金香清
Text by Kim Hyang-chung
韓国で知らない人はいない“元”天才少年
韓国では知らない人がいない“元”天才少年のソン・ユグン(21)が、数年ぶりにSBSのテレビ番組に出演し、話題になっている。
「東亜日報」によると5歳で微分積分を解いたというソンは、6歳で小学6年生に入学・卒業し、7歳で高等学校卒業学力検定(日本の大学入学資格検定に相当)に合格、韓国最年少で仁荷(インハ)大学に入学した。彼の知能指数は200近いとされている。
メディアに引っ張りだこで、CMにも出演していた彼だったが、ある時期から韓国ではすっかり姿を見せなくなった。
2009年、12歳になったソンは学校の環境に適応できず、仁荷大学を自主退学。2010年に大田(テジョン)化学技術連合大学院の修士・博士統合課程に合格した。
しかし2015年に発表した、ブラックホールに関する論文に盗用の疑惑が浮上し、撤回することになった。指導教員は解任され、ソンは指導教員を探すこともできなくなった。結局、2018年6月に学位論文の最終審査にも落ち、大学院を修了した。
SBSの番組でソンはこう吐露した。
「胸が痛むことだけれども、韓国では何をしても僕のアンチがいます。なので海外で研究することにしました」
“元”天才少年を引き受けた日本人
韓国から見放された青年の手を取ったのは、80代の日本人研究者だった。
現在、ソンは日本の「国立天文台」に所属し、同所の岡本功名誉教授の指導を受けている。岡本教授は番組の中で「可能性ある青年を挫折させてしまうのは、韓国にとってもマイナスだと思います。彼に精神的、学問的サポートが必要ならば、私は全力を尽くします」と発言している。
ソンは「学者は論文がすべて。論文で問題が起きたのだから、論文で証明しようと心に決めました」と意気込む。ソンは2018年12月24日から兵役義務のため入隊が決まっているが、それまでに論文を2本完成させるのが目標だという。
国中誰もが知る天才少年も、もはや21歳。修士や博士の学位すら持たない立場では、世間の平凡な青年と変わらない。だからこそ番組は「平凡な青年」となったソンをフィーチャーしたのかもしれない。
最初に入学した大学を2年で中退したことについてソンは、「大学構内を歩くのだけで苦痛だった。講義室の移動も辛かった」と、幼い年齢で大学という場での適応が難しかったことを番組のなかで吐露している。
ソンというひとりの青年の話に過ぎないが、これを韓国メディアの問題として指摘する声はかねてからあった。メディアの過熱報道が、彼の学ぶ環境を壊してしまったという指摘だ。今回のSBSの番組のあとも、やはりメディアの後追い報道があふれている。
「メディアトゥデイ」はこう批判する。
「メディアは今回も省察を見せなかった。放送後、リアルタイム検索ワードに上がったソン・ユグンをキーワードにした記事だけで150以上あった」「放送に出演していないソン・ユグンの父親を引き合いにも出している」
ソンを巡る報道騒ぎの裏には、韓国の過度な学歴競争社会が透けて見える。
いま韓国社会がソンのためにできることは、”平凡な青年”となった彼が研究機関で静かに地道な研究を続けられるよう見守ることだろう。
PROFILE
金香清 Kim Hyang-chung
「クーリエ・ジャポン」創刊号より朝鮮半島担当スタッフとして従事。退職後、韓国情報専門紙「TeSORO」(ソウル新聞社)副編集長を経て、現在はコラムニスト、翻訳家として活動。著書に『朴槿恵 心を操られた大統領』