)が試算した数字が採用されたが、明らかに過大である。試算では、「漫画村」だけで3192億円の被害があったとしている。
※写真はイメージです(ゲッティイメージズ)
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 算定根拠は、アクセス解析サイトのシミラーウェブ(SimilarWeb)で「漫画村」のドメイン(インターネット上の住所)を解析し、17年9月から18年2月の延べアクセス数の6億1989万に、漫画や雑誌の平均単価515円を掛け合わせた額という。

 そもそも、2017年の紙と電子のコミック市場全体で4330億円、前年比で2・8%減となっている。これを被害算定の6カ月分に換算すると2165億円となる。本当に「漫画村」だけで3千億円以上の被害が出たならば、コミック市場は消滅どころかマイナスに突き抜けてしまっている。