日本を支配する呪縛「PDCA」は日本ガラパゴスの概念。激変する現代社会では新しい理論が必要
顧客の世界観を探り、常に変化していく「OODAループ」
変化の激しい時代に対応するのが、シリコンバレーでも使われているOODA(ウーダ)ループだ。OODAループとは、アメリカ空軍大佐ジョン・ボイドが開発したあらゆる分野で適用できる戦略理論。朝鮮戦争(1950~1953年)の空中戦でボイド大佐率いる味方一機が敵機十機を撃墜したとされる戦果の研究が原点となっている。
OODAループは、
みる(見る、観る、視る、診る)-Observe
わかる(分かる、判る、解る)-Orient
きめる(決める、極める)-Decide
うごく(動く)-Act
みなおす(見直す)/みこす(見越す)-Loop
の、5つの思考プロセスからなる。
「OODAループとは、常に中身が動いていく思考法です。自分の世界観を持ち、その世界観を状況や相手に合わせて更新しながら、軍事でいえば『敵の戦闘意志』、ビジネスでいえば『相手(顧客やライバル企業)の思い』を探り、相手の心をどのような状態にするかを決めて動くことです」(入江氏)
たとえば、接客サービス業であれば、顧客がいかに感動するかを考える。感動させるためにどうしたらいいか。顧客が感動する一例としては、喜びや心地よさなどのプラスの感情を自分が共有したいと願う人々の集団(恋人、家族、学校の友人、職場の同僚グループなど)の中で共有できるからだ。では、目の前にいる顧客はどんな人々とどんなプラスの感情を共有したいのか――。これが顧客それぞれの世界観となる。
「この顧客の世界観をできるだけ早く認知して、その世界観に働きかけることができるようにする。このOODAループの思考法の適用例が、起業のプロセスとして最低限の製品・サービスの試作品を作って顧客の反応を見る『リーンスタートアップ』や商品企画・製品開発のプロセスで顧客の世界観を中心にデザインを再考する『デザイン思考』です」(入江氏)
PDCAの欠点を補うには、OODAループの導入が最適
リーンスタートアップとは、無数のベンチャーが生まれているシリコンバレーにおいて、起業の成功率を上げるための方法だ。最初に、短期間に低コストで試作品を作り、一定の顧客の反応を観察して、顧客に受け入れられるまで試作品を作り直し、その製品やサービスがターゲットのマーケットに受け入れられるかを判断していくものだ。
デザイン思考とは、デザインをするプロセスで顧客のニーズを認知する方法だ。ビジネスの現場で使われているデザイン思考は、顧客目線でニーズを発見し、製品やサービスを試作・検証するものだ。シリコンバレーのこの思考方法が現代にマッチしているということは容易に想像ができる。
「クライアント先の企業でOODAループの話をすると、優秀な従業員からは『はじめて経営戦略理論がしっくりしました』『これまで自分なりにやっていたのは、OODAループだったんですね』という声が出てきます。PDCAは心や感情などの人間的要素を排除して、計画が完璧であることを前提にそれに従うことを求める一方で、環境の変化や想定外の事態への対応が後手後手に回ってしまうのです。
PDCAの欠点を補完するにはOODAループの導入が最適です。経営のOODAループと工場のPDCAサイクルを連携させることで、環境に適した行動がとれることに加え、想定外の事態にも対処でき、失敗も回避できます」(入江氏)
日本経済には、管理するツールのPDCAだけでなく、創造するツールのOODAループが必要なのかもしれない。
<文・写真/松井克明(八戸学院大学講師、地方財政論)>